( 1/1 )
「......げほっ。」
咳が出る。そういう意識はあるのに目が開けられない。これも薬のせいだろうか。瞼がとても重たい。
「ぎ、ちゃ......。」
ぐっと体に力を入れてだらけた体を起こそうとした。しかし腕にも力が入らずすぐ床に伏せてしまった。
「ぎん、ちゃぁ......。」
暗い、怖い。その感情がわたしを取り巻く。
その恐怖からかずっと近くにいたわたしにとって大切な人の名前を絞り出すように呼ぶ。
「ぎ、ちゃん......、ぎん、ちゃん。
銀ちゃん!!!」
絞りだけ絞り出される声を出した。その声が木霊して消えていく寂しさ。ついに耐えきれなくなり涙が出てきた。その涙のおかげか目が少し開くようになる、けど嬉しくない。
「こわ、いよ......、銀、ちゃん。」
暗い部屋の中にひとり。今までひとりということはなかったわたしにとって今の時間はひどく辛いものだった。
昔も今もそしてこれからの未来も絶対隣には銀ちゃんがいるものだと思っていた、それが当たり前だと思っていた。それを今壊されそうになっている。
恐怖、それがわたしを覆い始めた。
そのときだった。
『凛華!!!』
突然耳を貫く声。思わず顔をしかめた。しかしその顔も笑顔に変わった。
「ぎ、ちゃぁ、ん。」
『凛華か!?無事か!?』
「だ、じょーぶ。」
『なにが大丈夫だ!!!辛そうな声出しやがって!!!』
くそっ、という声とガンッという音が聞こえてきた。八つ当たりで壁か何かを蹴ったのだろう。
そんなことより疑問があった。
「な、で銀、ちゃんの、声......。」
『あぁ、ピアスだよピアス。』
「ピア......?」
そういえば、とわたしの耳を触ってみた。そこには確かに小さなピアスがついていた。これで聞こえるんだ。
『俺がつけただろピアス。あれ通信機だった。』
「そ、なの聞いてな、い。」
『俺が内緒で一生懸命作ったの。』
「......はっ。」
『もう喋んな、辛いだろ。』
そう言って銀ちゃんは喋らなくなった。けど通信は繋がっているらしい。ザーッという音が耳に入ってくる。
わたしは銀ちゃんの言葉を無視して喋り続けた。
「銀、ちゃん。」
『だからもう喋んなって。』
「わたし、気づいた。」
『は?何に?』
「あの、ね......、わたし、わかったの。」
『だから何が?』
ハッハッと息遣いが聞こえる。その息遣いを聞きながらわたしは自分の気持ちを伝えた。
「銀ちゃん、がいないと、わたし、生きてけないやぁ。」
『......ふーん。』
「怖い、の。」
『うん。』
「ぎ、ちゃんが、隣にいない、と。落ち着か、ない。」
『うん。』
「銀、ちゃん。」
『なに?』
「会い、たい。」
『......。』
「会いたい、です。」
そう言ったら銀ちゃんは再び会話をやめた。わたしにはまた恐怖という暗闇が包み込む。そのせいでガタガタと体が震え出した。
その時だった。
カツカツ
扉の奥から靴の音が聞こえた。その音は徐々に近づいてくる。
靴の音だけでは誰かわからない。一体誰だろうか。
カツカツ
バンッ
「!?」
突然暗い部屋に指す光。開きかけた目を閉じる。
「......ばーか。」
コツコツと音が近づきわたしの側に来た。そして体に触られる感じ、ゆっくりと体が起こされた。この甘い香り、知ってる。
「ぎ、ちゃん。」
「馬鹿だなァ、お前。」
そこには少し眉を下げて笑う銀ちゃんがいた。
「んなこと昔からわかってた。」
「そ、なの?」
「だってお前ずーっと俺の後ついてたじゃねェか。」
「......ははっ。」
なんだ、今更気づいたのかわたし。本当馬鹿だなァ。
「大丈夫か?体怠くないか?」
「......少し。」
「ちゅーしたら治るか?」
「馬鹿、じゃないの。」
「結構本気なんだけどなー。」
「......馬鹿。」
近づいてくる銀ちゃんの顔をわたしは目を閉じて黙って受け入れた。
暖かいものが唇から伝わった。
昔から知っていた
「......。」
「......あぁ、もう、馬鹿。顔、見ないで。」
「いいじゃねェか別にィ。」
「じゃあ、ニヤニヤ、しないの。」
「無理。幸せすぎて。で、体治った?」
「......治んない。もう一回。」
「仕方ねェな。」
もどる
|
|