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「ーーーー!!!」
「ーーー!!?」
「......ん?」
なにやら騒ぎ声が聞こえる。ぼやける意識と視界を晴らそうとする。わたしは目を擦りながら体を起こした。それと同時にバサッと何かが落ちた。
「「あっ。」」
「え?」
そこには肩を掴む栗色の青年と肩を掴まれた涙目のお嬢様らしき人。見た感じ修羅場というやつだ。
「......ごめんなさい。わたし何も見てないんで本当。ごめんなさいすんません。」
「ああぁあぁ!!!姫路野様誤解ですぅぅ!!!」
床に落ちた毛布をとり再び寝ようとしたが馬鹿騒ぎするお嬢様に止められた。今気づいたがどうやらわたしはソファで寝ていたらしい(しかも高級品)。窓から見える景色はオレンジ色に輝いていた。
「お目覚めですかィ、姫路野お嬢様。」
「え、えぇ。ところで、」
ここは?という疑問を瞬時に予測したのか栗色の青年はわたしの言葉を遮り答えた。
「此処は我が主の豪邸、堂后豪邸でさァ。姫路野お嬢様は朝から大分お疲れのようでしたのでお車の中で熟睡していましたところお連れ致しやした。」
「そ、そうなんですか。」
確かに朝っぱらから色々ありすぎて疲れている気持ちもわかるが他のお嬢様の車の中で熟睡などこの上はしたない。
「すみません、ありがとうございました。」
「いえ。そういえばご挨拶をしてやせんでしたねィ。」
「総悟、それはわたしの仕事だよ!」
そう言って一歩わたしの前に出たお嬢様。そのお嬢様を「やれやれ」という感じで横に捌けた。くりんくりんの可愛らしい猫っ毛にぱっちりな目。なんとも可愛らしい印象を持つお嬢様だった。
「お初お目に掛かります姫路野様。私は堂后美兒と申します。そして横にいるのがわたし専属の執事、沖田総悟です。」
「沖田総悟でさァ。」
お辞儀の角度45°。さすが一流会社を経営する主のお嬢様の執事といったところか。無駄な動きがなかった。
その姿をわたしはどうしても銀さんと重ねてしまった躊躇な気持ちを隠すように立ち上がり挨拶をする。
「はじめまして、姫路野凛華です。今日はこんなにお世話になってしまい本当に迷惑掛けます。」
「こちらこそお嬢様の憧れの方と知らず失礼な態度を取ってしまい、大変恐縮でさァ。」
「あ、憧れ?」
「そうなんですっ!」
ガシッとぶら下げていた手を掴まれキラキラと目を輝かせながらわたしを見つめる。その姿がどうしても餌を待つ犬にしか見えなかった(失礼だが)。
「姫路野お嬢様は女性の誇り、いや、女神様ですっ!凛とした姿勢、美しい容姿、そしてダイヤモンドの輝きよりも美しいその笑顔!!!まさにわたし達女性の女神様ですっっ!!!」
「熱弁しすぎて気持ち悪ィ。」
「だって、だって!お客様がお見栄になるから誰かと思えば姫路野様で!わたしまだ心の準備ができてないのに!」
「だから言ったろィ?準備できてから会えばって。」
「その時間すら勿体ないよーっ!」
「......美兒、話が噛み合ってやせん。」
「だってー。」
あぁ、さっきの騒ぎ声はこのふたりか。そして騒ぎの原因はわたしなのか。なるほど、解決できた。
「......堂后と申しますとどこかでお聞きしたような。」
「はい、御社は主にモデル業を中心に活動してやす。最近話題になっているモデルや俳優、女優は御社出身が多いです。」
「あ、そう!モデル業!」
どこかで聞いたと思えば堂后会社はモデル業界の支配人とも呼ばれる大規模な会社。人を見分ける能力が高い社長が選ぶモデルは必ずといっていいほど大反響する凄腕会社だ。
「沖田さん、もしかしてですけど、モデル業したことありますか?」
「......恥ずかしながら一度だけ。」
そういってにこりと笑う彼の笑みには黒い影があった。思い出したくもない、顔がそう語っていた。
「そうなんです。一度だけモデル不足で助っ人として撮影したら大反響で。執事なんかやめてモデルをしたら今頃トップアイドルのところまで行っていただったろうに。」
「別にいいんでさァ。俺はこっち(美兒苛め)の方が向いてやす。」
括弧の中見えましたよ今。沖田さん今のその顔最高に輝いている。オプションで顔の周りに何かついていますよー。
一方の美兒さんは気づかなさそうに「そうなんだぁ」と返事をしていた。もしかして鈍感?
そんな堂后さんの頭をくしゃくしゃと笑顔で撫で回す沖田さん。ふたりの雰囲気はお嬢様と執事というより彼女と彼氏だった。わたしはそれを羨ましそうに見ていた。
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