》シュウ女体化学パロで、彼女のクラスの出し物がメイド喫茶ときいた白竜が妄想を抱きつつ来店する話




 文化祭、シュウのクラスの出し物がメイド喫茶だと知って、白竜の心は大いにそそられた。しかもメイドの格好が、中世ヨーロッパの質素な長いスカートではなく、今流行りのフリルの踊る短いスカートだというのだから、下心も大いにそそられた。
 ということは、シュウのメイド姿が何の苦労もせず、ただちょちょっと足を運ぶだけで拝めるということである。なんということだろうか。白竜は心から神に感謝した。
 俄然装飾を作る手にも気合が入るというものだ。気合余ってダンボールを引き裂いてしまい、男子から「馬鹿やろう!」と罵声を浴びせられてしまったが、とにかく白竜は幸せで胸が満ちていた。
 明日が待ち遠しい。その晩の白竜は、常にごろごろと寝返りを打ち、眠れなさの合間にシュウのメイド姿を妄想しては興奮し、また眠れなくなるという悪循環を繰り返しながら、夜を過ごした。


 わざわざ強引にシュウのシフトと被らないように仕事を合わせた白竜は、早々に自分のクラスからトンズラすると、早る鼓動を抑えてシュウのクラスへと足を進めた。途中、廊下の壁に貼り付けられた喫茶店の広告を目にするたびに、心が踊る。
 メイドといえば、なんといっても「おかえりなさいませ」という粛々とした物言いだろう。それだけで心が休まるというものだ。とりわけ、華やかな格好に身を包んだシュウから主人扱いされたら、例えそこがカラスだらけのゴミ捨て場だろうと、瞬時に豪邸に変わるに違いない。

「っしゃいませー、ご注文はお決まりですかー?」

 しかし白竜のそんな理想は、その場をコンビニへと変貌させてしまうようなシュウの気のない言葉によって、粉々に砕かれた。
 っしゃいませってなんだ、ここは寿司屋か。思わず膝を付きそうになるが、人目があるので耐える。
 中は小奇麗に装飾がなされている。ファンシーな色合いの空間に、黒と白が見事に調和したメイド服に身を包んだシュウが仁王立ちで白竜を見据えていた。

「お前、その態度はないだろ……」
「何しにきたの? 来るのが嫌だったから、出し物休憩所だって言ったしシフトも教えなかったのに」
「やっぱりあれ嘘だったのか!」

 何はともあれ接客業であるからにして。至極面倒だという表情を隠そうともしなかったが、とりあえずシュウは白竜を一人席に案内すると、手作り感溢れるメニューを差し出し、抑揚なく呟いた。

「じゃ、決まったら呼んでね。ご主人様」
「ああ、分かった」

 想像とは180度違うシュウの態度に悲しみを覚えていた白竜であったが、「ご主人様」との呼称にすぐさま元気を取り戻す。ゲンキンなものである。
 態度はどうあれ、やはりメイド服はいい。メニューを開き、選んでいるふりをしながら、白竜はシュウの様子をちらちらと盗み見る。中身が見えそうな程短いというわけではなかったが、ひらひらと薄いフリルが縁取られた黒いスカートから伸びる足は美しい。食い込む白いニーハイソックスが、彼女の褐色の肌によく似合っている。白竜は感嘆の息をつく。
 普段の彼女は土下座したってあんな格好をしてくれない。それが頼んでも居ないのに可愛らしい格好をしてくれているのだから、一分一秒でも見逃すまいと、白竜は振りをするのも忘れてシュウの一挙一動を食い入るように見つめた。カチューシャを落としたシュウが、拾うために腰を曲げたため、スカートが浮き際どい影がちらつく。自然白竜の目が捕食者のような凶暴さを孕んだ。

「はーい、お兄さん。店員へのやらしい行為はご法度ですからねー」
「……っ、別にやらしい行為をしてるわけじゃ」

 不意に後ろに現れたカイに、白竜の心は違う意味で高鳴った。
 カイはメイドに合わせて執事服に身を包んでいた。ヘラヘラとした面持ちは執事とはかけ離れていたが、影のように寄り添う気配を感じさせない物腰は、なるほどぴったりな役どころだと白竜は納得する。
 気まずそうに視線をそらす白竜を、「見とれてたんだろ? シュウに見とれてたんだろ? このこのー」とカイが小突く。店員として無礼な態度に腹が立ったが、図星であったので何も言い返せなかった。ついでに言うなら、彼はシュウのシフト等を教えてくれた情報提供者でもある。

「シュウ可愛いもんなー。一番人気って、ああいうの言うのかも」
「……確かに、可愛い」
「おっ?」

 シュウは数あるメイドの中でも特に人目を集めていた。この学校の女子はレベルが低いわけではないが、やはりひときわ目立つ存在である。丁度、シュウは白竜の時と違い、笑顔で接客していた。テーブルにつく他校とおぼしき生徒は、でれでれと顔を崩している。あんなにすきを見せてセクハラでもされたらどうするのだ。「まあ、そのために俺がいるわけだけど」白竜の思考を読んだカイが飄々と言う。女子だけが表に出ていては、祭りに浮かれた客に辱めを受けたら問題になる。ストッパーとして、接客はせずとも執事姿の男子が数人彷徨いているのだった。

「なあ、それ、シュウに言った? 可愛いって」
「いや?」
「へえー。……シュウ、白竜注文決まったってさー!」
「おい!」

 焦る白竜が止めるのも間に合わず、シュウはすぐさま近寄ってきた。軽い足取り、メイドとして様になっている。「ずいぶん遅かったね」と早速メモを手に取るので、仕方なくミルクティーを注文する。いつの間にかカイは消えていた。てめえこのやろう、と思う反面、シュウを褒めるチャンスなのではないかと画策する、しかしシュウは注文を聞くとさっさと奥に戻ってしまった。
 シュウがミルクティーを持って現れる頃には、すっかり可愛いと褒めるタイミングは消えており、白竜はロボットのようにぎこちなくミルクティーをすすった。中々良い塩梅である。

「それ、僕が淹れたんだ」
「だからか、俺にとってちょうどいい味だ」
「君、味にうるさいから。接客担当の僕がわざわざいれてあげたんだから感謝してね」
「……はあ。ところでお前、そんなところにつったっていていいのか」

 客に対してなんとも無礼な態度を取るシュウに、白竜は苦笑いを返しながら問いかけた。ミルクティーをテーブルに置いたシュウはそれで役目は終わりかとおもいきや、中々テーブルを離れない。
 「別に、今はお客さんもそんなにいないし、白竜と話しててもいいかなって。僕がいると嫌?」シュウが睨んできたので、慌てて白竜は首を横に降った。嫌だなどと言ったらこの先一生天罰がくだる。シュウが自分のテーブルの横に佇んでいるのは、まるで特別扱いされているようで大変気分が良く、思わず頬が緩みかけたが、引き締める。シュウの前では常に格好良く有りたいといういじらしくも馬鹿馬鹿しいようなプライドが顔を出す。
 故に自分から可愛いなどと浮いた言葉を与えることもできず、白竜はただシュウの話に相槌をうつのみとなった。
 しかしミルクティーを頼んだのは失敗だったかもしれない。柔らかい香りと体に染みる温かさに、つい眠気が誘われる。昨晩の寝不足が祟ったのか、白竜はカップを持ちつ、うつらうつらとまどろんでいた。当然シュウに対する返事もひどくおざなりになっていき、それに不満と若干の心配を抱いたシュウは軽く彼の肩を叩いた。

「聞いてる?」
「あっ」
「うわっ!」

 ほんの一瞬の油断だった。肩を叩かれた驚きに手への注意がすっぽりと抜けてしまった。支えを失ったプラスチック製のカップは重力に従ってなめらかに落ちていき、ともすれば中の液体もカップから泳ぎでるわけで、ミルクティーは白竜の純白の服へと盛大にこびりついた。

「うわわわわ、ごめん!」

 慌てたシュウがおしぼりを取り出して白竜の服を拭う。しかし時既に遅し、なめらかな木の色はすっかり白竜の服に浸透してしまい、まるで世界地図のように大きく散らばったそれはいくらおしぼりで拭おうともとれる気配を見せなかった。
 「もういい、いいから」と白竜はシュウを制する。無駄なことはしない主義であったし、何よりメイド姿のシュウに、服越しとはいえ、体を拭われるというのはなんだかやましい雰囲気がある。

「何? どうした?」
「ああ、カイ、僕が、いや白竜がかな、ミルクティー服にこぼしちゃって」
「あちゃー、これは酷いなあ」

 騒ぎを聞きつけてカイが現れた。シュウの説明を聞いて汚れてしまった白竜の服を眺めていたカイであったが、唐突に目を輝かせる。

「なあ白竜、替えの服持ってないんだろ?」
「持っている奴はそうそういないと思うが」
「じゃあさ、俺のこの執事服代わりに着ろよ。それで家の人に電話して、替えの服持ってきてもらえば?」
「お前はその間どうするんだよ?」

 なにせカイはシフトなのである。職場放棄ということか、白竜が困惑していると、カイが頬をかく。「いやさー、友達と約束してたのすっかり忘れてて。今から行きたいけど代理がいなくてさ。丁度良かったよ、白竜が俺の代わりやってくれれば問題ない、うん問題ない!」
 つまり自分のためというわけだ。白竜とシュウは若干呆れ気味であったが、ともかくありがたい申し出ではあった。カイが職場放棄すると聞き、女子の間から避難めいた声があがったが、代理が白竜だと知るやいなや、黄色い声に変わった。

「えー、白竜君がやるのー?」
「超似合うー!!」

 カイに代わって執事姿に身を包んだ白竜は、バックルームで女子に囲まれつつも自宅に電話をする。女子の黄色い声に全く興味を示さない白竜を見て、シュウが今行かんとしていたカイをぐいと引っ張った。

「なに?」
「カイ僕に言ったよね? 可愛いって」
「うん、可愛い可愛い。超可愛いしラブリープリティーキュートだと思うけど、お前それじゃ満足できないだろ?」
「……白竜から可愛いって言ってもらってないし」

 目に見えてシュウが落ち込むので、カイは(白竜は何をやってるんだよ)と舌打ちをうちたくなった。せっかく自分がチャンスを作ってやったというのに。
 しかし二人共面倒くさい人間であるのは充分理解しているので。一応、「じゃあ白竜にどう思うかどうか聞いてみれば?」と尋ねてみれば、

「無理、無理、無理。そんなこと聞けるわけないよ、恥ずかしいじゃないか」

と大げさに首を振られた。さっさとこの場を離れたいカイはため息を付く。しかし愛しい友人達のもつれを放っておけるはずもなく、カイはシュウに顔を近づけると、そっと耳打ちした。

「大丈夫だって。白竜だってきっと可愛いって思ってるって」
「だって、凄い普通だし、あんなに女の子に騒がれてるのに、全然気にしてないし。……確かにかっこいいしさ。僕より可愛い子いっぱいいるのに、やっぱり僕可愛くなんか」頬を染めたり泣き出しそうになったり、シュウはせわしなく表情をかえる。
(いや白竜お前以外に興味ないし)「だからさ……」
「離れろ、カイ」

 電話を終えた白竜がどうとカイとシュウの間に割り込んでくる。庇うようにシュウを抱く白竜の目はカイを冷たく睨んでいた。

「店員への疚しい行為はご法度だろう?」
「疚しい行為なんか一切してないんだけど」
「俺の仕事はシュウを守ることだからな」

 いや、女子店員を守ることだからね。そう言おうとしたが、白竜に肩を抱かれたシュウがうれしそうに頬を染めていたので、カイは訂正する気が失せてしまった。
 なんだかもう、色々と面倒くさい。自分が気を揉んでどうするのだ。
 「じゃあ、お二人さん、仲良くラブラブにしてくださいね」と手を振ったカイは、後ろから追いかけてきた二人のけたたましい声から逃げるように、さっさとその場をあとにした。


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匿名さんリクエストありがとうございました!
大分理想とは離れてしまったようなそんなようなものになってしまった気がするのですがいかがでしょうか……。
女体化シュウおいしいですモグモグ。
同じ物書きさんでしたとは、嬉しいです。
拙い小説ではありますが、貴方様の刺激になれば幸いです!

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