012
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私が父さんの養子になれた日、(ご時世、役所もなにもないので口先だけだが)父さんが営んでいる塾というものに連れていかれた。
連れていかれる前、私が持っていた刀は捨てるよう言われ仕方なく捨てていった。いや、仕方なくじゃない。正確には捨てたかった。あんな誰が使ったのかもわからない剣など。
璢「(ここがこの人の居場所…。)」
ぼけェと前を歩いている父さんの背中を見つめる。
璢「(今日からこの人が私の父さん…か。)」
「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね。」
くるりと父さんが私の方を向く。急に振り向く父さんにビクリと肩を震わす私。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。私は何もしません。私はただあなたに武士道を教えたいだけですよ。」
璢「ぶ、武、士道?」
「えぇ。今日からあなたに武士道を教える松陽と申します。」
あなたは?と笑顔で私を見る父さん。
璢「み、美菅、原、璢。」
松「そう、璢ですか。よろしく。」
父さんが握手を求めるように私の前で屈んで右手を出した。
璢「う、うん。」
私は何故だか知らないがこの人は大丈夫だ、と思い右手を握った。
松「さあ。行きましょう。璢も今日からこの塾の生徒になるのですよ。」
璢「……。あなたの娘じゃないの?」
父さん、とはまだ呼びづらかったのであなたとしか言えなかった。
松「娘でもあり、塾生でもある。どちらにしても大切なことには変わりはありません。」
そう笑顔でいい、私の手を握り中へ入っていった。
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