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「......。」

「......。」

「......ね、ねぇ高杉。」

「あぁ?」

「いつになったら降ろしてくれるの?」



彼は随分長い距離をわたしを抱えながら走っている。呼吸が乱れている様子はないがさすがに疲れたのではないかと思った。


しかし、余計なお世話だったらしい。



「お前ェ降ろして走らせても鈍そうだからいい。」

「の、鈍くない!」



なんて失礼なやつなんだこいつは!仮にも執事だよねしかも他のところの執事だよね!?主にそんな物事はっきり言うか普通!?


私たちは絶賛逃走中、なにかわからない組織から必死に必死に。別に何かをされたわけでもましてやわたしを追いかけているかもわからないが、とにかく逃げ出した。そして未だに銀さんの行方がわからず。


......本当に、銀さんの馬鹿。


わたしの推測通りだと銀さんは父様のところへと行ったはずだ。本当は追いかけて見つけてボコボコに殴って暴言吐きまくって抱き締めたいが、約束を破れないわたしは部屋から出られなかった。


そして今現在どこの誰かもわからない組織が侵入し危険な状態のため、こうして高杉に抱えられながら家を後にするのだった。


しかし今の時間帯は朝。見渡しもよく更にいえば今日の天気は絶好調快晴だ。だから敵さんにとっては視界がいいのであちこち敷地内を探し回る。


その敵さんのせいで家そのもの(というか豪邸)からは出れたがまだ敷地内にいた。木を死角に座り込んで奴らの動きを見る。



「豪邸内確認終了致しました!」

「いたか?」

「はっ!今のところ確認はありません!」

「敷地内にいる可能性が高いな...。よし、敷地内を徹底的に探せ!」

「いえっさー!敷地内だ敷地内を探せ!」



「......チッ、まずいな。」

「どどどどどうしよう。」



ここにずっといたら見つかるのも時間の問題だし、かといって変に動き回るのも見つかる危険性が高くなる。まさに絶体絶命の時だ。



「た、高杉ィー。」

「んな顔で見んな。犯されてーのか。」

「だからなんでそういう発想になるの?」

「男は大体そんなんだ。」

「いや、それを口に出すのはどうかと...。」



高杉はイライラしているのか眉間に皺を寄せ貧乏揺すりをする。その振動が全部抱きかかえられているわたしにもくる。地味に痛い。



ブー ブー

「!!!!?」



突然鳴り出すバイブレーション。それに驚き息を飲む。それは高杉のズボンのポケットから鳴り響いていた。



「び、びっくりさせないでよ。」

「......。」



携帯を取りだし相手を確認した後、わたしに差し出す。未だに震えが止まらない携帯。わたしはそれを反射的に受け取った。



「ってなんでわたしに渡した。」

「お前が出ろ。その間脱出ルーツ考える。」



ちぇ、と言いながら渋々携帯の画面を出し通話ボタンを押した。それを耳元に当てる。



「もしも『高杉ィ、10分過ぎてやすぜ。』」

「『あれ?』」



電話に出たのは江戸っ子口調の男の人だった。勝手な想像でてっきり女性だと思っていたので驚きの声が出る。



『あんた、誰でィ。』

「え、あ、あーと、姫路野凛華です。」

『......高杉の女?』

「死んでもそんな下らないモンには成り下がりません。」

「んだとゴラァ。」



会話が聞こえていたらしい、高杉に鬼の形相で睨まれた。目線を高杉に向けず再び耳を傾ける。



『高杉はどこでィ?』

「ここにいますけど電話に出れない状態なので代わりにわたしが出ました。」

『なるほどねィ...。とりあえず今どこでさァ。』

「今はまだ敷地内にいます。」

『姫路野邸敷地内かィ?』

「うん、とにかく見張り?敵さん?がすごく多くて。」

『見張り?敵?なに厄介事巻き込んでんでィ。』

「え、あ、さーせん。」

『面倒くせーこと巻き込んだ高杉には貸し2でィ。』

「そう伝えときます。」



ざまァみろィ、そう電話越しで呟く声は悪魔の囁きにも聞こえた。後で高杉にどんまいの一言でも掛けてやろう。



『とにかく早く敷地内から抜け出して公園に来てく出せェ。リムジンだとかなり目立つんでィ。』

「リムっ...!?」



あんな普通の子供が遊ぶ公共施設の横にリムジンを止めているだと!?子供達が珍しがって周りを囲まれるのでは!?



『わーっ。兄ちゃんの車かっくうぃー。』

『俺これ知ってるぜ!エンジンっていうんだぜ!』



少年よ、それは車の内部分にあるものだ。ジンしかあっていない。



『あー、うるせェよ下級国民が。近寄んな。』



え、この人なんか言った?子供相手に容赦なく言ったよね?


と、その時だった。



「おい、行くぞ。」



グッと体に回された腕に力が入る。わたしが有無を言う前には既に木を登っていた。わたしを片手で支えて木を猿みたいに登る。



「だ、大丈夫?重たくない?」

「......腕折れる。」

「後でまじで折ってやるよ。」



乙女の心を一瞬でズタズタにした罪は重たい。とりあえず現在の状況を伝えるため電話をしている男を呼び掛けた。



「もしもしー!?」

『だから失せろよ蛆共。『わぁーん、母ちゃーん!』餓鬼は家でミルクでもしゃぶってろィ。......あ?呼ばれた?』

「呼びました。」



次の言葉を言おうと口を開けば高杉がわたしの腕を掴み自分の耳に携帯を近づけた。



「俺だ。今から姫路野敷地内の南東に車を止めろ。......うるせェごちゃごちゃ言ってねーで来い。あ?餓鬼だァ?ひいてでも来い。」

「いやダメでしょ!?」

「......いいから早く乗れ。着いたら携帯鳴らせ。」



そう言って電話を切った。その時私たちは少し高い場所まで登っていた。塀がギリギリ越えられるか微妙なところだ。



「てかあんたたち子供に対して態度悪すぎでしょ?」

「ギャアギャアうぜー。」

「それが子供の仕事なんだからさ。」

「あぁ?あいつら何様だよ。」

「お子様だよ。」

「......ちっ。」


 
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