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頭がぐらぐらと揺れ動く。今は動きすぎて気分が悪くなった。吐きそうだ。
どうしてこんなに頭が動いているのかというと、わたしのあの執事のせいである。
それはつい数分前のことだ。
わたしは今まで胸の奥にあるものを全て銀さんにぶちまけた。銀さんのことばかり考える、自分のことなんにも教えてくれない、教えてほしい銀さんの過去を。
そんなことを言った気がする。そう言うと悲しそうな顔で、
「俺の惚れた女、姫路野凛華お嬢様のあるやつを潰すためだ。」
とわたしに言った。
落ち着こう、ツッコミ所は多々ある。ひとつひとつ解決させていこう。
そう思って聞こうと口を開いた時だった。
「......寒ィし、一旦家帰るか。」
「え?」
「寒くねーか。俺凍え死にそう。」
両手で肩を持ちぶるぶる震える銀さん。
「それに、」
「それに?」
「大事なお嬢様が風邪引いちゃうからな。」
「え!?あ、そ、そうだね?」
不意打ちの言葉。さっきあんなこと言われたばかりだから意識しすぎてしまう。頬が自然と赤くなっていく。
「おら、帰ろう。」
銀さんの綺麗な手がわたしの目の前に差し出される。しかし握る勇気がなくうじうじしてしまう。
「ったく。」
「だ、だって......わっ!?」
言い訳をしようと顔を上げたら両手を掴まれ立ち上がらせる。わたしの身体はゆっくりと銀さんの胸の中へと入っていった。
「あー、やっぱ子供体温はあったけーな。」
「なっ、あ、う!?」
「......ははっ!話せてねー!」
身体が離れ私たちはいつもと違う関係で家へと帰っていった。
家に帰りいつも通りに食事をし風呂に入り話の機会を伺っていた時だ。
「寝る前に、話すか。」
「あ、うん。」
そして現在、銀さんをソファの上で正座状態部屋で待っている。しん、と静まる部屋の中貧乏揺すりしながら待っております。
まだかな、と扉の方をちら見すると。
ガチャッ
「悪ィ、遅れた。」
頭の上にタオルをのせてスウェット姿で来た銀さん。いつもスーツとか正装だったからスウェット姿が新鮮で思わずガン見する。
「なに?そんなに格好いいか?」
「え、あ、いや、新鮮だなーって思って。」
「あぁ。いっつもスーツとかだからなァ。」
ガシガシと頭を拭きながらわたしの隣へと座る。
いよいよか、ごくりと唾を飲む。
「凛華...。」
「銀さん...。」
どくんどくん、と心臓が鳴り響く。相手に聞こえるんじゃないかってくらい大きな音で暴れまくっている。
「......腹減った。」
「は?」
お腹をさすりながら答える。
「いや、ご飯食べたでしょ?」
「この時間はSweetStimeだろ。」
「無駄に発音いいな!」
「嘗めんなよ俺の発音。先生に褒められまくったからね褒められ過ぎて皆引いてたからね。」
「気持ち悪い褒め方されたんだねェ、って。」
「あ?」
「そんなことはどうでもいいでしょォォォォ!!!」
銀さんの胸ぐらを掴み上下左右に揺らす。
「何で焦らすんだ!!!こっちも心の準備ってモンがあるの!!!無駄にすんなァァァ!!!」
「いやー、悪ィ悪ィ。俺シリアスパート苦手でさァ。」
「そういう問題じゃないでしょォォォ!!?」
ボゴッ
「す、すんません調子乗りました。」
「ったく...!」
溜め息を大きくつき足を組む。
「あー、どっから話せばいっかなー。」
「最初から最後まで。」
「俺が生まれたときから?」
「どうしてそこまで戻るの!!?」
銀さんは中々話を進めようとしない。本当は話すの嫌なのかな。
「......ごめん、無理矢理話させようとして。」
「なんで凛華が謝んだよ。俺の方だろうが。」
肩をポンポン、と叩き笑顔で言う。
「話の整理してたんだよ。」
「ふーん...?」
少し怪しいが、まあいいや。
わたしから目を離し遠くの方を見つめる。その横顔を見つめた。
「あれは、俺がまだ餓鬼の頃だった。」
私の執事の覚悟
目を閉じ、当時の銀さんを想像してみる。
なぜか心が暖まってきた。
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