( 2/2 ) あれから数日経った現在。 真撰組の空気は変わらず男臭い。そして総悟とわたしの関係はただの「同期隊長」と格下げされた。 格下げしたのは自分なのに胸を痛めるのは最低なことだ。 そんな気も知らないでいつも通りの日常が回る。いつも通りの見回り、デスクワーク、食事、風呂、睡眠。 なにも、なーにも変わらない日常が過ぎていっていた。 「トシ、例の書類出来上がりました。」 「あ、あぁ、悪ィな。」 と、キョロキョロ辺りを見回すトシ。なんだか落ち着きがない。 「どうしました?」 「いや、凛華と話してるとバズーカが飛んできて、」 「あぁ、それなら二度と来ないですよ。」 「......どういうことだ?」 あー、もう鈍い人だな。言われなくても察してほしい。 「別れました先日。」 「......本当か?」 「嘘ついてなんの利益があるんですか。」 「ま、まじか。」 「まじです。」 固まるトシの横に置いてある書類を半分抱え立ち上がる。 「総悟には、もっと自分を大切にしてほしいんです、よっと。」 「......たしかに今のあいつは命知らずのところがあるな。」 苦笑いしながら書類を書いていく。それは真撰組のデータでそこに「総悟(危)」とトシは書き足す。 「大好きなやつだからこそ死に際なんて見たくない。自分より長生きしてほしい。そのためならわたしは道化師にすらなれるんですよ。」 そんな女です、そう付け加えると男よりも男らしいと言われた。それは褒められているのだろうか? 「じゃあトシ、総悟のこと宜しく頼みましたよ。」 「そこは同期のお前が面倒を見るんじゃねーのか?」 「......トシ、知っていますか?」 「あぁ?」 障子の隙間から顔を覗かせ、言った。 「道化師の仮面は剥がれやすいんです。」 ーーーーーーーーー...... 机に向かい早3時間、さすがに腰も足も手も目も限界だ。怠く思い体を後ろに倒す。 「......。」 やっぱりわたしは上京すべきではなかった。総悟についてくとかそんな甘い考えで行くべきではなかった。 そんな甘い考えがあったから総悟を危険な目に遭わせた。 実際私たちは同期同期と言われているが年はわたしの方が2個上。ちなみにトシより何個か下だから呼び捨てだけど敬語で話してる。 武州にいる頃、ミツバさんに教えてもらったこの気持ち。こんなの知らない方がよかったわ。 けどその気持ちを知って総悟に触れたら好きって気持ちが尚更溢れ出して止まらなくて。 目を閉じてもあの憎たらしい笑顔、上唇と鼻をくっつける横顔、眉間に皺が寄る癖が全部全部甦ってきて。 「......っ!」 わたしを壊していくの。 「ぅ、ぁぁっ。」 ねえ、やっぱり別れなければとか全部総悟のためとか考えてるわたしはズルいよね。 それに別れた今でもさ、総悟と愛し合ったあの日々を忘れてないんだ。 「......総、悟ォ。」 やっぱりこの仮面、苦しいよ。 その刹那、 「凛華?」 障子の奥から声がする愛しの声。わたしは気づかれないよう必死に声を殺した。 「喋んなくてもいいから、聞いてくだせェ。」 「......。」 「俺はまだまだ餓鬼でィ。自分でもわかってる。」 「......。」 「正直凛華が別れてー気持ちもわかりまさァ。」 「そ......っ!」 そんなことない!そう否定したいけど今そんなことしたら今までの我慢が全て水の泡だ。 「けど餓鬼が餓鬼のまんまなわけないんでィ。」 「?」 「俺が、俺が体も気持ちも今よりもっともっと大人になったらよ、」 「......。」 「もう1回でいい、俺と付き合ってくれィ。」 「!!?」 「それまで、暫しの我慢対決でさァ。」 「〜〜〜っ、」 「じゃ。」 ドダドダと縁側を歩いていく音を聞いてわたしはまた涙を流した。 道化師の仮面はまだ被ったままで。 からくりピエロ あの頃の私たちはまだ子供だったんだ。 自分が我慢すれば相手が幸せになる、そう思っていた。 そんな考え間違っていたって気づいたのは、お互いの気持ちが今より大人になった時だった。 BGM:初音ミク 「からくりピエロ」 |