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「ん、うぅ......。」
静かに唸りながら寝る愛しの凛華お嬢様。さっき真っ赤になりながら一緒にいて、と言われたからこうして隣で頭を撫でながら見つめている。
長い睫毛、潤んだ唇、白く透き通った肌。どれも俺を俺じゃなくさせる媚薬である。さらに月の光が彼女を照らすので余計そそられる。
襲おうと思えば襲えるが俺はそこまで落ちぶれていない。まだ理性は保てる。
「凛華...。」
さらさらした髪を指に絡ませながら撫でる。その度に緩む頬を見つめる。なんて幸せな時間なんだろう。この時間がいつまでも続けばいいのに。そう思っても長く続かないのは自分が一番よくわかっている。
「......。」
時計をちらっと見たら約束の時間まで残り数分。そろそろ行かなければならない。俺はそっとベッドから降り上着を着てその場を去った。
目的地は俺が使っている部屋、ではなく外へと続く玄関。扉を開けると冷たい風が体を包み込む。寒い、その一言だ。
そして玄関に立っているひとつの影。
「よォ、随分遅ェじゃねーか。」
「高杉。」
そこには口から煙をはいた高杉がいた。高杉がはいた煙は夜空へと消えていく。
「姫様寝付けるのに一苦労か?」
「まあな。なんせ可愛い姫様ですから。」
俺が離れられなくて一苦労だよコノヤロー、とぼそりと呟けば聞こえていたのか高杉は独特の笑い方をする。こいつの笑い方は昔から気に食わねー。だから嫌いだ。
「お前んとこの姫様はひとりか?」
「まあな。他に使用人がいるから大丈夫だろ。」
「寝付いたのか。」
「簡単に寝付いたぜ。」
「......まさか、手ェ出してねーよな。」
「さァな。」
おいおい、いくらなんでも執事が姫様に手ェ出したらいけねーだろ。お前は女関係となるとなんでも早いよな。
呆れた目で高杉を見る。
「......で、行くのか。」
再びふぅと煙をはき地面に灰を落とした。その一部始終を見終わり俺は言った。
「あぁ、だからよろしくな凛華のこと。」
「じゃあ、よろしくしとくわ。」
よろしく、のところをわざと強調する高杉に殺意が芽生える。わざとだとわかっていてもやはり腹が立つ。
「お前ェ手出したらぶっ殺すからな。」
「ククッ、安心しろ。あんな幼稚お前しか興味持たねーよ。」
「あぁん?てめまじで凛華の良さわかんねーようだな。おーし、わかった。帰ってきたらとことん語ってやらァ。」
「帰ってきたら、な。」
その言葉に言葉を詰まらせる。そう、俺は今から執事としてしてはいけない禁止行為をしようとしているからだ。
「......じゃあな。」
「せいぜい死なねーようにな。」
「はっ、死ねねーよ。簡単には。」
俺は高杉に背を向け、暗い暗い道を歩いていった。振り向きたかったがそんなことをしたら凛華まで巻き込んでしまう。
重たい足を前へ前へ無理矢理進めていった。
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