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「......。」


「......。」


「......。」


「......なあ、おい。」


「はい、何でしょう。」


嫌な沈黙を破った俺の方を振り向き、ニコリと笑う使用人のヤロー。その笑顔になんだかゾッとした。俺は負けないように睨み付けた。


その時さっき別れた凛華の姿が脳裏に横切る。不安そうにこちらを見ながらもあのクソヤローの後ろをついていってしまった。本当は別れるべきではなかったのではないか、と少し心配になる。


しかしここで揺らいではならない。揺らいでしまったらこれからの判断が鈍るからだ、とかなんとか思うがやっぱり心配なものは心配だ。


後ろを向いてももう凛華はいない。後ろ髪が引っ張られる思いで使用人と向き合った。


「......まだ歩くのかよ。」


「もう少し先までですよ。」


「そんな厳重なとこに案内すんの?」


「はい、旦那様はどうも外に漏れることを恐れていまして。」


「ふーん。」


「さあ、進みましょう。坂田さん。」


そう言った使用人は再び前を向き歩き出した。


「......っ!」


次の瞬間、


ヒュンッ


ドカァァン


俺は使用人に足蹴りを喰らわせた。使用人は勢いよく壁に激突した。


もくもくと煙が舞っていたのが晴れてきた。俺は煙の先にいる使用人を睨み付けるように見た。


「ッゲホ!い、いきなりなんですか全く。」


ヒヒヒッと不気味に笑いながら俺に近づく奴は先程のニコニコと愛想のいいおしとやかの奴ではなかった。攻撃されたことによってやっと化けの皮が剥がれた。再び戦闘態勢に入る。


「急に攻撃とは失礼極まりないですねェ、クククッ。」


「失礼極まりねェのはお前だろーよ。」


「と、申しますと?」


「惚けんのもいい加減にしろ使用人さんよォ。」


化け猫が、そう吐き捨てるとまたクククッと不気味な笑い声が聞こえた。まだ笑っていられるこいつはどうやら頭がイカれているらしい。


そのクレイジーの使用人に質問をした。


「なんで俺の本名知ってんだ?」


「......何故そのことに疑問を持つのです?名前は知っていて当然でしょう。」


「残念ながらその常識は俺たちには通用しねェ。」


「何故です?」


「俺たちは怪盗だ。闇に隠れ獲物を狙う闇の住人。そんな奴がペラペラと本名を名乗るか。」


「なるほど。そこまで考えていませんでした。」


「それに名前だったら凛華のやつが喋ってるからわかるが名字を名乗った覚えはねーぞ?」


坂田、それは誰にも名乗ったことのない名字。それを使用人が口出したことに驚いた。名字を知っている、つまり松陽先生(父さん)について関係しているか調べかのどちらか。ま、どのみちぶっ飛ばすが。


「あっちゃー、わたしとしたことが大きな失態を。」


あいたたた、彼は手で顔を覆い大袈裟に表現をした。わざとらしくて腹が立つ。


「ご察しの通り、私たちは10年前の出来事の関係者です。」


「やっぱりな。」


「私たちは「ある目的」を果たすためにこうして大きなパーティーを開き貴方達銀の猫を招待した。」


「目的、だァ?」


「はい。」


「......っ!!?まさかっ!!!」


「クククッ。そうです。私たちの目的はひとつ。」


ビシッと人指し指を立てて答えた。


「松陽と同じく情報関係に長けた姫路野凛華にある暗号を解いてもらうこと。」


「っテメーらの目的は初めから凛華か!!!」


「えぇ、だから貴方は用無しです。」


ガチャ


嫌な音が耳に入る。目で確認すると使用人が俺に拳銃を向けていた。安全装置を外し引き金に手を掛ける。


「今日で銀の猫は終わりですね。」


「ハッ!勝手に終わらせるんじゃねェ。」


「こんな状況でもまだ言えますか。」


カチャ、再び鳴る音に冷や汗が頬を伝い顎に到達する。今の状況を四字熟語で表すなら「絶体絶命」。やばい俺非常にやばいそして心配だ凛華。


凛華......。


「さようなら。」


ガチャ


引き金にグッと力を入れた使用人を見て俺は低い姿勢を取り足に力を入れ地面を蹴った。


パンッ


放たれた乾いた音は耳元の横を通り過ぎ、弾は地面にめり込んだ。俺は姿勢を保ちながら使用人に近づいた。


「なっ......!!!」


「銀の猫を、嘗めんじゃねェェェ!!!」


ドガッ


「が...っ!」


そのまま顎をアッパーするように殴った。軽く脳震盪を起こした使用人はそのままパタリと倒れた。


倒れたことを確認し拳銃を奪い端の方にそいつを放り投げた。とうぶん起きないだろう彼にさよならを告げその場を折り返した。


「......凛華。」


あいつは残念ながら長けた運動能力はない。だから余計何かされていないか心配で心配で堪らない。次第に走るスピードが上がってくる。


「凛華っ...!」


やっぱ一人にすんじゃなかった。無理矢理でもついていけばよかった。後悔ばかりしても彼女がどこにいるかわからない。


そんな時だった。マイク越しの総理大臣の声と盛大な拍手が僅かだが聞こえた。彼らは呑気に笑っていた。


それと重なるように聞こえた僅かな声を聞き逃さなかった。


ぎ、ちゃ...。







彼女を思い走る







その時聞こえたのは掠れた彼女の声。

キラリと片耳につけたピアスが光った。



 
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