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「ところで高杉がどこにいるかわからない?」
「高杉ですかィ?高杉なら矢作お嬢様の様子を見に屋敷に戻りやしたけど。」
「拓羅嬢......。」
獲物を狙うようなつり目に怪しい笑み。拓羅嬢の顔が思い浮かぶ。彼女に睨まれると蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなる。昔から苦手だ。
「なんだかんだで執事はお嬢様のことが心配なんでさァ。」
「......そういうモンなのかなァ。」
「そういうモンなの?」
「そういうモン。」
そう言って沖田さんが優しく堂后さんに微笑みかけると茹で蛸のように彼女の顔は真っ赤になった。そして「ずるい」「反則」などとボソボソ呟いていた。
「......おふたりは、もしかして恋仲?」
「「はいっ!!?」」
ソファに腰掛け尋ねるとふたりとも目を見開いてわたしを見てきた。その反応が可愛らしくてつい笑いが出る。
「こここここ恋仲なんてそんなっ!」
「大体俺らは執事とお嬢様でィ!そんな恋仲とかなれる同等の身分じゃありやせん!」
「関係ないと思うけどなァ、身分とか。恋は自由だと思うよ?」
「......でもわたし達お嬢様は結婚相手は選べません。恋の自由など選べません。わたし達の道標はもう既に引かれているのです。」
「......美兒。」
ぎゅっと胸に拳を作り強く握る。怒りか恐怖かはたまた自分の弱さにか彼女の拳は微かに震えていた。そしてまるで自分に言い聞かせるように、言った。
「だから執事との恋愛などは論外に等しいのです。わたし達は道標を辿る運命なのです。」
「それは違うのでは?」
ソファに深く腰掛けわたしは言葉にした。
「わたしも最初は身分の違いに悩まされた時期がありました。しかしある人がわたしに教えてくれました。それは相手のせいにしてただ逃げているだけだと、そして逃げるなと。」
「......旦那ですかィ?」
「旦那?」
「代々姫路野家に使えている坂田一家の長男でさァ。」
「.......銀さんですね。」
瞳を閉じる。瞼の裏にはあの日他人を言い訳にして逃げていたわたしを怒鳴る銀さんがいた。
「その日から身分や親関係無くわたしは自由に過ごすことに決めました。勿論恋愛もです。」
「......姫路野様、今そのお方は?」
「どこかへ消えました。」
えっ、その声が緊迫した部屋に響いた。沖田さんは黙ったまま下を向いた。
「寂しく、ないですか。」
「寂しいです、辛いです、悲しいです。今だって会いたくて会いたくてたまりません。
だけど彼はわたしのために戦ってくれている。」
「えっ。」
「そんな彼にわたしは、恋してるんです。」
そういって微笑むと美兒さんの頬に一筋の涙が流れた。沖田さんは黙ってハンカチを差し出す。彼女はそれを受け取り目に押し当てた。
「姫路野、様っ。」
「なんですか?」
嗚咽混じりの声でわたしを呼ぶと横にいた沖田さんの袖をきゅっと掴んだ。沖田さんは驚いて目を見開いた。
「やはり貴方様はわたしの憧れですっ!」
「ありがとう、光栄だわ。」
ふたりで微笑みあった。
私の執事を待つ
「......お嬢様方、そろそろご夕食の時間でございやす。」
「もうそんな時間?姫路野様!宜しければ御一緒致しましょう!」
「凛華で大丈夫ですよ、美兒さん。」
「......はいっ!凛華さん!」
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