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「お待たせ致しやした。」



コトンと目の前に置かれたのはどこかの高級店で出されるであろうディナーだった。食べ物はここまで光輝けるのだと知った瞬間だった。


わたしも一応お嬢様育ちだからこのような高級料理は見慣れているし味わい慣れている。しかしそれは母様が料理をしていた時だけ。


最近は銀さんがわたしのお世話係だから銀さん好みの食事が出される。初めは「これが庶民の...」と驚きを隠せなかったが今はそれが当たり前になっていた。


こんな綺麗な料理、久しぶりに見た。



「本日のディナーは蝦夷鮑のムニエル、肝ソース、トリュフ・リゾット添えでさァ。」



その蝦夷鮑のなんたらという料理名を左脇から私たちの目の前に置いた沖田さんが呪文のようにつまづくことなく言った。



「す、すごっ。」

「え、凛華さんもしかして気に入りませんでした?」

「いやいや!こんな料理、久しぶりに見たもので...。」

「それでは凛華さんはいつもどんなものを食べていらっしゃるのですか?」



カチャカチャとフォークとナイフを上手く使いこなして口の中に運んでいく。なんとも言えない味が口の中で広がった。舌が慣れていないのか美味しいとも不味いともなんとも言えない不思議な味だった。



「いつも?前は母様が作ってくださっていたけど、今は銀さんが作っていまして...。」

「旦那が?それはいけねーや。」

「え、いけないの?」

「旦那は史上最悪の甘党男でさァ。俺が想像するに朝昼晩全て甘いものが出てるんじゃ。」

「あ、それは止めさせました。わたしも糖尿病予備軍に入りたくないので。」

「それは安心でさァ。姫路野お嬢様のお身体が糖に犯されるわけにはいきやせんからね。」

「本当です。」

「......ぎ、銀さん。想像できないお方になってきました。」



そんな雑談も交えながら次々とディナーが出されそれを全て食べ終え、入浴の前に沖田さんにわたしが泊まる部屋へと案内された。


案内されている時、沖田さんがふと思い出したかのようにわたしの名前を呼んだ。



「姫路野お嬢様。」

「あ、普通に呼び捨てでも大丈夫ですよ。年が近いので敬語も無しで大丈夫です。」

「......それじゃあお言葉に甘えて。凛華お嬢様。」

「はい、なんでしょう?」

「旦那は元気にしてやすか?」

「元気ですよ、ピンピンです。」

「失礼なことされてやせんか?」

「毎日が失礼なことだらけなので。」

「想像できまさァ。」



クスクスと笑う沖田さん。わたしもつられて笑った。



「聞きやしたか、旦那の過去。」

「少しだけ聞きました。」

「......実は凛華お嬢様に、お願いがありまさァ。」

「お願い?」



キィと部屋の扉を開きてきぱきと準備をしながらわたしに話した。その話を近くにあった椅子に腰かけて聞いた。



「旦那はねィ、人には話やせんが態度でわかる人なんでさァ。学校にいるときもいつもそわそわしてて。クラスみんな気味悪がってるって高杉から聞きやした。」

「そ、そわそわ...っぷ!」

「で、疑問に思った俺は旦那に直接聞いてみたんでィ。そしたらその時は機嫌が良かったのか素直に話してくれたんでさァ。」

「な、なんて?」



バサァと、ベッドの毛布が宙を舞う。



「会いたいやつがいる、ただそれだけでさァ。」

「会いたい、やつ......。」



その言葉を聞いて自意識過剰の身体が反応した。



「旦那は何年も何年も会いたいやつのことを思って、大嫌いだった勉強を甘いのにしか興味がないのに他のジャンルの料理を習って実践して。それらを全て習得して旦那は会いたかったそいつに会いに行った。」

「......そうなんですか。」

「昔から無茶ばかりする癖は未だに治ってないみてェだし。本当、世話のかかる人でさァ。」



つまり?沖田さんは何が言いたいのだろう。



「昔からつるんでいた俺が言うんでィ。」



ニコッと笑いわたしの方へ歩いてきた。きっと準備が全て整ったのだろう。月に照らされる彼から目が離せなかった。



「旦那はあんたを心の底から愛してやす。だからあんたも心の底から旦那を愛してあげてくだせェ。」

「......はい。それは勿論です。」

「旦那は無茶ばかりをする。その癖脆い。ボロボロになったときあんたが必要となる。」

「つまり、沖田さんがわたしにお願いしたいこととは?」

「そうですねィ、まあ要するに

旦那の帰りを信じてやってくだせェ

ってことを言いたかったんでさァ。」

「......最初からそう言ってくださればよかったのに。」

「昔話を交えながらの方が面白いと思ってね。しかし話が纏まらなくて困りまさァ。」

「......本当、困りましたね。」



苦笑いを浮かべれば沖田さんも苦笑いを浮かべ、部屋の説明を一通りした後この場を去った。


ベッドに身体を埋めてわたしは今日一日を振り返ってみた。目を閉じれば無茶ばかりする執事、そして美しい色に輝く女性の瞳。本当内容の濃い一日だった。



「銀さん......。」



再び瞳を閉じれば無邪気な笑顔の銀さんが映る。


早く、会いたいな。







私の執事は瞳の奥



「凛華......。」

「銀さん......。」

「「会いたい。」」

次開けたときにはあなたがいますように、

そう願いながら瞳を閉じた。



 
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