》カイとシュウの仲良しっぷりにもやもやする白竜で遊郭パロ

※時代考証むちゃくちゃです。
※神園屋=ゴッドエデン 



 シュウは番付にゆっくりと目を通していた。ふと、微かな物音を感じて襖に目をやると、すぱんと小気味のいい音を立ててそれが開いた。

「シュウ! また来たぞ。何を見てるんだ」
「やあ白竜。昨日届いたばっかりの、番付だよ。ここに閉じこもっていると、外のことがよくわからなくなるからさ」

 シュウは重たい着物を引きずって、光のさす障子を見やった。白竜は苦虫をかみつぶしたような顔をして、そっと彼の隣に座る。「お前をここから、出してやれればいいのに」

「それは無理だよ。白竜だって、わかるだろ?」
「いや! 必ず出してやる。そうだ、今は確かに難しいが、俺は日本一の、いや究極の船問屋になるんだ!」
「まーた始まった」

 白い頬を上気させ、嬉々として未来を語る白竜とは対照的に、シュウは投げやりにため息をついた。心外そうに白竜が眉根をよせる。

「いつもお前はそんなことをいう。船と商い主の間を仲介し、国中の様々な場所に行ったり、色々なものを見ることに魅力を感じないのか?」
「それは楽しそうだけど、ボクが言いたいのはそういうことじゃなくてさ……」

 ボク、遊女だからさ。シュウのけだるげなつぶやきに、白竜は苦虫をすりつぶした青汁を煽ったような顔をした。

 白竜は神園屋楼主の一粒種である。女ばかりの遊郭で生まれ、明晰な頭脳と日本人離れした容姿を持つ美しい青年に成長した。思いを寄せる女性は数知れず、受け取った(押し付けられたともいうのだが)恋文は、高さ拳いくつ分では到底数えきれない。
神園屋は吉原の中でも有名な妓楼であり、幼少から光る才覚を見た楼主夫妻は彼が成長した暁にはと、未来の楼主に教育から何まで出来る限りのものを注ぎ込んだ。
しかし。当の白竜は、大見世楼主の座を突っぱね、廻船問屋の道を志しており、あまつさえ神園屋一番の太夫であるシュウにうつつを抜かしているのだから、とんだ親不孝者だと、シュウは思っている。
そんな事情を抱える楼主の息子が、太夫のもとに気軽に遊びに来てもいいのかというとそうではないのだが、この問題についてはいくども熾烈な争いが広げられ、もはや周囲が諦めかけている状況にあった。

「俺はやると言ったら必ずやってみせるからな」

 白竜は頭を振り、拳を固める。

「そしてシュウを……嫁にもらう」

 ぽっと頬を染める白竜につられて顔を熱くさせながら、「まさか!」とシュウは声をあげた。
(まずいまずい)
ぱたぱたと読むのをやめてしまった番付で顔を仰ぎながら、ぴしゃりと言い放つ。

「ボクとなんかじゃ生活が成り立たないよ。お金だってかかるし……いつになるかわからないことを夢想するよりも、他に恋しいお人を作って、その人と添い遂げなっていつも言ってるじゃないか」

 太夫ともなれば、身請け金はかなりのものになる。到底今の白竜に用意できる金額ではない。
 それに、愛人としては少なかれど、遊女を正妻として迎えるものはほとんどおらず、侮蔑の対象であった。

「お前は器量がいいし、頭も良ければ学もある。嫁にするには最高の相手だと、俺はいつも言ってるだろう」

 金の方はいつか、と白竜は言葉を濁らせる。
 すると、鐘が鳴った。「夕餉の時刻だ」シュウは障子を眺めた。「もうすぐ夜見世が始まる。白竜も早く帰りなよ」
 白竜を立たせ、襖の前まで送る。シュウが郭に来た頃は同じくらいの背丈だったのだが、今では白竜に越されてしまった。もうおそらく、追い越すことはないだろう。

「……また、来る。俺は諦めないからな」
「はいはい、わかったわかった」

 白竜は振り向きざまに言葉を残してその場をあとにした。
 シュウはその背中を見つめながら、白竜の父である楼主が、シュウの部屋に訪ねてきたことを思い出していた。

「お前があいつに気がないのが救いだ。馬鹿な奴だが、まあ、いい人が見つかるまで仲良くしてやってくれ」

 あの時、楼主はそういった。シュウは、朗々と、白竜の前では決して使わないありんす言葉で――彼が、その言葉使いはなんとなく好きじゃないと言ったから――返事をした。

--

 シュウは太夫と言われる身であるが、客をとったことがなかった。神園家楼主に、崇拝に似た思いを抱かれているからである。
 この晩、シュウは珍しく酒宴の場にいた。座敷には太鼓持ちや女芸者が顔を揃え、大層賑やかである。
酒を飲み交わしているのは神園屋楼主と薬種問屋の主、それとその息子のカイだった。薬種問屋の薬は安価で良質だと評判で、神園屋も懇ろにしている。その口利きで、一見である息子も同席しているのだった。しかもただの薬種問屋の息子ではない。
(ああ)
 目があうたびに、シュウはほっと息をついた。カイはにこりと笑みをこぼす。郭に入る前は、友人同士だった。

「懐かしいなあ」

 まもなく二人きりにされ、カイはほろ酔い気分で声をかけた。

「シュウがここに来てから、全然あわなかったもんな。まあまさか、会えるとは思ってなかったけど」
「わっちも――」
「ああ、いいよ。俺別に、遊女と一晩過ごすために来たわけじゃないからさ。友達と話すほうがいいな」
「あ、そう。なら普通に喋ろうかな」
「早いなあ! さては、普段からありんす言葉、使ってないだろ」

 カイはからからと笑った。シュウはその言葉に図星をつかれたが、表情には出さず、カイの猪口に酒を注いだ。

「番付を見たよ。大分評判になってるみたいだね、お店。四代目さんのお陰かな」
「まさかあ。まだまだ勉強不足さ。もっと頑張らなきゃ」

カイはそれを煽りながら、話を続ける。

「俺も、聞いたよ。吉原の神園屋に、めったにお目にかかれない、神様のような太夫がいるって。そうじゃないかと思っていたけど、やっぱりシュウだったんだな」
「神様……ねえ」
「楼主のあの様子だと、客だけじゃない、神園屋にも生き神様扱いされてるのか?」
「……まあね」

 ただの偶然だと、シュウは思っている。
 自分が神園屋に来てから、神園屋に良いことが立て続けに起きたのも、器量よしと見込んで、楼主が客を取らせようとしたところ、植えたばかりの桜の木が何本も倒れたのも。
 自分はなんでもない、ただの子供なのに、周りが勝手に恐れおののいて、あれよあれよというまに太夫の座に奉り上げられた。
男を知らぬ、綺麗な体のままでいられたのは幸運だと思うが、流行病や借金に苦しむ遊女たちを幼い頃から見てきたために、今の自分の存在に、どうしても重く、暗いものを感じずにはいられなかった。

「いいんじゃないの」とカイが言う。「水害で妹さんもご両親も亡くなられて、ひどい人に引き取られて吉原に売られて。ずっと辛いことばかりだったんだから、神様がシュウを神様にしてくれたんだよ」
「ボクは……神様なんかじゃないよ」

 シュウは目を伏せた。幼い相貌が儚げに見えて、カイはひっそりと噂話に納得する。
シュウは並外れた、という程の容貌ではないが、艶というのか、これまでの経験や思想が内面からにじみ出ており、なんとも言えない雰囲気を醸している。ずっと引きこもっているわけにはいかないので、身軽なシュウは「俄」行列にも顔をだす。あれは誰だと惹かれた御仁が赴くも、その遊女に会うことはない。密やかさが神秘性を帯び、噂になるまでに至ったのだろう。
 もちろん、神園屋には他にも美しい太夫がおり、それらと比べるとシュウは影の存在ではあったものの、先のことがなければ、きっと神園屋を背負って立つ立派な花魁となっていたに違いない。

「ボクなんかより、よっぽど神様に近い存在が、ここにはいると思うけどね」
「それって、白竜のこと?」
「あれ、知ってるの」
「いい意味でも悪い意味でも、有名なやつだよ。あんなに恵まれた奴はそうはいないのに、やってることがむちゃくちゃだ」

 ははは、とシュウは乾いた笑いをもらした。やはり評判になっているのか。まだ白竜がシュウを好いているということは知られていないようだが、一度噂になれば色んな所が大騒ぎを起こしそうだ。
 危ない、危ないとそっと息をつく。
 「あいつは確かに、神がかりだよなあ」カイは猪口を置いて、遠くから聞こえてくるお囃子に耳を傾ける。

「でも俺、あいつはきっと一番の廻船問屋になると思うな。そしたら取引してもらおう」
「……本当に、そう思ってるのか」

 シュウは驚いて徳利をおいた。まさか、白竜が夢を叶えるのではないかと思っている人間が、いるとは思わなかった。――自分以外に。
だって、面白そうじゃん、と、カイがけたけた笑う。

「吉原育ちの男が廻船問屋ってさ。長いお付き合いを期待したいね。あ、勿論シュウとも」
「……はあ」
「シュウだって、やるんじゃないかなって思ってるでしょ。と、いうよりかは……恐れてる?」

 酔っているとは思えないほどしっかりとした眼差しで、カイはシュウの目を覗きこむ。シュウは淡い微笑を浮かべたまま、黙っていた。

--

(ボクは、恐れているのかな)
 深夜、床についたシュウはうとうと微睡みながら考えを巡らせていた。
 白竜の宣言。カイの言葉。あの時、否定も肯定もしなかったのは、痛いところを突かれたと思ったのに、それがどこなのか、わからなかったからだ。なぜそう思ったのか、自分のことであるはずなのに、分からない。
シュウはそっと、胸に手をあてた。

(白竜は、廻船問屋になる。ボクも、そんな予感がしている。だけど、それが恐ろしいんじゃない。白竜が、ボクを……身請けする……それも、恐ろしくはない。白竜が廻船問屋になることで、ボクは何を恐ろしいと思うのだろう)

 白竜は常々言っていた。今は栄えているかもしれないが、きっと吉原遊郭は華々しさを失い、地に落ちると。白竜の家の名を代々残すならば、もっと広いものに目を向けなくてはいけないのだと。
 白竜が夢を叶えたら跡取りがいなくなってしまう神園屋は、一体どうするのだろうか。

(ボクが恐ろしいのは――)

 もう少しで、自分の青く柔らかな部分に触れられそうだったのに、シュウは、触れる前に、夢の中へと落ちていった。

--

 白竜の遅くの来訪は、唐突で、荒々しいものだった。
 布団を敷き、さてこれから寝ようかしらという子の刻、シュウはそんな白竜の訪問を落ち着いた態度で迎えた。なんとなく、彼が来るのではないかということは、予期はしていた。
 白竜は乱暴に座り込むと、重々しく口を開いた。態度とは裏腹に、驚くほど静かな口調だった。

「……薬種問屋の息子が来たという」
「ああ、来たよ。これから江戸を離れて、薬学の勉強をしにいくというから、その祝いにね。特別にボクも顔を出したんだ」
「抱かれたのか」

 たたきつけられた生身の言葉に、シュウは一瞬面食らった。白竜とは、こんな男だっただろうか。平素を装いつつ、シュウは静かに返す。

「まさか。ボクは客をとらせてもらえないし、第一決まり事だってある」
「万が一ということもある」
「カイはそんな奴じゃない」
「やっぱりお前も知っていたのか」

 やっぱり、ということは、白竜はシュウとカイが馴染みであることを知っていたのだろうか。カイの口ぶりから、白竜とカイが友人関係にあるのではとシュウも推測してはいたが、平素から白竜も、同じ事を自分に思っていたのかもれない。

「……おとっつぁんに言われた。立場をわきまえろと」白竜は自嘲気味に歪んだ笑みを浮かべる。「俺とシュウの、立場を」
 楼主は、カイがシュウを抱いたと思ったのだろう。白竜に決定的な打撃を与えたかったのだ。遊女に現を抜かし、跡を継がぬと胃の腑を痛ませる息子に。
 白竜はなおも畳みかける。

「抱かれたんだろう」
「抱かれて、ない」

 あっと、声を上げる間もなく、シュウは布団に押し倒されていた。行灯の明かりで薄暗い室内、上に乗った白竜の顔が黒く塗りつぶされてしまう。掴まれた肩が痛い。
 獣のようだ。シュウは即座にそんなことを思った。だから聞いた。

「君、正気?」
「……」
「……カイに、嫉妬してるの」
「…………分からない。自分の中に、どうにもならない、こんなに、強い気持ちがあることを、俺は知らなかった」

 シュウの浅黒くも滑らかな肌に触れた人間がいるのだと思うと、どす黒く醜い何かが溢れだしてきて、止まらなかった。内側からがんがん銅鑼を鳴らされているかのように、何かが自分を急き立てる。簡単に頭に描き出せる、いつかはと思っていたシュウとの蜜夜。彼を抱いているのが自分ではないのかと思うと、たまらなく悲しく、たまらなく憤ってしまう。たとえシュウが、否認したとしても。
 白竜は今、初めて出会った内側に潜む獣の手綱を、離してしまっていた。
彼は自分のものなのだと、自分だけが触れていいのだと、誰かに、自分に、焼き付けたくて堪らない。

「ボクを抱くのか」

 シュウの問いに、白竜は答えなかった。ただ、黙って、震える手で、そっとシュウの右衽を掴んだ。
 シュウは、白竜が自分の胸をまさぐっているのを、外から覗くかのような気持ちでながめていた。もしかしたら、こんな時が来るかもしれないと、思っていたのだ。
 遊女と楼主の息子が懇ろにしているだなんて、誰が聞いても間違いが起きるやもと考えるに違いない。

(それが今来るなんて、思っていなかったけど)

 あれだけ平素から自信満々に自分を娶ると言っていた彼だから、ちょっとやそっとじゃ動じないと思っていた。とんだ勘違いだ。彼も人間だったのだ。
 白竜の手が腰を触る。客をとったことのない自分でも、慣れていないとわかる、拙い手つきだった。自分も、もしかしたら白竜も、お互いが初めての相手になるのかもしれない。
 (ボクの初めての人は、もっと年上の人だと思っていたのにな)シュウはぼうっと考える。
 さすがにいつまでも客をとらないというのはきっとありえないだろうから、何らかのきっかけで、客をとっていただろう。初めての相手は、小金持ちで慣れている、好きでもない年上の客だったに違いない。
 しかし、今シュウの体を必死にまさぐっているのは、想像していた相手よりもずっと若い、白竜だった。

「シュウ」

 名前を呼ばれて、はっとする。気がつけば、白竜の顔がぐっと近くにある。接吻されるのかと思い、身を固くする。すると、白竜の額が、自分の額にごちんとあたった。
 熱い。熱でもあるかのように、彼の額が熱い。さらさらと、櫛の通りの良い髪の毛が流れてくるのを感じる。
 白竜は目を伏せ、絞りだすように、また名前を呼んだ。

「シュウ」

 急に、胸の奥が熱くなって、白竜の名を呼びたくなった。彼が本気だったのだと、彼が自分を大切にしようとしてくれていたのだと、ようやっと知った。
 だからこそ、シュウと白竜の立場が、殊更浮かび上がった。同じ吉原の水で育った同士でも、埋められない決定的な差があるのだと、はっきりと。

(ボクはもしかしたら、これを恐れていたのかもしれない)

 やっぱりシュウは遊女なのだ。日向を歩くことのできる、歩くことを許されている白竜と違って、親も身寄りもないシュウは、吉原の世界で生きるしかないのだ。出ることの許されない郭の中で。白竜が神園屋から離れてしまったら、この差は揺るぎないものになる。
 それでも白竜は、シュウが好きだった。シュウは、白竜が好きだった。

 抱いてほしい、とシュウは心の底から思った。このまま最後まで、卯の刻が来るまで。遊女として、恋した人が初めてであるのならば、これ以上の幸福はないだろう。この一瞬だけで、きっと一生生きていけるような気がするのだ。
 シュウは白竜の首にうでをまわす。今白竜の名を口にしてしまったら、想いがとめどなく溢れて、白竜にいらぬ枷をつけてしまいそうだったので、ぐっと堪える。

(白竜)

 白竜の手が、体の上を滑っていく。あ、と声が漏れそうになった瞬間、手を引かれ、布団から起こされた。
 乱れた着物を整え、白竜は強くシュウを抱きしめる。突然の流れにしばし呆然となっていたシュウだったが、はっと我に返ると白竜の背を叩いて、呼びかける。

「あの……白竜?」
「駄目だ」
「え」
「駄目だ。今、ここでシュウを抱いてしまったら、お前はきっと一生、自分は遊女なんだと勝手に格付けをして、俺と対等な存在であろうとしなくなるだろう。そんなことは許さない」
「対等……」
「そうだ。お前は俺の正妻になるんだからな」

 だから、抱かない。抱くのは、シュウが白竜の正妻になってからだ、と。
 シュウは、かっと一気に顔が赤くなるのを感じた。この男は、この男は、まだ! 本気で、自分を身請けしようと考えているのだ。
 薄暗いせいで顔色がよく見えないのが幸いだった。

「……無理やりしようとして、すまなかった」

 白竜が居住まいをただし、頭を下げる。抱かれてもいいと思ったことは心の奥に潜めつつ、シュウはひらひらと手を振った。

「そんな。頭を上げてよ。それより……本気だったんだね、身請けの話」
「信じていなかったのか」
「だってさ。普通、本気にしないよ。君みたいな若い男が、ボクみたいなのを身請けするなんて」

 楼主が可哀想だと、シュウは少しだけ笑みを浮かべると、白竜も薄く笑った。
「俺は究極になる男だからな」育ててもらった恩は忘れない、親も悪いようには必ずしないと白竜が豪語するのを見て、すでに親不孝じゃないかしらとシュウは内心舌を出す。
 胸のあたりがほっこりと温かい。先ほど埋められない立場の差に戦慄していたのが嘘のようだ。

「でも、わかんないな。どうして君が、ここまでしてくれるのか」
「まさか、まだ俺の気持ちがわからないのか?」
「そうじゃなくて。……ボクにそこまでの価値は、ないから」

シュウの言葉に、白竜が心外そうな表情を作る。

「いいか、シュウ。俺は、幼少の頃にお前に初めて会ってから、ずっとお前しか見ていないんだ。一生を添い遂げるのはこの人だったんだと、子供心に気づかせるのは尋常じゃないぞ」
「……子供って、そういうこと結構簡単に思う気がするけど……」
「とにかく、俺がお前を妻にするその時まで、絶対に客をとらせないからな。なんのために楼主の息子に生まれたと思っている」

 楼主が聞いたら卒倒しそうなことを平気で口にしながら、白竜はそっとシュウの手を握った。

「だからお前も俺以外を見るな。……俺の、よ、嫁に……なってくれ」
「……はい」

 肝心のところで格好の付かない告白ではあったが、確かに、シュウは、返事をした。
 白竜はシュウを再度きつく抱きしめると、すぐさま立ち上がり、転びつつもせかせかと襖の前まで動いた。

「じゃ、じゃあ、俺は、帰る。すまない、夜遅くに、邪魔したな」

 あ、逃げようとしてる。シュウは呆れたようにくすくすと笑った。今更いろんなことが恥ずかしくなって、いたたまれなくなってしまったのだ。だが、変なところで押しが弱いところも、シュウは堪らなく好きだった。
 シュウは白竜を追いかけ、彼が開けようとしていた襖を押さえる。そして、白竜の耳元でそっとささやいた。

「卯の刻まで、一緒にいようよ。一人の夜は、寂しいからさ」
「……ま、まずいな。吉原の手練手管が身につき始めているとは」
「まさか。ボクの本心だよ。ねえ、白竜」

 薄暗闇の中でもはっきりとわかるほど、白竜はみるみるうちに顔を赤くさせた。



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aaaさんリクエストありがとうございました!
仲よ……し……というと大分疑問が残る作品ですがお気に召すと幸いです。
遊郭パロディは大好物ではあるのですが、何分勉強不足でいろんな歴史小説に頼りっぱなし(しかもどの書籍を参考にしているのかわかる人なら一発でわかるという……)でしたので、一回しっかり勉強したいと思うきっかけにもなりました。遊女と並ならぬ恋って倒錯的でエロチックでたまらんよねというバカ思考を何とかしたいと思います! 本当に


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