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幕の閉じる準備が始まる。


わたしはそれを他人事のように思っていた。


ドラマの演出、そんな第三者が見るような感覚で。










「凛華!!」



お父様の叫び声が夜の屋敷に響く。そんなことも気にせずズカズカと大股でわたしに近づいてきた。



「坂田!これはどういうことだ!説明しろ!」

「!?」


お父様は銀さんに手を挙げ一気に振り落とした。




パシッ

「凛華...!?」

「お父様こそ、わたし達に説明することがあるのでは?」



坂田を引張叩こうとしたお父様の手を取り、わたしは静かに見つめた。


お父様の相変わらず揺るがない瞳。そして怪訝な顔。昔から苦手だ。



「...何の話だ。」

「USBについてです。」



その言葉に少しながらぴくりと眉間が動く。わたしはポケットを強く握り締めお父様を見て話した。



「先日USBの中身を拝見させていただきました。パスワードも簡単に解除できましたよ。

あれは、一体どういうことですか?」

「見たのか、中身を。」

「見ました、この目で。」



ギンッ、負けるものかと目に力を込めてお父様を見る。その時のお父様の目はいつもの厳つい目ではなく、少し寂しそうな悲しそうな目をしていた。


どういうこと?と疑問に思いながら口を動かす。


何故かわたしの頬からは一筋の涙が流れていた。



「は、初めは嘘だと、信じたくなかった。だけど、真実は不正データが目の前で動いていて...。」

「...通報は。」

「しました、お、お父様の、ため、とおも、い。」



目から涙が予想以上に溢れだしうまく言葉を喋れない。


もっと伝えたいことがある、もっと責めたいことがある、もっと、もっと、言いたいことがたくさんあるのに言葉はつっかえてうまく出てこない。



ウーッ



その時遠くの方から例の車のサイレンの音が聞こえる。あぁ、完結はこんなに呆気ないものなのか。



「お母様に、は、後日、お伝え、します。」

「そうか、終わったのか。」

「は、い...。」

「よかった、凛華が見てくれて細かいところを見て発見してくれて、本当によかった。」



どういうことだろう、わたしは顔を上げてお父様を見た。お父様の笑顔、わたしは生まれて初めて見た気がする。


後ろでは銀さんが車を誘導している。そろそろだ。



「終わったんだ、この苦しい代々受け継がれた呪いは、終わった。ありがとう、凛華。」

「と、」



「ありがとう」確かに彼はこの言葉を口にした。わたしは訳がわからず問うため口を開くが言葉が出てこない。


銀さんはわたしの肩に手を置き、そっと答えた。



「姫路野家の旦那様はさぞ苦しかったんだろうな。

彼は昔から勇敢な方だと聞いた。勇敢な方だからこそこの呪いは苦しいものだったに違いない。」

「それでも罪は罪。」

「そう、だから旦那様は見つけて欲しかったんだろうな。不正データを。パスワードも簡単にして。

全てを終わりにしたかったんだ。」



あぁ、呆気ない。人生の中の完結はこんなに呆気ないものなのか。わたしは赤いランプを見つめたまま、静かに涙を流す。


連行されるところなど見たくない、その思いが表に出ていたのか銀さんはわたしの腕を引き顔を胸板に押し付けた。


それに隠れてわたしは再び涙を流した。







私の執事と共に



お父様がここに来たのは必然か偶然か。

どちらにしろ、わたし達の戦いは呆気なく幕を閉じた。



 
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