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「歩くの面倒臭い。」
そう思ったのはつい数分前のことである。
別に自分の足が重いからとか昨日走り回ったせいで筋肉痛で足が動かないとか、そんなこと誰も言っていない。断固言っていない。
とにかく今日は地に足をつけることすら面倒臭く、さらにその足を引き摺るように歩くのも面倒臭い。
学校を休むという選択肢もあるが今の学校は今までとは違い毎日が充実している。
あっちの学校はわたしのジョークが通じないしみんなわたしのことを苛めてくるし(まぁ、それなりに楽しいクラスではあったが)。
そんな楽しい時期に学校など休めない。わたしはぶつぶつ文句を言いながらも足を引き摺るように学校へと歩いていっていた。
わたしが居候している銀ちゃんの家から学校まで徒歩20分。これぐらいの距離なら徒歩でも大丈夫だろうということで歩いて通っている。
因みに銀ちゃんは愛車スクーターで風を感じながら通っているそうだ。(この前自慢気に語っていた)
歩きながら横を通りすぎていく自転車を見る。いいな、風気持ち良さそう。
わたしの横を自転車がまたひとつ、ひとつと通りすぎていく。それを羨ましそうにわたしは見ていた。
シャーッ
「あ、姫路野。」
知っている声が後ろからかかる。振り返るとそこには自転車に跨がった沖田がいた。
「おはよ。」
「はよ。朝から怠そうな歩き方してるねィ。」
沖田は自転車に跨がったままわたしの横につき速度を合わしてくれる。
「だって足怠いんだもん。」
「やれやれ。これだから運動不足は。」
「ちょ、なんでわたしが運動不足って知ってるの?」
「見ればわかりやす。」
「......どこ見ればわかるのよ!この幼児体型か!このドラム缶体型か!」
「それ、自分で言ってて悲しくねーかィ?」
「はい、悲しいですちくしょー。」
でも体型を否定してくれない沖田に傷つきながら、ちらりと乗り物に目をやる。
そしてある決心をした。
「ねぇ、乗せてよ。」
「は?」
拍子抜けた顔をした沖田がこちらを向いた。それでもわたしは言葉を続けた。
「今日一日でいいからさ、乗せてよ。」
「......えー。」
「お願い!」
「......タダで乗せるのもねィ。」
「あ、じゃあ何か好きな食べ物買うよ!」
「食べ物?」
「そう!売店限定のプリンとかシュークリームとか。あ、あれもあるよ。伝説のスーパー黄金カレー奢るし!」
「......。」
「お願いしますー!沖田ー!」
手を合わせて彼を拝む。というか足がもう限界。早く乗せてください!
はあ、と溜め息をつく音がする。するとキキィと少し錆びた音がした。沖田の乗っていた自転車が止まったのだ。
「...焼きそばパン、買ってこいよ。」
「う、うん!」
仕方ないという顔で彼は顎で後ろ席をさす。わたしは迷いなく後ろに乗った。乗った瞬間自転車はカシャンと音をたてた。
なんだか新鮮な感じがした。
「げっ、重てェ。」
「ちょっと!そこは嘘でも軽いって言ってよ!」
「......ワー、カルイデスー。」
「ほ、本当に嘘っぽいな。」
「はっ、冗談冗談。」
「どれが?始めが終わりが?」
「全て。」
「ど、どういうこ「しっかり掴まってろィ。」」
腕をぐっと引っ張られ沖田の背中に密着する。手はお腹の部分のシャツを掴むように指示されたのでぎゅっと掴む。
まだ、初夏にも入っていないこの季節。体が火照り背中からは汗がたらりと垂れてきた。そんな時に感じる風は新鮮なもので、心地よかった。
「いいなぁ、自転車通学。」
そう呟くと前から「いいだろィ。」と意地悪な返答が返ってきた。
自転車通学
「っち、姫路野。降りろ。」
「え?は?ちょ、な、なんで?」
「...やっぱり、しっかり掴まってろィ。」
「はい?どっちなの、よ、ォ!?」
「コラァァァ!総悟!姫路野!二人乗りすんなァァァ!」
「ぎゃああああ土方ァァァ!」
「待ちやがれェェェェ!」
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