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「......はぁ。」
溜め息が出る銀ちゃんの授業にヘドが出るゲボが出る。ごめん、最後だけは嘘です。とにかくそれぐらいテンションが低く女子高生風に言えば「萎え」ている。あれ、わたし女子高生じゃん。
「......ふぁぁぁ。」
また出た大きな溜め息。そう言えば「溜め息をついた分だけ幸せが逃げる」とかなんとか誰かが言ってたっけ。つか逃げる程の幸せがわたしの中にあるのかな。
頬杖をついて窓から外を眺める。空はどんよりと曇っており風も少し強い。あ、たしか天気予報で言ったな。今日は春の嵐だとか。なんだよそれ初めて聞いたぞ。
その春の嵐とかのせいで朝必死に直した寝癖が再発している。ちょ、そこ跳ねる場所じゃないし。勘弁してくださいよ。
右斜め上にそれはある。これのせいで今日は一段とブルー。せっかく直ったと思ったのに。憎たらしく跳ねたやつを鏡なしで触る。それは確かに存在していた。
「もう。」
ぐっと押さえるが収まる気がしない。ぴょこん、そんな効果音が聞こえてきそうな感じに跳ねる。あー、なんでわたしは寝癖直しセットを持ってこなかったのか。あれもこれも春の嵐のせいだ。
ちょんちょん
背中を優しめに叩かれたが生憎今はそんな振り向いて笑顔で「なあに?」と言える気分ではない。後ろの人には悪いが無視をした。
ちょんちょん
「......。」
ちょんちょんちょん
「......(イラッ)。」
ちょんちょんちょんちょん
「......(ビキッ)。」
バシンッ
「いたああああ!!?」
突然の背中の痛みにガタンと大きな音を立てて席を立って表現。夢の中をウロウロしていたみんなの目線は一気にわたしに向いた。
「んだ凛華。質問か?」
「い、いや。なんでもない。」
つかいい加減名前で呼ぶなよ。仮にも先生と生徒だよ?あとジャンプを読んでいる授業に一体どんな質問をしたらいんだ!
ツッコミを全て飲み込んで後ろを向いた。そこにはニヤニヤしながらわたしを見る鬼という名の沖田がいた。そいつを睨む。
「痛かったんですけど。」
「呼んでも無視するからだろィ。」
「ていうか席後ろじゃなかったよね?」
「ザキと替わった。」
「もう一回替わって。」
「嫌だ。」
なんて可哀想ななんとか崎くん(忘れた)。哀れむよ本当にそしてわたしのことも哀れんで。いや、哀れむなら金をくれ。
「というかなんの用?」
「なんでそんなにイライラしてんでィ。」
「今日萎えてるの。それはそれはわかりやすく萎えてるのわかる?」
「わかんね。」
「あんた感情あるよね大丈夫よね?」
「なんの心配してんでィ。」
「君の脳の中には空気を読むという言葉があるかな。」
頼むから今日一日はそっとしといて。寝癖まじで頑張って直したのに崩した春の嵐が止むまでは。
「気になる。」
「なにが。」
じっと見た後、机にだらーんと伏せていた体を起こし頭を押さえるわたしの手を掴んだ。
「これ。」
そういって手を下ろさせ再び出された「寝癖」。わたしの気分は一気に急降下した。ああ、今日一番の最悪な時間だ。
「これ?あー、うん。ははっ。」
「寝癖?」
「あー、ははっ。どう見たってそうですよねー。」
「ふーん。」
そう言って彼はもの珍しくぴょこぴょこと指で弾いたり引っ張ったりして遊ぶ。
「ちょ、触らないでよ。」
「いいじゃねーかィ。減るモンじゃねーだろ。」
「止めてよ、結構気にしてんだからこの寝癖。」
遊ぶ沖田を止めようとするが彼は止める気はなく、ただ無表情のままいじっていた。
「おもしれーなコレ。」
「左様ですかァ。」
「ウサギみてーにぴょこぴょこしてらァ。」
「左様ですかー。」
「可愛らしいねィ。」
「左様......はい?」
今、なんか聞こえた。確実になにか聞こえたぞ。なんだってコノヤロー?
「は、い?」
「だから可愛らしい、て言ったんでィ。」
耳の錯覚、つまり空耳かと疑っていたがそうではなかったらしい。そんなことサラッと言えるコイツは女たらしか或いは女使いか。なんて恐ろしいやつだ。そしてその言葉に喜んでいるわたしは馬鹿。
「なんか、ウサギみてーだな。」
「......左様ですかー。」
フッと笑いながらもまだ寝癖をつつく彼を横目に空を眺めた。空は既に晴れて風も弱まっていた。
ブルー・デイ
「......いつまでつつくのよ。」
「授業が終わるまで。」
「やっぱり暇潰しか。」
「それ以外に何があるんでィ。」
「(やっぱりコイツは女を落とす天才だなー。)」
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