2月14日。


それは殉教死したローマの司祭、聖バレンタインの記念日である。この日に何故か知らないが愛する人に贈り物をする。外国では男性が薔薇やカードをもって女性にプレゼントをする。


しかし日本は逆で女性から愛する人にプレゼントという名のチョコレートを送る。一応逆チョコといって男性が女性に贈るものもあるが極一部の例だ。男性は目をギラギラさせながら待ち構えている。


そんなバレンタインで賑わうデパート内でわたしはしかめっ面をしながら買い物をしていた。勿論バレンタインの物を買いに、だ。


しかし今わたしは窮地に立たされている。それはもう泣くことも忘れるぐらいの窮地。


「......はぁ。」


キラキラピンク色に輝くバレンタインコーナーを横目で見ながらその場を通りすぎた。


とぼとぼと家へ帰る道を歩いていると、今日聞いた話が頭の中へと響いた。


「土方くんってね、チョコ嫌いなんだって!なんか嫌いなやつ思い出すらしいから吐き気がするらしいよ!」


じゃあそんなにモテんなよ馬鹿かコノヤロー。しかも嫌いなやつってどうせ銀八でしょ?あいつ甘いもの大好きだもんね!


でもこれを聞いててよかった。もう少ししたらチョコを苦い顔しながら渡してたかもしれない。


ご察しの通りわたしは同じクラスの土方コノヤローくんが好きなんです、はい。初めは瞳孔開き過ぎてて可哀想な人としか思ってなかったけど、まあ、剣道している姿は文句なしのかっこよさで。乙女心やられました。


と、まあこんな状況なわけですよ全国の乙女さん。姫路野凛華、今年のバレンタインはどうやって乗りきりましょうか。


「......はぁぁ。」


「なにでけェ溜め息ついてんだ。」


「ぎゃっ!?」


肩にぽんと手を置かれ思わず叫ぶ。後ろを振り替えるとなんとなんと噂の土方コノヤローがいました。部活帰りなのか竹刀を背負っている。


「女らしくねー叫びだな。」


「い、いいの!変に猫被ってるよりも素の方がいいし!」


「確かにな。」


クツクツと笑いながら隣を歩いてきてくれる。一緒に帰ってもいいということだろうか。


「......で?」


「え?」


「あんなでけェ溜め息してたら何か悩み事でもあんじゃねーのか?」


俺でよかったら聞くぞ、て優しく声を掛けてきてくれたあなたのことについて現在お悩み中とか言えないし聞けない。ここは敢えて遠回り作戦でいこう。


「実はさ、バレンタインチョコをある人に送りたいんだけどその人チョコが嫌いらしくてさ。」


「......へェー。」


「だからどうしようか悩んでて...。」


ちらっと横目で土方を見る。眉間に皺を寄せながら遠くを見つめていた。


「ちなみに誰に送るんだ。」


「え゙っ。」


そ、そこまで追求してくるか。くそうそんなことわたしの頭の中の計算式に入ってないぞ!


「...んだよその嫌な顔。」


「いや、だって、その...。」


あなたです。


そう言えたらどんなに楽だろうか。しかしそんな勇気もなければ雰囲気でもない。上手く誤魔化そうとしたらちょうど家が見えてきた。


「あ、い、家が見えてきたから、そろそろ、ね?」


「......。」


「あ、ありがとう、今日は一緒に帰ってくれて。」


ばいばい、そう手を振って笑って走って帰ろうとした。


けど、それは阻止された。


「待てよ。」


がっしり掴まれた手。もう走って逃げる選択肢は遠く彼方へと消えてしまった。


「なななななに?」


「だれに渡すんだよ、バレンタイン。」


だからあんただっつーの、いい加減気づけよ鈍感。


あぁぶちまけたい。わたしの心ん中全部全部今目の前にいるこいつにぶちまけたい。そしたらこんなに慌てることもないだろうに。


そもそも土方はなぜこんなにもしつこいのだろうか。


「べ、別に誰でもいいじゃん。」


「よくねーから聞いてんだよ。」


あぁ、またそうやって期待させるような言葉吐いて。わたしがどんだけ期待しないように頑張ってるかわかってないよこいつ。


「...どーしてそんなこと聞くの?」


そうやって聞いたら手を掴んでいるやつの顔が強ばった。そしてみるみると真っ赤になっていく。え、なに?なにが起きた一体?いまいち状況が把握できない。


「....から。」


片方の手を口に添え、ぼそっと呟いた。


「チョコ、ほしーから。」


「は?」


思わず固まるわたし。


「土方そんなにチョコ好きだったの?嫌いだって聞いたのに。大丈夫だよ土方モテるからたくさんの女の子からもらえ「じゃねェよ!」」


突然怒鳴りぎゅっと掴まれた手に力が入る。手汗かいてるの相手にバレていないか心配だ。


「ほかの女はいらねェ、姫路野からのしか、いらね。」


「え、」


一瞬呼吸が止まった。またそんな期待させること言っちゃってさ。


「......期待するよ?」


「期待しろよ。」


「じゃ、じゃあ期待しとく。」


「つかこの場合、俺が期待するんじゃねーの。」


「あ、そっか。じゃあ期待してて。」


「ん、しとく。」


そう言って優しくぽんぽんと頭を叩かれた。これは急な展開ですが本当に期待してもいんですかお宅さん、えぇ?


意外に冷静な自分にびっくりしたわたし。相手はどうかと見てみると相手もやはり冷静だったがどこか嬉しそうだった。


「言っとくけど、」


びしっと指を差して言う。


「当日になっていきなりいらないとかそんなのなしよ。」


ふふん、と鼻を鳴らし言い切ったわたしをクツクツと笑う土方。そして頭をべしっと叩いた。


「....ばーか、言わねェよ。」







反論さえ呑み込んで







「じゃ、じゃあむちゃくちゃ甘くても受け取ってよね!」

「おう。」

「銀八と同じのでも、よ!」

「......は?」

「あ、いや、嘘ですごめんなさい。」



 
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