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ピピ ガガッ


耳に入れているイヤホンから今にも壊れそうな機械音が流れてくる。本当に壊れていないか心配だ。


「銀ちゃん?」


わたしは口元にある小さなマイクに話しかける。


『はいはーい、聞こえてんぞォ。』


相変わらずのこの気だるさ。なんだが苦笑いが浮かぶ。その苦笑いをした顔がパソコンの画面に写った。


「道順覚えてるよね?」


『あたりめーだろ。まずはじめに右行くだろ、』


「あ、あのすみません。右は壁なんですけど。」


『......冗談に決まってんだろ。本当は左だ。』


「左は罠です。」


『じゃあ、まっすぐ。』


「じゃあ、ってなによじゃあって!」


まったく。毎回毎回ひやひやさせられるこっちの身にもなってほしいもんだ。


ピコピコとパソコン上に表示される赤い点。そしてそこ点が複雑な建物の中でまっすぐ進む。今のところは異常なし。


「......なんかおかしい。」


『あ?なんか言ったか?』


わたしの呟きを拾った銀ちゃんが質問する。


「これ、絶対おかしいよ。」


『おかしいだァ?なにが?』


「あまりにも罠がなさすぎる。」


パソコンには必ず罠や仕掛けが青い点で写る。いつもは気持ちが悪いほど青い点があるのだが、今回は異常なほどない。


『それは仕掛け忘れたんじゃねーの。』


「世界の怪盗がわざわざ予告状出したのに?」


『......た、たしかに。』


「これは警戒心がないと判断していい。」


警戒心がないということは相手にとって危険なものがない。変わりに私たちに危険なことがあるかもしれない。


つまりこれは、


「銀ちゃん!今すぐそこから出て!!」


『あ?んでだよ。』


「これは罠だ!!!」


『罠だァ!?』


「説明は後!早くそこから逃げて!」


『チッ。』


パソコン上の赤い点は今まで来た道を引き返した。後もう少しで出口、という時だった。


『誰だテメーは!!』


「!?」


しまった!見つかったか!?


『土方さん、マイクしかねーですぜ。』


『チッ、逃げたか。』


ガサガサとマイクを拾っている音がする。これを聞く限り銀ちゃんはマイクだけを置いて逃げたらしい。


わたしはもう少し耳元から聞こえる音を探る。


『しかし奴もそろそろ潮時だな。』


『今まで証拠なかったのにねィ、ついに証拠が手に入りやしたからなァ。』


『油断は禁物だぞトシ、総悟。相手はあの大物怪盗だぞ。』


『......ぜってー尻尾捕まえてやる。』


「やれるもんならやってみやがれ!」


『あ!?なんか聞こえたぞ!?』


今言ったのはわたしではない。後ろからマイクを奪われた。そこにいたのは、


「ぎ、銀ちゃん。」


息を切らして額に汗をかいた銀ちゃんだった。


「俺は何がなんでも捕まらねーつったろ、ポリスヤロー。」


『その声は銀の猫か!?おい!今すぐ逆探知機を!』


「言っとくが逆探知機とか無駄だぜ。そういう機能は全部壊してるからな。」


『くそ、てめー!!』


「今回はサービスだ。たまにはサービスしてやんねーとな。」


『馬鹿にすんのもいい加減にしやがれ!!!』


「は!んじゃな!」


『てめ!待ちやが』


ぶちっ


マイクを繋げていた線を思いっきり引っ張って切る。しん、と静まる部屋には銀ちゃんの息づかいしか聞こえなかった。


「ぎ、銀ちゃん......。」


「凛華。」


にこりとこちらを見て言った。


「ただいま。」


その言葉を聞いて、わたしから流れた涙が頬を伝わった。







失う怖さを知った







この時初めて銀ちゃんを失う怖さを思い知らされた。

どれだけお帰り、という言葉がわたしを支えてきたのかわかったよ。

わたしは銀ちゃんがいないと、だめだ。




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