( 1/1 )
「ゲホッ...っ!」
喉からむせ返る血。それがボタボタと地面に垂れていくのを他人事のようにボーッと眺める。あぁ、また出てしまった、と。
手に持った刀を力強く握りしめわたしは前を向いた。目の前にいるのは数人の黒い服の集団。それを睨み付けてペッと口の中の血を吐き出す。
どうしてこんな状況になってしまったのか。それはわたしも聞きたい問いだ。
それは真夜中土方さんと巡回をしていた時だった。ふたりで何気ない会話をしながら巡回をしていた。
「あ、猫。」
「猫だァ?」
暗くて何色かよくわからないが確かに私たちの目の前を横切った。猫は細い裏路地の方へ走っていく。
「土方さん、ちょっとあの猫捕まえてきます!」
「は?いいだろ猫ぐらい。」
「いや、あっちの方向最近危ないんです。猫が可哀想なことになる前に。」
そう言ってわたしは猫を追いかけた。土方さんが止める言葉を無視しながら細い裏路地の方へと走る。
「ま、待ってよ!猫!」
猫は追いかけるわたしに怯えているらしい。更に走るスピードを上げた。負けじとわたしは追いかける。猫に負けてたまるか、と。
「ミャア!」
「捕まえた!」
ついに猫を捕まえた。両手で持ち上げるように捕まえられた猫は逃げようと必死に暴れる。
「ほらほら、そんな暴れるなって。」
それにしても可愛いなこの猫。暗くてよくわからないけど何色の猫なんだろう。白かな?斑かな?
先程の道を帰ろうと背を向けた時だった。
「真撰組在中の姫路野凛華とお見受けする。」
「はっ?」
そこに立っていたのはさっきはいなかった黒の集団数人。そいつらを見て攘夷志士とは違う、瞬時にそう思い猫をわたしの後ろに置き刀を手に取った。猫は何故か逃げずにそこにいた。
「あんたら、何者?」
「我らは黒修道、貴様がここに原因の集団だ。」
「なんのこと?」
「惚けても無駄だ。貴様は、」
ガキィィン
その瞬間わたしはそいつに斬りかかった。頭みたいなのを狙ったはずなのにわたしの剣は両端にいた奴等に止められた。舌打ちをしながら振り払い距離をとる。
「それ以上喋るな!」
なにか危険と感じながらもわたしはそいつらに斬りかかった。
そして冒頭に至る。
わたしは肩で息をしながら奴等を睨み付ける。彼らは表情は見えないが雰囲気で笑っているように思えた。
「しかし君は大層人や環境に恵まれているらしい。今までの奴等よりも幸せな暮らしをしているとお見受けする。」
「うるさいっ!黙れ!」
カチャッ、再び刀を構える。しかしその刃先は震えていた。
「あんたら、何者なの。」
どうしてわたしを「送り込んだ」人として見たのか。これは誰にも話していない出来事なのに。
「仕方ない。」
「答えて真ぜよう。」
左にいた者、右にいた者が一方手前に出て答えた。
「我らは黒修道、神と同等に立つ選ばれし者。我らは時空の歪みを調整している。」
「時空の歪み?」
「そう、宇宙には未だ発見されていない星が様々ある。その星と星を繋げているゲートを我らは時空と呼ぶ。その時空に最近歪みを見つけた我らは歪みを調整し、そして歪みによって飛ばされた者共を「元の世界」とやらに返している。」
「......元の、世界。」
「歪みによって飛ばされた哀れな姫路野凛華を元の世界へ返すのが今回の我らの役目。」
「......。」
まだ信用できないと頭が叫んでいるのに体が勝手に刀を降ろした。
「そして忠告しにきた。よく聞け。」
ポツ、と頬に当たる滴。それが徐々に重なり合い私たちを雨のカーテンで包み始めた。
「歪みはもう時期直る。明後日、我らが迎えにいく。それまで覚悟をしておけ。」
「覚悟......?」
「飛ばされた者の中に口走る者がいる。帰りたくないと。しかし本来ここにいてはいけない存在。それが留まることなどできない。」
「......。」
「覚悟しておけ。」
そうもう一度言うと雨の中へと、奴等は消えていった。その瞬間緊張が溶けたのか膝から崩れ落ちてしまった。地面の泥で汚れてしまった膝に先程の猫が近づく。その時に街灯の明かりで見えた。
「......あんた、黒猫じゃん。」
黒猫が横切ると災難が降りかかる、どうやらこれは当たっていたらしい。しかし今となってはそんな黒猫も愛しく感じた。上着を脱ぎそれで猫を包む。
「明後日、か。」
突然のことで実感が沸かない。頭も追い付かない。
ただ雨の中、わたしは空を見上げていた。そしたら雨がこの事実を一緒に流してくれると思ったから。
可哀想な子
「......ただいま戻りましたァ。土方さん。」
「雨降り始めたじゃね、っておい!怪我してんぞ!」
「だいじょーぶです猫にやられました。」
「馬鹿か!んなわけねーだろ!」
「ハハッ、ハ......。」
「おい、姫路野?おいしっかりしろ!凛華!」
もどる
|
|