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「......すー。」

「......すー。」

「......。」

「......。」

「...あのー、総悟。」

「なんでィ。」

「こ、この方って、どなた様?」

「...執事。」

「いや、格好を見れば誰でもわかるけど。...じゃなくて、どうして凛華さんに寄り添って寝ているの?」

「......不法侵入者?」

「え、嘘でしょ。」

「さァ?」

「.........き、きゃああああああああ!!!

「「な、なにごと!?」」



バチコーンッ



「いってェェェ!!」










「おいおいおいおいおい総一朗くんよォ。」

「総悟です、旦那ァ。」



リビングの椅子に仏頂面で座っているのは先程美兒さんに不法侵入者と間違われビンタを受けた銀さんがいた。頬には赤い赤い手痕が残っている。どうやら思いっきりやられたらしい。


そしてその隣にいるのがわたし、向かい側にいるのは銀さんにビンタした張本人の美兒さん。申し訳なさそうに肩を狭くして座っている。その後ろでは面白そうにニヤニヤと笑う沖田さんがいた。わたしが思うに彼はきっと確信犯だ。



「初めてだぜ、手荒い招き方されたの。」

「す、すみませ、」

「「それは旦那/銀さんが悪い。」」

「ちょ、総一朗くんも凛華ちゃんも声揃えて何言ってんの!」

「だって、ね?」

「屋敷に入れた覚えのねェ野郎が入ってたら動揺するに決まってまさァ。自業自得ってやつですぜィ。」

「いやいやいや総一朗くんもそこにいたでしょ!?なんで説明してやんねーの知り合いだって!!」

「面白そうだったから煽ってみやした。」

「それが本心じゃねーか!!」

「いやァまさかこんな面白い展開になるとは。プッ。」

「総一朗くーん?」

「おっと旦那、あんたは俺に貸しがあるんでィ。」

「.....あー、やっちまったなオイ。」

「美兒、凛華お嬢様。人は貸しを作っておけばいざという時に役立ちやす。なんでも貸しを作ることを覚えときなせェ。」

「「はーい。」」

「ちょ!堂后お嬢様はいいとしてなんでうちの凛華にもそんなこと教えてんのォォ!?」

「あ、そういえば銀さんわたしに貸しを作っていたような...。」

「やめろォォォォォ!!」



頭を抱え唸る銀さんの頭をポンポンと叩く。沖田さんがいると銀さんを苛めることができるのでとても気分が爽快だ。いつもは苛められている側が突然苛める側となった時はこんな気分なのだろう。


さて、茶番はここまでにしよう。



「で、銀さん。」

「あぁ、わかってんよ。」



抱えていた頭を上げ、ふたりに向き直る。沖田さんは黙って美兒さんの横に座った。



「あっと、まずは...凛華がお世話になったな。」

「いえいえ、こちらこそお世話になりました。」

「美兒がお世話になりやした。」

「え、え?凛華お世話したの?」

「...お世話になった身なんだけどなァ。」



深々と頭を下げたふたりを見てただただ疑問しか浮かばなかった。



「で、旦那は今までどこにいたんでさァ。」

「ある組織んとこ。」

「組織?」

「......実はな、今裏組織内で姫路野企業の不正がバレつつある。」

「...父様。」

「で、俺はどこからその情報が漏れたのか調べてたわけ。そしたらあるひとつの組織に辿りついた。」

「その組織って?」

「姫路野企業の親会社、つまりお前の祖父にあたる人だ。」

「え、でも爺様は数年前に亡くなられて。」

「そう、姫路野家の祖父様は数年前に亡くなられている。どうして親会社が起動してんのか、何のメリットがあって姫路野企業の不正情報を流したのか、そこが問題だったわけ。」

「それを調べに行ってたのですか?」

「あぁ、調べてきた。凛華。」

「なに?」

「祖父様の死去はマスコミに発表していないよな?」

「うん、爺様はマスコミが大嫌いで死ぬ時ぐらいは静かに眠らせてくれと遺言が残ってたから厳重にマスコミを警戒しながら身内だけのお葬式をしたよ。」

「そう、祖父様の死去を知るのは身内の奴らだけ。他の奴らは情報が漏れていないわけだ。つまり一般人の奴らだと親会社の祖父様はまだ生きていると信じているから会社を起動するという考えは浮かばないわけ。」

「じゃあ、身内の誰かがやったということなの?」

「そーいうこと。」

「旦那はそれを調べに?」

「おう、茨の道を辿って頑張ってきたぜ。」

「!」



やっぱり危険な道を辿ってきたんだ。私たちの問題なのに銀さんまで危険な目に合わせて、何もできないわたしは最低だ。ただこうして銀さんに情報を聞くことしかできない。



「で、その身内というのは?」

「まあまあ落ち着けよ。その前に凛華、旦那様と奥様は同じ仕事をしてんのか?」

「会社は同じだけれどふたつに分かれているの。父様は通信企業や電機企業など大掛かりなもの担当、一方母様はファッションやインテリといったデザインを目的としたもの担当なの。」

「ちなみに祖父様の会社は?」

「爺様は、やっぱり一緒。爺様と婆様で分担して仕事をしていたわ。」

「凛華さん、お婆様は今どちらに?」

「今はお仕事は全て父様と母様に任せて離れの方でのんびりと暮らしております。」

「そうですか...。」

「...おーっし。これで確信できた。」



うーんと背伸びをして笑顔で銀さんは言った。一体どういうことだろうか?



「まず結論を言う。姫路野企業は代々から不正を行っている。今回の調査でそれがわかった。USBにも証拠が入っている。」

「え、」



銀さんはポケットから出したUSBをテーブルの上に投げた。



「そしてそれを知っている唯一の身内、っていうか傍にいる人がそれを阻止しようとしているのも代々受け継がれたこと。」

「!旦那、そりゃ!」

「あぁ、そうだ。」



もしかして、



「姫路野家の奥様が旦那様の不正を暴こうとここ何年も頑張っていたんだ。」

「母、様が...?」



そういえばとふと思い出される。母様は父様より家にいることは多かったが机のパソコンに向かう時間も多かった。また婆様のお宅に伺った時もふたりでいる時間が多くわたしは入れてもらえなかった。



「えーっと、旦那。つまり姫路野家の旦那様の不正を暴こうと奥様が働いていることはわかりやした。けど親会社を起動させたのは誰でィ?」

「祖母様だろーな。」

「婆様が!?でも、仕事は引退したとお聞きになったのに。」

「勿論仕事は引退してるさ、不正行為取締以外はな。」

「え!?」

「つーまーり、代々会社を受け継がれた旦那様達は不正を何が何でも隠し通せと教えられている。そして代々その旦那様の奥様となる方々は旦那様の不正を暴くように言われていたわけさ。」

「でも、どうしてそんなこと。」

「.....んなの簡単なことだよ。」



ニコリと笑い銀さんがこちらを見た。



「愛する人が悪の道に染まっていこうとしてんだ。それを阻止したいと思う気持ち、わかるだろ?」

「......うん。わかる。」



理由は定かではないが痛いほど、わかる。



「さて、これからどうすっか。」

「旦那、そんなこと簡単でさァ。まず手始めに奴らをぶっ倒さねーと。」

「「奴ら?」」



ニヤリ、黒い笑みで笑う二人をみて私たちは何も言えなかった。







私の執事が暴いた



「くしゅんっ!」

「奥様、風邪でございますか?」

「い、いいえ。少し肌寒いわ。窓を閉めて。」

「畏まりました。」

「...(銀時くん、凛華を頼みましたよ。)」



 
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