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あるひとつの大きな屋敷に強い風が入る。入った風に驚き目を閉じると気遣いの良い執事がそっと扉を閉める。
一言お礼を言って再び望遠鏡を覗いた。覗いた中にはふたりのお嬢様とふたりの執事。多分姫路野家と堂后家のお嬢様方であろう。
「......ついに動き始めたな。」
「そうだな。」
「わたし達もいこう。」
「準備はできてんぞ。」
「うむ、では行こう。」
二本足で床を踏みしめ、望遠鏡を置き去りにしたまま彼女は執事と共にその場を立ち去った。
その影に気付かないまま、わたし達は動き始める。
「...で、奴らのことはわかっているの?」
「あぁ。なんとなくねィ。」
カタカタとパソコンを叩き、大きく写った画面を見せてくれる沖田さん。わたしと美兒さんは覗き込むようにそのパソコンを見た。
そこに書かれていたのは中企業が合併し合いできた大きな会社のひとつ。その会社名にはわたしも見覚えがあった。時々姫路野家のパーティーにも参加してくださる会社だ。
「多分ここの社長さんがそのUSBを狙おうとしたんだな。」
「そのUSBを凛華お嬢様が持ってるってこともどこがで知ったんだろうねィ。」
「...世間は狭いですね。」
その言葉を聞いてぎゅっとポケットにあるUSBを握る。
コレさえなければもしかしたらこんなことにはならなかったかもしれない。こんな銀さんを酷い目に合わせなかったかもしれないのに。
こんなもののせいで。
「とにかく俺らがすることは凛華を襲った会社を懲らしめることと姫路野家の奥様の行方を探すこと。」
「え、お母様はお父様と一緒じゃないの?」
「残念ながらそうではないらしい。2人とも別々の分野を担当なさっているからな。」
「そうなんだ...。」
「奥様の行方がわかったらきちんとした説明を聞かないとな。きっと凛華がUSBを持っていることすらわかんねーだろ。」
「...うん!」
そうだ、わたしがやるべきことはお母様を見つけ出しUSBを渡すこと。わたしは姫路野家の代々受け継がれた不正を正確に暴くことである。
それまで一々泣いてなんかいられない。
「で、まず言いたいのは屋敷についたら家系ごと別行動を取ること。」
「「「ふむふむ。」」」
「大勢で動いたら見つかる可能性が高いからな。」
「「「なるほど。」」」
「それにひとつの入口からみんな一斉に入るといけねェから各家系で違う門から侵入し、社長室まで辿り着くこと。」
「「「ほーい。」」」
「それと、」
「「「なになに?」」」
「あんた一体誰ェェェェ!!?」
銀さんが指をさしたのはわたしの隣。横を振り向くと短髪の綺麗な女の子が「よっ」と手を挙げていた。
「えええ!!?いつからいた!!?」
「あ!姪菜ちゃん!」
「おっす!久しぶりだな美兒!」
「え?知り合いなのこの人?」
わたしと銀さんが誰この人状態の時、リムジンの扉がカチャリと開きひとりの男が入ってきた。男はV字型の黒髪に瞳孔の開いたなんとも厳つい目をしていた。
執事の格好をしている、ということはこの方の執事なのか。
「遅いぞ!土方!」
「お前が突っ走って行ったからだろ。」
どうやら当たっていたらしい。彼はズカズカと入り込みわたし達ふたりにお辞儀をした。
「堂后お嬢様、ご無沙汰しております。」
「はい、お久しぶりですね。」
「そして姫路野お嬢様、初めまして。」
「は!はじめまして!!」
「私、浅井田姪菜お嬢様の執事をしております土方十四郎と申す者です。以後お見知りおきを。」
「こ、こちらこ「げェェェェ!!?多串くーん!!?」」
わたしの彼に対する挨拶は銀さんの不快な叫び声でかき消されていった。
それにしてもさっきの叫び声、どうやら知り合いらしい。彼の方を見ると大変嫌な顔をしている。銀さんの方を見ると顔が相当歪んでいる。どうやらお互い会いたくなかったらしい。
「んで、てめーがいんだよ!!」
「それはこっちの台詞だ!なんで車乗ってきた!」
「俺の馬鹿お嬢様が行きたいと駄々捏ねて仕方なく来たんだよ!!」
「だ、駄々捏ねてないし!!」
「なにお前執事してんの!?あんな嫌がってたのに!?」
「銀髪てめーもだろうが!!」
ぎゃあぎゃあ、わあわあと車の中が騒がしくなる。耳が痛くなるほどお互いがお互い叫びあっている。
わたしは静かに息を吸い込んだ。
「うるさーーーーーーい!!!!少しは黙りなさい!!!!」
「「「すんませんでした。」」」
「わかればよろしい。」
ぱちぱちと美兒さんが拍手をしてくれたので何か優越感でいっぱいだ。
それは置いといて、話を進めよう。
「え、てことは浅井田家も協力してくれるの?」
「当たり前だ!なんたって姫路野家はわたし達浅井田家の恩人だからな!」
え、え、どういうこと。言葉足らずでいまいちわからないわたしに土方さんはそっと耳打ちをした。
「実は倒産になりかけたことがありまして、その時助けてくださったのが姫路野家の方々だったのです。そのご恩をいつか返そうとあいつ自身機会を伺っておりまして。」
「そ、そうなんだ...。わざわざありがとうございます!」
「なーに!それくらいのこ、ぐぺ!!」
「お前お願いだからもう少しお嬢様らしくしてくれ!!頼むから!!」
「今更無理だよ!こういう風に育ったからさ!」
「せめて態度を改めてくれ...。」
どうやら彼女は自由人らしい。そんな彼女を見ていて羨ましいと思ったわたしはきっと品がないとお父様とお母様に怒られてしまうのだろうか。
「ったく、増えたのはいいけどよ。そんな簡単な任務じゃねェぞ?」
「大丈夫だ銀髪!土方は不死身だからな!」
「俺ァ人間だから死ぬ時は死ぬさ。」
「じゃあ死ね土方。」
「お前が死ね総悟。」
そして執事の方々は作戦の練り直しだとパソコンを叩きながらまた考え始めた。増えたのはいいが二手で考えていたので少し練り直すらしい。
それにしてもうちの執事はなんて、知り合いの多さなのだろうか。
「いいなァ。」
わたしもそんなたくさんの知り合いがほしかった。なんて言葉は口の中に閉じ込めた。
私の執事は人脈が広い
「...おーし!そんじゃ作戦できたことだし?」
「出発しやすか。ぶおーん。」
「え、ちょ、総悟スピード出しすぎじゃね?おお!?」
「「「わあああ!!?」」」
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