俺には最近の男子高校生の考え方がよくわからない。 男子はとにかくモテようと女子に優しくしたりカッコつけたりする。大半はそれがバレて更に好感度を下げる。馬鹿な野郎共でィ。 そしてその男子たちの努力が実となる日、つまりモテるかわかる日がある。それが世間で騒がれているバレンタインというやつ。 男子は目をギラギラさせながらチョコを待ち構えている。俺はその行動がよくわからなくてイライラして舌打ちする。 今日はいつも以上にイライラしながら廊下を歩いていた。理由は勿論少女漫画でありがちな「下駄箱に大量のチョコ」事件が発生したからだ。ちなみにそのチョコ達はそのまま放置。だっていらねーし、つか直接渡す勇気ねーなら最初から渡すなってんでィ。 あぁ、むしゃくしゃする。 ガラッ 重たいドアを開けたら広がる甘ったるいチョコの匂い。その匂いにしかめっ面になりながらも中へ入っていく。 「あ、沖田おはっ。」 そう挨拶してきたのは隣の席の姫路野凛華。よく趣味合うし話も弾んで楽しい。コイツといる時が一番楽かもしんねーな。 「......はよ。」 「なになに元気ないじゃん?」 「この匂いでわかるだろィ。」 「......あー、今日バレンタインだもんね。」 頬杖ついてハハッと苦笑い。俺も自分の席に座りだらけた。 「ったく、いい迷惑でィ。」 「え、男の子って普通嬉しがるんじゃないの?チョコもらったら。」 「大半はな。俺はそん中に入ってねーやィ。」 「甘いものが嫌いとか?」 「......普通に食える。」 「じゃ、じゃあどうして?」 俺は姫路野の方を無表情で見た。彼女は何故かいつも以上に焦っている気がした、理由はよくわからないが。そんなイライラ絶好調の時に口を滑らした。 「姫路野には関係ねーよ。」 溜め息混じりに答えた。 「そ、そーだよ、ね。......なんか悪いね不機嫌の時に探る真似して。」 彼女はひどく、傷ついた顔をしていた。俺はそれがなぜだったかよくわからなかった。だから驚いて声も出ない。 「っ。」 「おーい席につけェ。あ、ちなみに銀さんにチョコ持ってきた奴は前に来なさーい。」 いいタイミングなのか悪いタイミングなのか旦那が入ってくる。騒いでいたやつらも席に座る。俺たちの会話も自然にそこで途切れた。 心残りがありすぎて、なんか余計にイライラした。 ーーーーーーーーーー...... むしゃくしゃは放課後までも収まらず自動販売機の近くで缶を蹴りイライラを解消していた。 「あー、くそっ。」 今何時だ、と時間を調べようとポケットに手を突っ込んだ、が携帯に辿り着けない。 「あ。」 そういえば机の中に入れっぱなしだった気がする。あー、なんで机に入れたんだ俺。 俺は教室へと足を進めた。 教室へと行く途中何人かのやつに行く手を阻まれる。 「あの沖田く「いらね。」」 「沖田くんチョ「消えろ。」」 「お「うぜェ。」」 やつらの話なんて最後まで聞かない。どうせ口を開けばチョコチョコチョコ。いい加減うざったいあんたらなんかに興味はない。 その時ふと思い浮かんだ姫路野の顔。そういえば俺あいつの笑った顔しか見たことなかったな。だから今朝のは本当に驚いたと同時に疑問がある。 なんでそんな顔をしたんだ? 教室の扉まであと数センチ。そしてドアに手を掛けた時だった。 「......ぐすん。」 泣き声が聞こえてぴたりと体が固まる。気がつけば扉の隙間から覗いていた。そこにいたのはいつものおちゃらけた様子が全く見られない姫路野がいた。 彼女は机に置いてある箱に涙をポタポタと垂らしていた。抑えようと必死に袖で目を覆い、けど止められなくて華奢な体が震える。 「うっ、ひっく。あぁぁあ、もう!」 今度はどこで血迷ったのか自分の頬をぎゅっとつねり、そして箱に手を掛けた。シュルッとといたリボンの箱の中身はチョコだった。 そしてそれを掴み、口の中に放り込む。 「......今年はあげたかったな。」 「誰にでィ。」 「!!?」 気がつけば勝手に動く体。俺は真っ直ぐ姫路野のところまで行き、机を勢いよく叩いた。姫路野はびっくりしているのか肩を震わしてこちらを見ている。 「お、沖田いたんだ。声掛けてくれればよかったのに。」 「違ェだろ。」 何故こんなにイライラしてるのかもわからない。そもそもなんでこんな問い詰めているのかもわからない。わからないことだらけ。 「......なにが?」 「わかってんだろィ。」 誰に、と低く呟く。 「別に、誰だっていいじゃん。沖田に関係無いもん。」 ズキンと痛む心臓。そして甦る今朝の俺の言葉。 「姫路野には関係ねーよ。」 あぁ、俺はこんなにもひどく傷つく言葉をこいつに突き刺したんだ。なんで気づいてやれなかったんだ。そっと姫路野の頬を手で撫でる。 「......悪ィ。」 「なにが?」 「今朝、お前傷つけて、」 悪ィ、そう言った後下を向いた。情けなくて申し訳なくて顔なんて見れなかったから。 すると手に重なる暖かな感じ。顔をあげると、 「っ!?」 ドアップの姫路野の顔と唇に暖かな柔らかな感触。なにが起こったのかわかなくて目をパチパチさせていた。 唇が離れ、彼女が口を開いた。 「鈍感、沖田鈍感すぎる。」 「は?」 そして目の前に差し出される3本の指。 「3年、3年貴方を異性として想ってた。」 「......え?」 「初めはなんでこんな顔がかっこいいだけのドSとか思ったけど、沢山話してみて時々不器用だったり変わった考え方だったり、なんか、惹かれた。」 そう話す姫路野の顔は茹でダコみたいに真っ赤で。 「キ、キスについては謝んない。沖田が悪いんだから。」 ガタッ、箱を持って席を立つ。教室の隅にあるゴミ箱の前まで行き、 「ばいばい。」 捨てようとした。 「待て!!!!」 捨てようとした箱を勢いよく掴み、水平に保たせた。 「そのチョコ、誰のでィ。」 「まだその質問?気づきなさいよ。」 沖田の。 そう言わせた後、俺は姫路野に口づけをしてやった。甘くほろ苦いチョコの味が広がった。 唇から伝染する 「さて、帰りやすか。」 「......え、あの、どゆこと?え?」 「姫路野。」 「は、はい?」 「チョコ、ありがとな。」 「......そ、そう言われると期待するからやめて。」 「ならもう一回キスしてやろーか?」 「......え、つまり?っん。」 「.......なんか、好き、みてーでさァ。」 |