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「大変長らくお待たせ致しました。」
そう言ってお辞儀をして扉のドアノブに手を掛けた使用人。使用人が連れてきた場所はホールの入り口ではないらしい。個人的な部屋の扉に見える。
「こちらに旦那様がお待ちでございます。」
「旦那様?」
「失礼致しました。私、今回依頼された旦那様の付き人でございます。」
「そ、そーだったんだ。」
「ご紹介が遅れてしまい大変申し訳ございません。」
「いえいえ。逆に怒鳴ってしまって申し訳ないくらい...。」
「凛華がな。」
「銀ちゃんもでしょ!?」
「まあまあ。おふたりともですよ。」
「「はあ!!?」」
「な、なんでもございませんんんん!!!!」
ひいいい、と悲鳴を上げてドアノブを思いきり引いた。なんだか本当に申し訳なくなりながら下を向く。
ドアが全て開くと目映い光が私たちを包み込んだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。」
そうやってニッコリと出迎えてくれたのは、国の政治のトップと言われる総理大臣がいた。わたしは依頼人が誰かわからなかったのでビックリして目を開く。
その時隣から殺気が湧いた。隣を見ると今まで見たことない睨みで総理大臣を見る銀ちゃんがいた。わたしもなんだか怖くなり一歩下がる。
「さあさあ、お掛けになって。」
「は、はい。」
とりあえず部屋の中に入り手招きされたソファに遠慮なく座る。さすが総理大臣。ソファの座り心地がすごくいい。きっととても良いものだろう。
「で、依頼っつーのは?」
ドカッと座り体を前のめりに話した銀ちゃん。あまりにも態度が悪い。ましてや総理大臣様の前だ。
「ちょ、銀ちゃん、態度!」
「構いませんよ。普通のお客さんと同じように接して下さい。」
「す、すみません。」
「いいえ。」
ニコニコと笑う総理大臣。一見人良さそうに見えるが私たちをなめちゃいけない。ここ数年何百人という様々な依頼人を見てきた。顔だけ作られていたりしたらわかる。
「実はですね、あるものを盗り返してほしいのですよ。」
「盗り返す?」
「ええ。警察に頼みたかったのですが彼等は役に立たないので。」
「それで盗みのプロに頼むって訳か。」
「そういうことです。」
「それで、盗り返すものとは?」
「こちらにございます。」
お連れしろ、顎で指示をしたらさっきの使用人が短く返事をしてまたドアノブを手に掛けた。私たちはそれに着いていく。
「あ、あなた様はこちらに。」
「わたし?」
総理大臣に招かれるわたし。しかし何かがおかしい。
「どうしてバラバラになるのですか?一緒でいいじゃないですか。」
「実は盗って欲しいのが2つありまして。」
「......へぇー。」
疑問に思いながらもわたしは総理大臣の後をついていった。総理大臣直々案内してくれるわけだからきっと何かがあるのだろう。
後ろの銀ちゃんを見るとわたしの方向をちらちら見ながらも使用人についていっていた。わたしも合わせることにした。
「それでどちらまで行かれるんですか?」
「もう少し先までですよ。」
「......大変失礼なことをお聞きしますが、写真とかないのですか?」
「そこら辺に流されると困るので写真はありません。変わりに部屋の方で厳重に管理してます。」
「へぇー......?」
話が噛み合わない、おかしい。普通盗ってきてという時は必ず写真か画像がある。わざわざ別の部屋まで案内するのはおかしい。
「すみません、あの、」
「さあさあ、こちらです。どうぞご覧ください。」
わたしの言葉を遮りドアを開けて手招きをする総理大臣。わたしは嫌々ながらも暗いドアの中を覗いた。
その瞬間、
ドンッ
「ったァ!」
突然背中を押され前に倒れてしまった。突然のことだったので驚いて顔を上げると、暗い部屋の中ニヤリと弧を描く口元が見えた。やっぱり猫被っていたらしい。全くいい年しながら。
わたしは不気味に笑う総理大臣を睨みあげた。すると彼は昔話をするかのように話し始めた。
「あれから10年か。」
「......?」
「いやいや、月日は早いものだ。」
「何わけのわからないことを言ってるの!」
「訳がわからない?君が一番よく知っていることだろう?」
どくんっ、何かが音を立てた。
「いやー、君は昔から美人さんだね。それに情報関係が得意なのは彼と同じだしね。」
「どうして、知ってるの?」
「見ればわかるさ、人の話を聞く態度。彼は最初から最後まで攻撃的だったが君は冷静に判断し分析をしていた。まあ見事に罠に引っ掛かったが。」
アッハッハッハッ!甲高い笑いが部屋に響く。こいつただ者じゃない。
その時気づいた、今やつが言った言葉。
「昔から...?彼......?」
「まだ思い出せないか?」
どくん、どくん、身体中に血が巡っていくのがわかった。段々身体が熱くなり目頭も熱くなる。そして脳裏に浮かぶある人の影。
「と、さん......っ?」
「......ハハハッ!君に会えて光栄だよ、凛華ちゃん。」
身体の中の何が燃え始めた。そして頬から一筋の涙が流れ落ちる。わたしは急いでそれをぬぐった。
「あんたが......あんたが父さんを!!」
「仕方ないだろう。金は用意すると言っているのに聞かない彼が悪い。」
なんて自分勝手で我が儘で傲慢な男だろうか。殴りかかりたい衝動に陥ったが拳を血が出るほど握り理性を押さえる。
「......ごめんねェ。」
気づいた時には遅かった。やつの靴の先がわたしのお腹にメリ込んでいた。数メートル飛ばされゴホゴホと咳を出す。わざとなのかそれとも偶然なのか鳩尾を蹴られた。身体が、動かない。
「手荒な真似はしたくないんだけど、見つかるとまずいんでね。」
次の瞬間、やつはわたしの口元をハンカチみたいなので覆った。抵抗するが所詮は女の力。男の力には到底叶わない。段々意識が遠のく。
「パーティーが終わり次第、君にも仕事をしてもらうよ。」
「くっ、そ......。」
「じゃあね。」
ギィィィ、扉が閉まる音がする。必死に手を伸ばしたが身体が重たく動かない。扉はやつの手により呆気なく閉じられた。
バタンッ
「ぎ、ちゃ......。」
彼に託して眠る
意識が掠れる。その時に見えた小さな女の子。
どこか昔のわたしに似ていた。
彼女は泣きながら「助けて」と叫んでいた。
そこで意識が途切れた。
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