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ドラマや漫画というものは視聴者に夢を見せるために作られたものだとわたしは思っている。
よくドラマや漫画で「帰り道渋谷でデート」とか「スカート短くして街を彷徨う」とか「携帯を持ち歩く」とか高校生はそんなことを許されていない。ちなみに「携帯を持ち歩く」は管理人の県全体が禁止にしていたので他の県の方は問題ないだろう。
そして最も一般的に使えると思っていた屋上。屋上へ行って待ってる、とかいって誰でも入れるよう鍵もかけておらずその場に行き告白されたりしたり。おいおい、青春の塊ではないか。
しかしそんなことわたし達の学校では有り得ない。
銀魂高校の屋上への入口には頑丈な鍵が掛かっている。最近までは開放されていたのだがどこかの生徒がここで喧嘩を追っ始めたので「屋上立ち入り禁止」となった。いやいや、困る。
ガチャガチャ
「......。」
そういえばそんなこと銀ちゃんに教えてもらったな、今思い出したわたしは目の前の頑丈な鍵をガチャガチャと揺らす。
え、開かないの?嘘でしょ?開かないとか嘘だよね?高校生の定番のお昼場所とかいったらここじゃん、屋上じゃん。折角今日天気いいから屋上で食べようって気分だったのに。
ガチャガチャガチャガチャ
「............。」
超高速で鍵を壊そうと動かすがそんな簡単に壊れる品物ではないらしい。ますますイライラが募る。
手に持っていた弁当箱をその場に置き今度は両手でその鍵を引っ張ってみた。
「んぎぎぎぎ!!!」
ガチャガチャッ
響くのは鍵が当たる音とわたしの踏ん張る変な声。想像以上に響いたので少し恥ずかしかった。耳が熱い。
ちょ、本当に開かないの?なんでみんな教えてくれなかったの?あ、でも教室出ていくときに神楽が何か言おうとしてたな。あれ、それ聞かないでここに来たの誰。わたしだよ。
「わ、わたし悪くないもんんんんん!!」
ギギギギィッ
鎖が軋む音が聞こえる。お、これはいけそうかと思ったわたしは片足を扉につけ更に力強く引っ張る。更に軋む音が響いた。
ギギギギィィィィッ
「ちょ!これ行けるかもしんない!!」
「馬鹿か。」
ベシッとなにか硬いようなもので頭を叩かれ力が緩む。尻餅つきそうなところを後ろの何かにポスンと支えてもらった。
顔を上げると見知った顔。
「あ、銀ちゃん。」
「ったく、お前は本当に馬鹿だな。」
そこにはお昼ご飯を持っていた銀ちゃんがいた。彼は呆れた顔でわたしを見ている。さすがにそんなに呆れられた顔をするとやっと自分のしていた馬鹿さがわかってくる。
「だって屋上に行きたくて...。」
「お前は日本語読めなくなったかァ?ここに書いてんだろ「屋上立ち入り禁止」って。」
「でもさ、高校生なんだからさ1回は屋上行きたいよ!青春したいよ!」
「どうして屋上=青春なんだ。青春すんなら他所でやれ。」
そう言って彼は白衣のポケットから鍵を取り出し、あの頑丈な屋上の鍵穴に差し込み回す。その瞬間カチャリと開いた音が聞こえた。彼はいとも簡単に屋上の鍵を開けたのだ。まさに勇者......
じゃなくて、そうではなくて、え?
「じゃあな、お前は余所で食え。」
「いやいや、待て待て。なんで銀ちゃんが屋上の鍵持ってんの?」
「いやいや、俺先生だから。」
「いやいや、先生が生徒差し置いて屋上行くの?」
「いやいや、お前知ってっか?屋上にはな生徒だけを喰らい尽くす魔物がいんだよ。俺そいつ倒してくるだけだから。」
「いやいや、そんな一人で心細いでしょ?わたしもいるから安心しなさい。」
「いやいや、誰がお前みたいなへなちょこハントに連れていくか!!」
「いやいや、いや、てかいやいやうるさい。」
なんてしつこい野郎だ。いいじゃん入れてくれたって。いいじゃん、ドラマの見すぎ漫画の見すぎで屋上に青春物語ってたってさ。いいじゃん。
「とにかくここは立ち入り禁止だ。帰れ。」
「入ろうとしてるやつに言われても説得力ありませーん。」
「俺は先生、お前は生徒。違いがわか「あ、こんなところにいちごみるくが!」」
「どうぞ、お入りくださいお嬢さん。」
ふっ、単純なやつめ。わたしは勝ち誇ったかのような笑みを零し屋上へと足を進めた。
春風がサァッときてわたしの髪を靡かせる。寒くもないとてもちょうど良い風だ。わたしは風を感じる心地よさに目を閉じる。
「きっもちー。」
「はいはい、早くご飯食えよ。」
全くムードもクソもない発言をした銀ちゃんはその場に座り持っていたパンといちごみるく2つを食べ始めていた。わたしもその近くに座りお弁当を広げて食べる。
「銀ちゃんいっつもパンだけ?」
「いちごみるくもあんぞ。」
「それは飲み物でしょ。食べ物の話してんの。」
「え?うん、まぁ、これだけかな。」
「それだけならわたし毎朝弁当作るのに。」
以前も聞いたことある。自分のお弁当を作るついでに銀ちゃんのも作ろうかと。彼は面倒臭いだろうからいいと断りを入れた。別にそんなことないのに。
「でも面倒臭いだろ?」
「別にそんなことないよ。おかずいっつも余るからそれを適当に詰めたら完成だし。」
「でもなァ、」
「ていうかわたしは弁当にしてほしいの!銀ちゃん糖尿病でしょ?」
「予備軍、糖尿病予備軍だっつーの。」
「それでも寸前まできてんだから!」
「えー......。」
「それに銀ちゃんに早死にしてほしくないし!」
そこまで言うと銀ちゃんの死んだ目は更に死んでいく。段々生気を無くしていく。おいおい、ちょっと待てよ。
そしてわたしはわかってきた。弁当を作らなくてもいいというのはわたしが面倒臭いからという理由ではなくて彼が面倒臭いという理由だったのだ。どこまで面倒臭がればいいのだコイツは。
理由がわかった今、何を言って無駄だ。そう思ったわたしはこれ以上何も言わず黙々とご飯を食べようとした。
その時に銀ちゃんは口を開いた。
「じゃあよろしく。」
「は?」
ズゴゴゴーッと紙パックの中身が底を尽いた音がする。その間抜けな音と銀ちゃんの発言に驚く。
「よ、よろしくって...。」
「だから弁当。明日からよろしくな。」
「ど、どうしたの、急に。」
「どっかの誰かさんがしつこいからな。」
「......な、なんじゃそりゃ。」
「それに、」
ふわっ、再び春の風がやってきてわたし達の間を通り過ぎていく。
その時の銀ちゃんのあのふわふわの髪の毛が、綺麗に銀色に輝いて靡く。銀ちゃんの髪はこんなにも綺麗に輝けるんだと思った。
その銀髪が意地悪な笑みをして、わたしを見る。
「どうも俺は愛されてるみてーだし。」
「は!!?」
「だって早死してほしくねェんだろ?」
「いや、え、は!?それ自意識過剰!」
「いやー、俺愛されてるわー。」
「違うっつーの馬鹿天パァァァァ!!!」
スパーンと叩く音が屋上に響いた。
屋上立ち入り禁止
「あれ?金時おまん今日は弁当か?」
「おお、まあな。もじゃもじゃ。」
「お!うまそーな弁当じゃき!どれ、わしも一口...。」
「駄目に決まってんだろォォ!!これは俺の弁当だァァ!!」
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