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そうだなー。今日はちょっと時間もあるし、なにより暇だから昔話でもしようか。
まあまあ、そう言わずに聞いてみなって。今後のこととかに役立つかもよ?なーんてね。
これは、ある女の子と男の子の楽しくて切ない物語。聞くのには少し覚悟がいるね。なんの覚悟かって?それは自分の目で確かめなさい。
......さて、準備はいい?
話は遡ること10年前になる。
「ぎーんとーき!!!」
「ぅおあ!!急に乗り掛かってくんな凛華!!!」
小さな女の子が男の子に乗り掛かるように突進する。男の子はなんとか耐えて転けはしなかった。
「えへへー、銀時のちーび。」
ぽんぽんと同じ背の女の子が男の子の頭を叩く。カチン、と頭にきた男の子は反撃をした。
「は?俺ちびじゃねーし。ちびって言った方がちびなんだよちーび!」
「ちびじゃないもん凛華だもん!」
「やーい!お前は今日からちび凛華だーい!」
「......ふぇ。」
「げ。」
目に涙一杯溜めて零れないように必死に堪える。男の子はまさかこれで泣くとは思わず非常に焦っていた。
「わ、悪かったって!俺ちびだよなそうだなちびだ!まだまだちび助だ!」
「ち、び。」
「そうそう!ちびだから泣くな!そうだケンケンして遊ぼう!」
「う、うん!」
ここは孤児院。幼い頃から両親がいない子または引き離された子がくる場所。今現在ここには20人前後の子供たちで溢れかえっている。
そこにわたしと銀時はいた。
わたしは幼い頃の記憶はない。自我に目覚めたときは既にここにいた。銀時はわたしと同じときに来た。だからだろうか、孤児院への不安期待が同じだからすぐ仲良くなった。今じゃ幼馴染み同然だ。
「けん、けん、ぱ!どう?上手?」
「おう上手上手!次は俺な!」
銀時が器用に片足で丸が描かれたところを踏んでいく。わたしは横で拍手していた。
「凛華、銀時。そろそろ帰りましょう。みんなが待ってますよ。」
私たちに近づいていってきたこの人は松陽さん。私たちが住んでいる孤児院の院長さんだ。
「「うん!父さん!」」
他の人は「先生」とか「しょうちゃん」とか愛らしい名前で呼んでいたがわたしと銀時は違った。
お互い「親」というものを知らないせいか妙に親の愛情を求めている。だからその愛情の裏返しで私たちだけ特別に「父さん」と呼んでいる。
わたしと銀時、それぞれ父さんの手を握り夕日道を歩いていた。
「今日の晩御飯はなにがいいですか?」
「ハンバーグがいい!」
「......それ昨日もだったじゃん。」
「えー、やだやだー!!!ハンバーグぅぅぅぅ!!!」
「凛華、じゃあ肉炒めはどうでしょう。」
「それがいい。」
「え、肉が入ってればそれでいいの?」
「......肉ぅ。」
「それ飢えた狼だからァァァァ!!!」
こんな幸せな時間がいつまでも続くと信じていた。いつまでも楽しくて暖かくて幸せな、時間。
終わりを告げるチャイムはすぐそこまで来ていた。
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