》バレンタインにお互い手作りチョコをあげあう白シュウ



「シュウ、これをやろう」
「えっ。あっ、う、うん、ありがとう……」

 白竜が突然贈り物をしてきたのは通学途中のことであった。隣を歩く彼からは全くそんな素振りは微塵も見られなかったので、シュウは戸惑いつつも唐突に差し出された包みを受け取る。
 包みは大層丁寧にラッピングがしてあり、中身を知ることは出来なかった。「これ、何」とシュウが尋ねると、白竜は戸惑いを見せた。

「何って…………チョコレートだよ」
「はあ、チョコレート……これ既製品じゃないよね、作ったの? なんで?」
「なんでって……」

 実は相当緊張していたらしい、白竜は挙動不審になり、視線を泳がせて助けがいないと見ると、コンクリートの上を駈け出した。

「えっ、白竜! ちょっと!」
「俺にきくな!」
「君に聞かないで誰に聞けっていうんだよ!」

 脱兎の如く駈け出した白竜は速い速い、さすがはサッカー部1軍だとシュウは舌を巻く。もう小さくなってしまった白竜を追いかけるのはあきらめて、代わりに残された包みを見る。思えば白竜からの贈り物など初めてのことである。シュウは首に巻いていたマフラーを外すと、包みをくるみ、そっとカバンの中に入れた。
 (まさか、あの白竜に手作りをもらえる日が来るなんてね)
 なかなか彼は器用である。完璧主義の嫌いがあるから、味や衛生面では心配いらないだろう。
 チャックを閉めると、学校へと急ぐ。
 2月14日。本日はセントバレンタインデーである。

「シュウ、チョコレート何個もらった?」
「んーと、白竜のと、マネージャーからと、あと先生と、隣の席の子からもらったから、6かな」
「は、白竜からももらってんの!?」

 サッカー部の練習後、最終下校の鐘が鳴り始めると共にカイがシュウをどついた。バレンタインの話題に惹かれたのか、エンシャントダークの1年生がわらわらと彼らの周りに集まってくる。皆ゴッドエデンをでてから、雷門中に引きぬかれたのであった。
 マネージャーと先生の数はノーカンだろ、と言いつつも、林音が大層驚いたというように目をぱちくりと瞬かせる。あの白竜がね、と呟きながら皆が白竜を見つめるので、シュウは慌ててとめる。

「別に誰から何をもらってもいいだろー!」
「シュウそれ本気で言ってんの?」
「久雲、ほらシュウは俗世間に疎いからさあ」
「あー」

 久雲と芦矢が何やら失礼なことをヒソヒソと話しているので、思わずシュウはむくれる。しかしながら、ゴッドエデンから出たことのない彼にとって本土の風習は未知なるものであり、異文化に触れる度に周囲に驚かれることが多かった為、何も言い返せない。
 (僕だってそんなに疎いわけじゃないんだけどなあ)
 しかし不服そうな様子に目の前の少年たちは気づかない。

「えっとシュウ、今日はバレンタインっていってー」
「おいそれ説明しないほうがオモシレーって」
「白竜からもらったんだ? なにはともあれ、良かったな」
「アイツって料理できるのか?」
「ああもう……とりあえずみんな落ち着け!」
「シュウ!」

 煩わしくなって叫んだ途端、背後から白竜に声をかけられる。一番声をかけてはいけないタイミングだったのではないだろうか、現に林音達はぴたりと声を潜めて、何やらニヤつきながら事の行方を見守っている。素知らぬふりを装って応対するも、変なことを考えないでくれよ、とシュウは頭の中で釘を刺す。
 白竜は彼らのどことなく嫌な雰囲気を察したのか、まゆをひそめる。

「一緒に帰ろう」
「う、うん、いいけど」
「それと、手伝ってほしいことがある」

 白竜に手を引かれると、後ろから林音達にはやし立てられた。色恋沙汰が面白く感じる時期である。他人の惚れた腫れたは蜜の味、やけに楽しそうに騒ぐ集団に、白竜からボールが打ち込まれた。



 白竜につれられた先は教室であった。身支度はすっかり整え、あとは帰るばかりであるのに、何故校内に戻るのか、シュウが首を傾げるあいだに白竜は自分の机の横から紙袋をとった。
 中には色とりどりの紙包みやらセロファンやら、ところ狭しと押し込まれている。白竜が袋を揺らす度にお互いを擦り合って鳴いた。
 「凄いね」と感嘆の声を出すシュウをしばし無言で見つめた白竜は、机の中にもあるぞ、と長い腕を突っ込んでかきだし始める。ぽろぽろと色鮮やかな包みが椅子の上に落ちる度に、シュウは目を瞬かせた。
 彼が手伝って欲しいのはもらったチョコレートをまとめる作業であるらしい。彼が肩からおろしたバッグの中にも入っていたので、シュウはまたも驚いた。部活動中にもらったのだという。そういえば今日はやけにギャラリーが多かった気がするなあと、シュウは朧気に記憶をたどる。
 白竜は愛想の良い方ではない。しかしこの年代、愛想が悪かろうと寡黙であろうと、見目が良ければ女子に好感を持たれる年である。おまけに白竜は今をときめくサッカー部の1軍でもある。彼は大層モテるのであった。
 「お前にこんなことを手伝わせるのは大変気がひけるのだが」と申し訳なさそうな白竜に対し、シュウはあっけらかんと言う。

「何で? 気にしなくていいよ」
「……お前は朝も……そうか、シュウはこっちの文化に疎いんだったな」
「……うん、よくいわれる。ところで白竜、このチョコレート、どうするの?」
「うーん、捨てるかもしれないな」
「捨て……っ」

 勿体無い、と言わんばかりにシュウは首を横にふった。「何でそんなことするのさ、コレ、ほとんど手作りだろ?」

「手作りだからそう日も持たないだろう。こんなに大量に食べきれない。何が入ってるかわからないし、俺は甘いものは好きではないからな」
「でも、せっかく君のために時間を割いて作って、ラッピングして、届けてくれたものだろう? 食べ物を無駄にする馬鹿って、僕は嫌いだな」
「……シュウは俺が、これを食べてもなんとも思わないのか」白竜が傷心を目にうつす。
「……今はそんなこと話してないよ。ほら、これとか、せめて一個でもいいから食べてよ」

 シュウが袋から取り出した黒い包みを差し出すと、白竜は迷っていたようであったが、やがて包みを開けて中のチョコレートを食べ始めた。

「……どう?」
「……ああ。これはあんまり甘くなくて美味い。俺の好みを考えてくれたのかもな」
「そう、そういうのもあるんだよ。だから一口でもいいから食べてあげてよ」
「……分かったよ」

 シュウはほっと息を吐く。窓からさす夕日は消えかけていた、急いで学校から出る。
 「お前は優しいというかなんというか」袋の中を見つめながら、時折ため息をつく白竜の顔をそっと覗く。しなやかな指がチョコレートを口に運ぶ様子が思い出された。

(僕はそんなに鈍いわけじゃないんだよ)

 そしてズル賢い。全く可愛くないガキだと思っている。
 先ほど、女の子達のものだと見せかけて渡した黒い包みは、シュウがこの日のために作ってきたものであった。なんとかごまかしてカバンの中にでも入れようと機会を伺っていたが、まさかこんなに思うようにいくとは。
 こちらに来てから驚くことは山ほど遭遇した。その一つ一つを周りから教授してもらうことに甘んじる程、彼の生存本能はぬるくはない。適応し生きるため、彼なりに色々と調べているのである。2月14日が世間にとってどのような意味をもつのか、何故店先が華やかに彩られるのか、知っている。その日に渡すチョコレートが甘い味以外に何を含むのか、知っている。
 だから素直に白竜に渡すことなど出来なかった。どの書物を読んでも、どんな番組を見ても、男性が同性に渡す方法など、なかった。(女の子同士だとあるのにな)
 美味い、という白竜の声を思い出し、頬が薄赤くなるのを感じる。

(美味しかったんだ。僕の。……多分、お世辞じゃないんだろうな)
「シュウ」
「っ、あいっ」突然の問いかけにどきりとする。
「お前マフラーどうした? 寒いだろう、俺のを貸してやろうか」
「ううん、大丈夫だよ」

 しゅるりと首のマフラーを解こうとする白竜を制する。吐く息は白く、まだ気温が低いことを教えてくれる。
 シュウは赤い頬のまま微笑んだ。

「僕はあったかいからさ」
「……俺は寒いんだが」
「へへ。まっ、気にしないでよ!」

 シュウのマフラーは白竜からの贈り物を守るのに忙しい。彼の首の熱など守っている余裕はないのだと、シュウは鞄をそっと撫でる。

(白竜からのチョコレートにはどんな意味があるんだろう)

 考えるだけで勝手に頬が火照る。まさか貰えると思わなかったので。まさか、まさか、いや、そんなまさか。まだ想いを伝えてすらいないのに、勝手に喜ぶこの身が恨めしい。
 彼が他の女の子からもらったチョコレートを食べるのは、正直苦々しい気持ちになる。それは好意の塊だからだ。彼が好意の塊を食すことになるからだ。しかしまた雷門に来て、白竜とサッカーができる奇跡のような喜びを享受するシュウは無欲であった。

(食べてくれるだけで、まあ、うん、充分だ)
「白竜のチョコレート大事にするね」
「えっ、あ、ああ。お前、ちゃんと食べろよ」
「わかってるさ」

 白竜はきっとバレンタインの意味を教えるような、朝の出来事を思わせれば自らの首を絞める行為はしないだろう。シュウは想いを潜めたまま微笑む。もう一度失うようなことはしたくないのである。
 14日は終わりかけていた。


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ユウリさんリクエストありがとうございました!
あげあうというか、多分ご想像されていたお話と違う感じになってしまってすみません……。
深い所で若干イチャイチャしてる白シュウが大好きです。
14日に更新できれば一番良かったのですが、いやはや、そううまくはいきませんでした。精進精進。
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