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梅雨という季節はまだ少し早すぎる時期なのに空は生憎の雨模様。わたしのテンションはガタ落ちしていた。


「......はああああぁ。」


昨日沖田さんに聞かれた言葉が頭の中に響く。


「あんた、どこから来たんでさァ。」


わたしが思うに沖田さんは勘が鋭い。わたしの不振な態度、応答を見て更に疑問に思ったのだろう。無理もない。この世界での常識がわたしには一切通じないから。


「いつか、」


いつかきちんと話せる日が来たらいいな。近藤さんに沖田さんにジミー先輩に、土方さんに。そうしたらこんなに悩まず楽だろうに。だけど話す勇気がないわたしは一向に伏せたまま。怖じけ虫。


「姫路野。」


「あ、はい!」


コンコンと障子を叩く音がすると同時に聞こえてきた声。この声は間違いなく土方さんだ。慌ててテーブルから顔を上げる。


「入るぞ。」


「どうぞー。」


ガラッと障子が乱暴に開く。ザーザーと降る雨を背景にその男はわたしの部屋へ入ってきた。


「これ、今日中まで頼む。」


「これって、沖田さんの始末書じゃないですか。土方コノヤローがやれよ。」


「お前朝から喧嘩売ってんのか、あぁ?」


「いいよ!買ってやるよ!」


「お前が売ってんだろうがァァァァ!!!!」


バサッと音をたててテーブルの上に置かれる沖田さんの始末書。後で沖田さんのテーブルの上に置いておこう。わたしのせいじゃない。沖田さんのせいだ。


「......ところでよ。」


「はい?」


ドカッとその場で胡座をかいて座りタバコを取り出す。タバコに火を点けるその姿がとても綺麗な1枚の絵になっていて目が離せなかった。


「あ、悪ィ。タバコ無理か?」


「い、いえ!」


タバコを消そうとする土方さんを必死で止めた。するとクツクツと笑いが口から零れた。なんだか必死で止めた自分が恥ずかしくなり顔を背けた。


「そういえば好きだったんだな、タバコ。」


「タバコの匂いですよ。そのものは好きじゃないです。」


「お前もいつか吸うんじゃねーの?」


「吸いません!なんでわざわざ煙を口から出さないといけないんですか!」


「......お前今喫煙者全員敵に回したぞ。」


「ま、まじか。ニコチン多量接種で死ぬ?」


「なんでお前が死ぬんだよ。」


「だって副流煙と受動喫煙という言葉がありましてね、」


「はいはい。」


ハハッと笑う土方さんの口から灰色の気体が出る。それは部屋を浮遊した後綺麗さっぱりいなくなった。その光景すら絵になる彼は一体どれだけの女性を虜にしてきたのだろう。


「そーいえば姫路野。」


「はい?」


「昨日仕事サボってどこ行ってた?」


ニコリ、いやニヤリの方が正しい笑みでわたしを見る。冷や汗だらだらのわたしは崩していた足を正座に変えた。


「......な、なんのことでしょう。」


「しらばっくれるなよ。おかげで昨日仕事が増えて徹夜だった。」


「す、すんません。」


はあ、再び出るタバコの煙。灰になったタバコのカスを携帯灰皿に入れ口に加える。ひどくゆっくりに思えた。


「で?昨日どこいたんだ?」


「おおお沖田さんと巡回してました。」


「......へェー。どこらへんを。」


「駄菓子屋という名の秘密基地の周りとか、」


「それ思い切りサボりだろォォォ!!?いや子供にとってある意味駄菓子屋は秘密基地だが!!!!」


「あ、あとはなんか土方さんと仲のいい人達に会いましたよ!」


「仲のいい?」


「もう!しらばっくれないでくださいよ!銀髪の男の人と眼鏡の人とチャイナ服の家族です!」


「銀髪......?」


「そう!世にも珍しい銀髪!いやァ土方さんと仲がいい人っていたんですね。」


「......そいつ木刀持ってたか?」


「木刀?あぁ持ってました持ってました!」


そう言うと土方さんは肩をふるふると震わせる。そんなに会いたかったのかな?


「誰が......、」


「え?」


「誰があんなやつと仲がいいんだァァァァ!!!!」


「うぎゃああああああ!!?」


片膝をついて立ち上がり刀を抜く。さっきの肩の震えはあまりの怒りで震えていたのか。とにかく土方さんを落ち着かせ刀をおさめてもらった。


「なんにもされなかったか。」


「......はい?」


「だから銀髪のヤローに何にもされなかったか!?」


「は?」


なんのことだがよくわからず思わず間抜けな声を出す。


「いや、特になにもされてませんが......。」


「そうか。」


そう溜め息混じりに答えた土方さんがなんだか可愛らしくて笑いが止まらない。


「んだよ。」


「い、いや。あははっ!」


「ああああ!!!!くそ!!!!」


タバコを携帯灰皿に入れ荒々しく腰を上げた。わたしは未だに笑いを止めることができなかった。


障子を開け出ていこうとする土方さんの動きが止まった。疑問に思った途端笑いが止まった。


「昨日、毛布ありがとな。」


「え。」


意外な言葉にまた間抜けな声が出た。


「暖かったぞ。」


出ていく土方さんの背中を消えるまで眺めていた。そんなこと言われたらこっちまでポカポカしてきた。特に顔が。







梅雨の暖かさ







「ひーじかたーさん。死ね。」

「お前は毎回毎回......。」

「んなことよりも面白いモン発見しやした。」

「あ?面白いモン?」

「いやァ、探すの疲れやした。」

「......おい、コレまさか。」



 
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