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それはある夜のことだった。
その日はいつもとは違う空気がした。生温くて気持ち悪い風が私たちが住んでいる孤児院を包み込んでいるようだった。
その孤児院へ近づくひとつの影。その影は口に弧を浮かばせドアに手を伸ばす。
コンコン
真夜中のこと。孤児院の入り口のドアがノックされる。私たちが寝ている部屋は入り口ドアが近い。
わたしは眠りが浅く、寝ているときも小さな物音で起きるほど敏感な耳を持つ。おかげで真夜中何回も起きる。もう慣れたので辛いことはないが。
その日も、音に気づいて目を開けた。
「......?」
耳をすまし聞こうとした。この声は父さん、と誰?
「ーーーーーっ。」
「ーーーぁ!!!」
眠たい目を必死に擦りながら部屋のドアへ近づく。誰も踏まないよう注意しながらドアノブへ手を掛ける。
カチャッ
眩い光がわたしの目の中へ入っていく。眩しすぎて目を細めながらその場を見た。
「......父さん?」
「凛華....!!?」
父さんは驚いた顔をしてわたしに覆い被さるように抱き締めた。わたしは訳が分からずとりあえず父さんの背中に手を回す。
「とにかく帰ってください。わたしにはこの子達もいるんです。そんな危険な役などできません。」
「......わたしは知っているぞ、この孤児院には支給金がそこを尽きていることを。」
「それでもこの子達を裏切るようなことはできません。帰ってください。」
「父さん?ねえ、父さん何のお話をしているの?」
ぎゅっ、更に抱き締める力が強まる。父さんはわたしの顔を抱き寄せ包み込むようにした。
「ねえ、父さん。苦しいよ、どうしたの?」
「......ククッ、残念だな松陽。お前に断る権利など最初からない。」
ガタガタッ
騒がしい足音。何人かが入ってきたらしい。
「連れてけ。」
その言葉と同時にわたしを包んでいた暖かいものは無くなった。代わりに冷たい風が頬を撫でるように通りすぎる。
「......この子達には危害は加えませんか?」
「あぁ、お前が大人しく連れていかれればな。」
「と、さん?」
父さんは最後に笑い、わたしに言った。
「いいですか凛華。わたしは今から遠くの方へ行きます。」
「や、やだ。父さんと離れるの嫌。」
「これだけ覚えといて下さい。」
黒い男たちに囲まれ、連れていかれる父さん。わたしは腰が抜けてその場から動けなかった。
「どんなに離れていても、私たちはずっと家族ですよ。」
「ぁ、あぁ、と、さん。」
「凛華。立派に生きなさい。」
「父さん、父さんっ!!!」
立ち上がり父さんを追いかけようとしたが、複数の男に取り押さえられる。それでもわたしは必死に、必死にもがいた。
「父さんっっっ!!!」
その後ろ姿を見たのが、最後だった。
残ったのは憎しみ
それからみんなバラバラになった。
銀時は何故かわからない状況で叫んで暴れていた。
わたしはその中で笑いもせず、沸々と憎しみが沸き上がる。
それから、父さんが危ない事件に巻き込まれ亡くなったのを聞いたのは数日後。
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