エンシャントダークの練習は森で行われる。この森はもっぱらシュウのお気に入りだった。
 広い森であるが、この森はシュウの庭のようなものである。道に迷ったりなんかありえないし、森の動物のいうこともなんとなくわかるし、そこかしこにある地蔵なんて、目を瞑って触ってもどこにあったものかわかる。恐らく、一人森に取り残されても、シュウならば十年二十年は余裕で生きていけるだろう。
 早朝、目が覚めてしまったシュウは森でサッカーボールを転がしていた。一人練習は嫌いではないが、あまりにも早く起きすぎたためか、動物の気配すらない。シュウは早々に飽きてしまった。
 木の洞にすわり、隣の地蔵に寄りかかる。なんとなしに草をちぎったりして遊んでいたが、見たことのない草――森に生息する草花をシュウは大体把握しているが、自然が濃い為、たまに新種が生まれるのである――を摘んだシュウの脳内に閃きが走った。
 草花を調合して薬でも作ってみるか。
 ドーピングは好きではないが、完全な否定派ではない。シュウの大切なことは強くなることだ。薬によって更に強くなれるのであったら、手を出すことも厭わないだろう。
 強くなれる薬ができたらめっけもんだよね。そのくらいの軽い気持ちで、シュウは早速、適当にそこらへんにのびのびと生えている草花を集めた。
 割れた地蔵の欠片を拝借してすりつぶしたり、川の水を混ぜてみたり、色々気の済むまで遊んだ結果、禍々しい色の液体が出来上がった。

「うっわあ……これは飲みたくないな」

 匂いを嗅いだシュウは眉間にシワをよせる。青汁に雑草をブレンドしてもこうは青臭くならないだろう。
 しかし、せっかく作ってみたのだから、誰かに飲ませてみたいな。とシュウは恐ろしく迷惑なことを考えた。彼は見かけに反して自由奔放で、あまり迷惑を顧みないのである。
 そろそろチームメイトも、アンリミテッドシャイニングの奴らも起き始めた頃だ。出会った最初の奴に飲ませよう、と、シュウは水分補給用に持ってきたペットボトルを取り出し、中の天然水を捨てて出来たての薬を大事に流し込んだ。



「……シュウか」

 可哀そうな犠牲者は究極の光、白竜に決まった。
 シュウは目を輝かせ、にこやかに朝の挨拶をする。究極の闇の名にふさわしい考えを持っているとは微塵も感じさせない。
 珍しく上機嫌なシュウに、白竜は訝しげに眉をひそめる。

「おはよう、シュウ」

 そんな二人に、カイがあくびを噛み締めながらやってくる。シュウは挨拶もそこそこに、白竜に切り出した。

「あのさ、白竜に渡すものがあるんだけど」
「俺に?」
「へえシュウ、珍しいね」

 シュウがプレゼントなんて浮ついたものを渡す所を、カイは見たことがない。それは白竜も同じだったようで、両人共目を丸くさせている。
 シュウはじゃーん、とポケットから自家製薬(といっていいのか分からないが)を取り出すと、白竜が反応する前に口のなかに流し込んだ。

「むぐっ!」
「何それ何その色ってうわ――!!」
「ぼくがつくってみたんだ、試してみたくて」

 可哀そうな白竜は顔を青くさせながらそれを飲み込んでしまった。目を白黒させている。全く動じずに流しこむシュウの笑顔は、化身も裸足で逃げ出しそうだった。
 全て飲んだのを確認すると、シュウはペットボトルの口を抜いて蓋を閉めた。早業である。

「どうかな?」
「いやどうかなってシュウ白竜めちゃくちゃ吐きそうなんだけど!」
「んー、まあ毒性のあるものは使ってないから大丈夫だよ。組み合わせで毒が発生したら厄介だけど」

 なにしろ適当に放り込んだのだ。さすがにそこまでは読めない。
 しばらく無言で吐きそうな顔をしていた白竜だが、不意にふっと気絶して倒れた。

「うわあ――!!!」

 カイの悲鳴である。

「ちょっとシュウ、やばくないかこれ!」
「ぼくも倒れられるとは思わなかったよ」

 シュウも少し焦る。よほどまずかったのだろうか。いや心配する点はそこではない、医務室に連れていかなくてはならない。
 軟弱だなあ、と失礼なことをつぶやきながら、背負うためシュウが白竜の腕をつかむ。
 瞬間腕を掴まれた。

「うわ!」
「……シュウ」
「なんだ、起きたんだ。体大丈夫? ま、大丈夫だよね、で、どうだった……」
「好きだ!!」

 はあ? と聞き返す前にがばりと白竜が勢い良くシュウを胸の中に閉じ込めた。「ええええ!!!」またもカイの悲鳴である。強すぎる腕の力に、今度はシュウが目を白黒させる。
 え、なんだこれ、好きだって、え、え、え。

「お、おい! 白竜! 悪かったよ、ごめんってば、無理やり飲ませて。謝るから冗談はやめ……」
「冗談なんかじゃない。おれは真剣だ。これがおれの気持ちだ」

 引き剥がそうとするシュウの腕を掴み、逆に引き寄せる。白竜の目は嘘をついているとは思えなかった。嘘だと信じたい。
 二人の体が必要以上に密着する。なんか近くないか? とシュウが疑問を感じた時、シュウの唇は塞がれていた。
 いわゆるキスだった。

「うわあああああ!!!」

 哀れなカイの悲鳴である。
 自身のキャプテンが同性とキスをしているところを見せられている彼も、可哀そうな犠牲者と言えるだろう。

【続】

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