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光輝くネオンの街。俺は今日も気だるそうに通り抜け店へと目指し歩いていく。
「おはよーごぜえやす。」
「もう夜ですよ、沖田さん。」
今日は昨日より早めに来れたらしい。その証拠に客がいつもより少なかった。
「なんでィ早く来ちまった。」
「この時間でも遅刻なのにですか?」
明日からはもう少し遅めに出よう。そう決心してロッカールームへと進んでいく。
いつもと同じようにジャケットに腕を通して薔薇を胸ポケットに入れて、あぁ、あとはロッカーに入れっぱなしの焼きそばパンをそろそろ捨てて。
そうしたら準備は完了。軽い足取りでお店の表舞台へと歩いていく。その途中で旦那とすれちがった。
「あ、総一郎くんじゃーん。今日は早いね。」
「総悟です旦那ァ。いい加減覚えてくだせェ。」
「まあまあ。ところでよ、」
ニヤニヤしながら肩を掴まれる。俺は肩を払い低い声で問いかけた。
「なんですかィ?」
「今さ、すげー面白ェ客がいんの。」
「......へェ?面白い客?」
「そ。ガードが固い毒舌な客さん。」
最近濃い化粧して香水プンプン振り撒いて肌を露出した女共しか相手にしていない俺にとってはなんともありがたい話だ。
「そりゃァ面白ェや。」
「だろ?少し行ってみな。今誰もいねーから。」
そう言ってひらひら手を振って去る旦那。
「旦那どこ行くんでィ。」
「あー?小便だよ小便。」
「小便するならこっち側ですぜィ。」
旦那が行こうとしていた反対の道をわざわざ指差してやる。ちなみに旦那が行こうとしている方は休憩室がある場所だ。
「......こっちに俺専用の厠があんの。」
「へィへィ、サボりも程々にしてくだせェよ。」
「総一郎くんに言われても説得力ねーな。」
「どうも。」
お互い台詞を吐きそれぞれ違う方向へと歩き出した。
俺の足取りは少し早くなる。先程聞いた「ガードが固い毒舌の客」が気になるのだ。
「楽しみだねィ。」
本当、顔のにやけが押さえきれないくらい。
ーーーーーーーーーー......
「あ、沖田さん少し遅かったですね。」
ホールに行けばドンペリをお盆に乗せて運ぶザキが声を掛けてきた。
「ザキ、例の客はどれでさァ。」
「例の客?......あぁ、あの人ですね。」
「例の客」という単語で理解できたらしい。ザキは端の席の方でちょこんと座ってお酒をちびちび飲んでいる女に目を向けた。
「行ってくらァ。」
「え?彼女、今誰も指名していませんよ。」
「関係ねェ。」
ズカズカと大幅で歩き彼女の元へと向かった。彼女は気づかないのか未だにちびちびお酒を飲んでいた。
「ようこそ、Silver Hostへ。」
そう声を掛けてやると大袈裟かってくらい飛び跳ねる肩。そしてゆっくりとこちらを向く。
「......え、未成年がこんなところで働いていいの?」
それが彼女が初めて俺に発しただった。言い忘れたが本物のドSはかなり打たれ弱い。勿論心臓に突き刺さると同時ににやける。
「第一声がそれかィ。」
「あ、ちょ。」
無理矢理に彼女の横に座る。怪訝そうな顔をしながら横にずれた。
「名前、なんて言うんでィ?」
「相手の名前を知りたかったらまず自分から名乗りなさいよ。」
ごもっとも。
ツンと横を向いた彼女の肩を抱き寄せ耳元で囁く。
「沖田総悟。」
「!!!?」
「ちゃんと、覚えてくだせェよ。」
そう言って営業スマイル。ちなみに何人かの馬鹿女はこれをしたら一気に落ちてドンペリを追加する。
今回もそれと同じことをした、はずなのに。
「なに気色悪い!耳元で言わなくても聞こえるわよ馬鹿!!」
「ありゃりゃ残念。」
そこらの馬鹿女とはひと味違うらしい。これはこれで面白い。
「大体さっきの愛想笑い、すごく寒気がするほど不気味。もう少しなんとかしたら?」
「......へェー。あんた我が強いねィ。」
「そこら辺の馬鹿女と同じ扱いしないで。」
そう言ってテーブルの上に置いてあるドンペリをコップに入れる。そしてそれを彼女は一気に中へ入れていく。
「......随分な飲みっぷりだねィ。あ、えーと、」
「姫路野凛華。」
再びコップへ注ぐ彼女から口にした言葉。俺もさりげなくコップを近付けたら注いでくれた。それを少し口に含む。
「凛華、かィ。」
「いきなり客を呼び捨てだなんていい度胸してる。」
「これが俺流なんでィ。」
あー、猫被るのもいい加減疲れた。少しだらける。
「ところで凛華はどうしてここに来たんでィ。」
「......友達と来た。」
眉間に皺を寄せながら顎で指した所には土方コノヤローと仲良く話しているこれまたいい馬鹿女の例がいた。
「いい飲み屋があるっていうから着いてきたらこうなった。」
「あららァ。」
自ら望んで来た訳じゃないんだねィ。なんて哀れな女だ。
「今、わたしのこと哀れな女とか思ったでしょ?」
「あんたもしかしてエスパー?」
「少しは否定しろよ。」
「否定したところで分かるだろィ、どうせ。」
「どうせ、ね。」
また空になったコップに溢れるほどの酒を注いでいく。その注いでいる瓶をとり俺が彼女のコップに注いでやった。彼女はいきなりすぎてされるがまま。
「ま、楽しみやしょうや。」
すると、彼女は一言俺にぶつけた。
「嫌、消えて。」
ひねくれた来客
「なんかそういうのマジ要らないから消えて。」
「いいじゃねェかィ別に。おら飲め飲め。」
「ちょっ!わたしはわたしのペースで飲みたいの!こんの童顔!」
「......面白いほどナメた奴でィ。」
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