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「凛華ちゃん、高杉くんとなんの進展もないの?」


「......はい?」


寒いこの季節でも冷たいジュースというのはやはり美味である。その中でもこのミックスジュースは格別で、とかなんとか考えた時に言われた。


勿論ミックスジュースは驚いてわたしの口から垂れてくる。


「汚いわよ。」


それをものすごく汚いもの扱いされた目で見る一応親友の妙ちゃん。これ以上の視線は痛いので、ポケットからハンカチを取りだし口元を拭った。


「だって、妙ちゃんが急に変なこと聞いてくるから。」


「あら?変なことじゃないわよ?」


「それじゃあわたしがまるで高杉くんを好きみたいな、」


「凛華ちゃん、まだ隠し通せてると思ってるの?」


馬鹿ね、そう言って豆乳ジュースを飲み干したのか立ち上がりゴミ箱に歩いていった。そして空になったそれを入れて苦笑い。こっちもつられて苦笑いになった。


「まあ、わたしわかりやすいもんね。」


「わかりやすいのレベルじゃないわ。で、何もなかったの?」


「......あったよ。」


「あら、高杉くん意外と積極的。ちなみに何があったの?」


ふう、と頬杖を突いて溜め息をつく。それを見た妙ちゃんは申し訳なさそうに下を向いてしまった。悪いことをしてしまった。


「実はね、」


「うん。」


「最近、高杉くんと話してないんだァ。」


「そういえば見掛けないわね。」


「なんかねわたしが話そうとするとどこかへ消えるの。あからさま避けてるの。」


「何故、かしら。」


「わかんない、わたしが知りたいよ。昨日総悟に抱きつかれてそれから何も話してないとか本当に寂しい。」


「......今なんて?」


「え?昨日総悟に抱きつかれたの急に。それから話してないんだー。」


「抱き、つかれた?」


「うん、急に。」


「嫌がらなかったの?」


「私たち幼馴染みだよ。嫌がる理由がよくわからない。」


「............。」


妙ちゃんはわたしよりも深く深く溜め息をついた。溜め息をつく理由がわからないわたしは頭の上にハテナがたくさんだ。


「凛華ちゃん、もし高杉くんに抱きつかれたらどう?」


「え!?高杉くんに!?そそそそそんな恐れ入ります!!!」


「沖田さんとは違う?」


「違う全然違うよ!!!」


頭の中に高杉くんに抱きつかれる妄想が炸裂する。恥ずかしくなり熱くなった体を包み込むように縮こませた。


「きっと、きっと高杉くんに抱きつかれたらわたしがわたしじゃなくなるね。恥ずかしくって顔真っ赤にして心臓ドキドキさせて。」


きっと今まで見たことのないわたしが、表に現れる。


「それを伝えるべきよ。」


空を仰ぎながら妙ちゃんは言った。青空いっぱいが背景に映る妙ちゃんはかっこよかった。


「凛華ちゃんにとって高杉くんは特別よって。」


「今、なの?」


「凛華ちゃんのことよ。わたしが決めるべきではないわ。」


ふふっ、と笑い頭をポンポン軽く叩かれ妙ちゃんはその場から立ち去った。わたしはその場から暫く動けなかった。


遠くでチャイムの音が聞こえるけど、今はそれどころではない。そりゃ授業も大切だよ?だけどわたしにとって授業より優先すべきことがあると思う。


「......わたしはわたし。」


気がつけば足が動いていて、向かう場所は無意識であそこだなんて決めつけていた。なんとなくそこの気がする。


3Zの教室を通りすぎ、もっと奥へと走り抜けていく。ここは使われていない教室が多々ある。


その中のひとつを、迷いなく開けた。


「......み、みつけた。」


「......。」


使われていない机の上で胡座をかいていた。やはりわたしが話しかけても全部無視。


「高杉くん。」


「.......。」


「高杉くん!!!」


「......。」


「たか、すぎ、くんー。」


涙を堪えてその大きな背中に近づき、抱き締める。何故抱き締めたかわからない。ただこの方法が一番伝わると思ったから。


相変わらず高杉くんに反応はない。


「わたしね、高杉くん好きなんだ。」


「......あ?」


あ、やっと反応してくれた。


「いつの間に好きになったとかわかんない、どこが好きとかわかんない。けどこの気持ちに偽りはないよ。」


「......。」


「初めは怖い印象が強くて関わりがないだろうな、って思ってた。だけど「ありがとう」って言われたあの日から話すようになって、高杉くん意外に面白いって思った。」


「面白い、ねェ。」


「それからわたしは高杉くんを意識し始めた。」


ぎゅっ、腕の力を強めた。ほんのり香水とタバコの臭いがする。


「ごめんね迷惑だよね。だけどね、高杉くんはわたしにとって特別ってことを伝えたくて、」


「......馬鹿野郎が。」


次の瞬間、体を引き離される。高杉くんと向き合う形になった。片方しかない瞳とわたしの瞳が交差する。


「やっと、やっと話せた。」


ホッとしたら耐えていた涙がボロボロ出て、止めようとしても止めれなくて。腕で目元を覆っていたがその腕を高杉くんに掴まれた。こんなことされたら泣き顔を見られる。


「ちょ、だめ。今は、」


必死にもう片方の腕で顔を覆う。


「......悪ィ。」


「あ......っ!」


その腕を引っ張り、わたしを高杉くんは腕の中へと引き寄せた。もう恥ずかしいを通り越して呆然としていた。


腕の中、より一層響き渡る声にみみをかたむける。


「嫉妬。」


「え、嫉妬?なんで?」


「嫉妬、ここまで言ったらわかれ。」


頭をグリグリとされる。


「痛い痛い!」


思わず顔を上げてしまった。意外にも高杉くんとの距離は近く今度は唖然としてしまった。


「ククッ。」


相変わらずの特徴のある笑い声が響く。その笑い声は徐々に近づいていった。


「さァ、始めようか?」







るーるはわたし







あなたの開始の合図と共にゴングがなる。

ドキドキしてワクワクしてハラハラして、泣きそうになるこの感情を人は恋と呼ぶらしい。

これを恋と呼ぶのなら、わたしは今現在もそしてこれからも

あなたに恋をする。




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