( 2/2 ) 場所はうってかわって化学準備室前。 あれからわたしはお昼(卵焼き抜き)を食べ終え神楽を置いてここへとやってきた。本当は神楽もついていくと言っていたがそれは遠慮してもらった。 コンコン 「沖田先生失礼します。」 扉の奥から怠そうな声が聞こえたのを合図にドアを開け中に入る。 「遅かったじゃねーかィ。」 椅子に跨がりぶすっとした顔の先生がいた。なんだかわたしより幼い感じに見えて笑えてきた。 「......なに笑ってんでィ。」 「いや、沖田先生がなんか、可愛いなって。」 すると急にぐいっと腕を引っ張られる。わたしと沖田先生の距離は先程よりも縮まった。 「今はふたりっきりなんですけどねィ。」 「でも、学校ですから。」 「でも今はふたりきり。」 「でも......。」 「ふたりきり。」 「......わかったよ、総悟。」 よくできました、と優しく笑って頭を撫でる。わたしはこれが大好きだ。 実は沖田先生とわたしは秘密の関係にある。それはあの噂の禁断の恋とかなんたらのやつの類い。しかしそんなバレる危険性などもないままもう2年は経っている。 付き合い出したのは沖田先生が就任してきた一昨年の春。お互い一目惚れで危険性を感じずに付き合い出した。今年の春で3年目だ。 「今日の卵焼き、甘かった。」 「甘すぎた?」 「......いや、ちょうどいい甘さだった。」 「よかった。」 こんな他愛もない話をお昼や放課後話している。この時間が一番好きなわたしはこのために学校に来ているといっても過言ではない。 「凛華。」 ふいに呼ばれた名前に少し心臓が跳ねる。2年経った今でも慣れないわたし。 総悟は手を引っ張ってわたしを足の間に座らせた。そして逃げないようにと後ろからぎゅっと抱き締める。 「もうすぐ卒業だねィ。」 「本当だね。」 「凛華は○○大学に行くんだろィ?」 「うん、叶えたい夢があるから。」 そっかァ、と耳元で話され少し肩が上がる。 「卒業したら、一緒に住みてーな。」 「いいねそれ、総悟の家大学近いし。」 「......そうだねィ。」 ぐりぐりと首元に顔を埋める。さらさらの髪の毛がくすぐったい。 「どうしたの?」 「......別に。」 「?変なの。」 さらさらと流れる髪を優しく撫でると、きゅっと抱き締める力が強くなった。 「早く卒業しろよ。」 そしたら、 「境界線、無くなるのにね。」 そうやって笑ったら奴も微笑んだ。お互い考えていたことが一緒だったらしい。 ふっと肩に重みがなくなるのを不思議に思い顔を後ろに向けると、 ちゅっ 不意打ちのキスをされた。 「だから総悟ここ学校っ。」 「いいんでィ、別に。」 「よくないよー。」 「したくなったからする、これ俺のモットー。」 「少しは我慢を覚えなさい。」 「やだ。」 「子供か。」 「立派な大人でィ、嘗めんじゃねーやィ。」 「はいはい。」 とその時、鳴る学校の鐘。午後の授業が始まるチャイムだ。 「やばい、早く行かないと。」 総悟の腕を払いわたしはドアに手を掛けた。 「凛華。」 「なに?」 「......次は俺の弁当も作ってこいよ。」 いきなりのことで目が点になる。しかし顔真っ赤にして言う総悟を見て、笑った。 「花嫁修行の一貫として、頑張ってくるよ。」 そう言ったら嬉しそうに微笑む総悟を見て、午後も頑張れる気がする。わたしは上機嫌で廊下を歩いていった。 近距離恋愛事情 「凛華遅かったネ?」 「うん、ちょっとね。」 「かなりご機嫌アルナ。」 「うん、うふふ。」 「?」 この幸せな気持ちは、わたしだけのもの。 お題:瑠璃様 |