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「でさァ、そいつに俺が言ったわけよ。馬鹿じゃねーのって。女に痛い目合わされないとわかんねーのかってよ。」
「きゃァァァァ!!!さすが銀ちゃん良いこと言う!!!」
「え、そう?やべ超照れる。あ、これお前にしか言ってねーから。」
「ほ、ほんと?」
「あたりめーだろ。お前にしかこんな面白いこと話さねーよ。なんたってお前は特別だからな。」
「......ド、ドンペリもう一本んんんん!!!」
「ははっ。ありがとな。」
「そ、そんな!!!銀ちゃんのためだもん!!!」
こんな会話(口説き)が日常茶飯事なこととは知らずに高いドンペリを頼む醜い女客たち。相変わらずの間抜けというかなんというか。もう哀れを通り越して呆れてた。
はあ、と溜め息をつく。組んでいた足を直して手に持っていたグラスをテーブルに置いて、再び溜め息。
「ちょっと、隣で溜め息ばっかつくの止めてよ。」
怪訝な顔で俺を見るのはこの前の毒舌女。そう、またこの店に来たのだ。
「いいじゃねーかィ、俺の自由でィ。」
「隣でハアハア言われたら酒が不味くなる。」
「ハアハアはただの変態親父でィ。」
「じゃあお前は変態親父だ。」
「俺はまだぴちぴちの18歳でさァ。加齢臭振り撒くやつと同じ扱いしねーでくだせェ。」
「え、18なの?未成年が本当にここで働いてんだ。」
「ただ誘われたからやってるだけでィ。ほら、俺顔いいから。」
「まあ、確かにね。」
凛華はちょくちょく店に来るようになった。まああの友達に付き合わされているらしいが。どうやら友達とやらは土方コノヤローが気に入ったらしい。だからこうしてお金があればここに来る。凛華も連れられて。
それから俺達は少しずつ話すようになってついこの間やっと隣で酒を飲むことを許された。正直その時は裏でガッツポーズをした。なぜかよくわからないが。
「凛華は、暇なんですねィ。」
「はあ?なんでいきなり?」
「だってこうしてここに飲みに来れるくれェだから。」
「うーん、言われてみれば暇人よね。」
でも、そう言いかけた凛華の顔はなんだか女らしくてびっくりした。
「わたしも一応仕事あるのよ。」
「昼間?」
「昼間と、夜かな。」
カラン、と溶けた氷がグラスの中で音を立てて崩れる。その音が妙に響いた感じがした。
そういえば俺は凛華が何の仕事をしているのか聞いたことがない。いつも聞こうとしたら上手く交わされるのだ。
「じゃあ本当は今頃も仕事じゃねーかィ。」
「そうなんだけどねー。」
ちらっと友達の方を見ては溜め息。
「あいつとは昔からの仲だからさ、誘い断れないの。」
「仕事サボってまでかィ。」
「早退してきたのー。」
それに、そう言って俺の方を下から覗くように見る。この顔の角度、いい感じだ。
「あんたと話すの楽しいから。」
今度は子供っぽい笑みでニカッと俺に笑い掛けてきた。それがなんだかものすごく可愛くて照れて下を向いてしまった。
「え?嫌なの?」
「......別に、お客様は神様ですからねィ。」
「そのお客様はドンペリを頼む人でしょ?」
「だったらあんたは客じゃないねィ。」
「ははっ、確かに!」
そう笑ってテーブルに置いてある安い酒瓶を掴みグラスに注ぐ。まあ安いと言っても3、4万は軽く飛ぶが。
「ねぇ。」
「なんでィ。」
「後ろ。」
そう言われて振り向いたら影の薄い山崎が立っていた。
「なんでィ山崎。」
「お楽しみのところすみません。沖田さん指名が。」
「チッ。」
「あら、別にいいわよ。他のところいっても。」
ぐいっとお酒を仰ぐ。
「別に指名してたわけじゃないし。」
そう言った凛華の瞳は獲物を睨み怯ませるような強い目力をしていた。俺はその瞳を見下ろすように見る。
「......今のうちだぜィ、その強気。」
そう一言はいてオロオロする山崎に客のところへ案内させた。背中には視線が突き刺さっていた。
挑発するその瞳を相手に
「......こっちの台詞よ馬鹿。」
「(お前は、俺が飽きるまで遊んでやるよ。)」
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