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「はぁぁぁ!!!」

バシンッ

「やあっ!!」

ドタドタッ



朝早くから高く響き渡る竹刀と竹刀がぶつかり合う音と甲高い叫び声。わたしはそれを横目で見ながら小走りで冷水機のところまで行った。


みなさんお忘れかもしれないがわたしは剣道部のマネージャーである。以前近藤くんから誘われたのがきっかけである。


元々銀ちゃんから面白い部活とは聞いていたので自分から入りたいと言う手間が省けたので楽である。


しかしマネージャーの仕事をわたしは舐めていた。タオルに水分補給用の水、部室の掃除や周りの掃除、さらには怪我人の応急手当等やることがあちこちにある。


本当はデータをとって色々しなくてはならないがそれは剣道部員にそれ担当の係りを決めているためしなくてもいいとのことだった。


それでも仕事は仕事で忙しい。風はまだ涼しいのが幸いで少し体を火照らしながらわたしは剣道場の周りを走っていた。



「姫路野さん!」



わたしをそう呼びかけたのは剣道部員のひとり、山崎くんである。



「なに、崎山くん。」

「なんで説明の時に言えてこの時に言えないの!?まあ、いいや。

実はね、そろそろ水分補給の時間らしいから知らせようと思って。」

「あ、それなら剣道場の入口の横の方に置いてあるよ。まだ足りないなら持っていくけど。」

「そうなんだ!一応不安だからもう少し作ってもらっておいてもいい?」

「わかった!このタオル干してからね!」



山崎くんに背を向けわたしは新たにできた仕事を頭の中にインプットして小走りで干す場所へと行く。


手元にあるタオルを全て干し終えたら、また水分補給用の水やアクエリアスを作るために剣道場まで戻る。そう、意外と忙しいのだマネージャーとは。



「おうおう、頑張ってるじゃないの。若い子は。」

「なんか変態オヤジの発言みたいよ、銀ちゃん。」



ノコノコとやってきたのは一応剣道部顧問の坂田銀八。本当は一緒に練習に参加しなくてはならないのだけど彼がそんな熱血な訳がなく朝練は大遅刻で登場。



「わたし忙しいの。早く剣道場行ってね。」

「気が向いたらな。」

「朝練に来ない顧問ってどうかと思う。だから早く行け天パ。」

「...最近扱いひどくね?」



へいへいわかりましたぁ、とやる気のない返事をしてその場を立ち去る。その返事に少しイラッとしたがそれどころではない。


わたしは水道のところへと走っていった。














ーーーーーーーーー......



「ふぁぁぁ。疲れたぁぁ。」



バタンとチャイムギリギリの教室に駆け込み、机にぶっ倒れる。これがわたしの朝の日課だ。


しかしあれだけ辛い思いをしているのだ。走ったり走ったり走ったり。もしかしたら痩せているかもしれない。頬を自分でギュッと抓ってみた。



「......変わんない気がする。」

「おい、不細工な顔してんぞ。」



そう言ったのは風紀副委員長でもあり剣道部副部長の土方十四郎であった。彼は先程教室についたのか鞄を持っていた。だけど息が乱れていない。さすが剣道部。



「別に、ただ頬が痩せてるかなって触っただけだもん。」

「大丈夫だ、いつも通り。」

「それが嫌なのにー。」

「痩せてーのか?」

「無理して痩せたくはないけど、部活の時あんだけ走ってんだから少し痩せてればなって思っただけ。」

「なんだそりゃ。」



鼻でハッとひとつ笑う。なんか小馬鹿にされたみたいで少し腹が立つ。わたしは彼を下から見上げるように睨んだ。


そんな彼は私の方を見ずに、口を開く。



「毎朝、ご苦労さん。」



ポンッと頭にゴツゴツした手を置き、彼はすぐに席の方へと行ってしまった。


わたしは一体何が起こったのかすぐにはわからなかったが、数秒後理解できた。いつもの頑張りをわたしは鬼の副部長の異名を持つあの人に褒められたのだ。


わたしの頑張りは他の人も理解してくれてる。そう思うと不思議と明日も頑張れる気がした。


その時ガラッという音を立てて入ってきたのは銀ちゃん。朝会った時と変わらず怠そうな表情。



「てめーらは毎度毎度騒がしーな。発情期通り越してんじゃねェか......、て凛華。何ニヤニヤしてんだ。」

「べっつにー。いいから早く始めてよ。」

「...はいはい。」



青空の中、羽根をめいいっぱい広げて飛ぶ鳥を見て清々しい気持ちになれた。


今日も一日頑張れそう。







朝練



「姫路野、今日機嫌いいねィ。」

「うん!今日も部活頑張って仕事するから!」

「...なんかやる気のある姫路野って怖ェ。」

「え、なにそれ。どういうことよ。」



 
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