がっつり下ネタ そして正月関係ない



 白竜はきれいにメイキングされたベッドの上で、ぴんと背筋を張り詰め正座していた。その前ではシュウがごろごろと体育座りをしている。お前、俺が正座してるんだから空気読め、と言いたくなったが、これから事を起こすのにシュウの機嫌が悪くなっては元も子もない。白竜は言葉を飲み込んだ。
 事というのは初夜であった。白竜は本日、シュウと体をつなげようと言うのである。今は新年だから姫始めと名前を変えるべきか。
 大切な存在だから大切にしたい、と白竜は至極まともな恋愛論にすがりながら、今まで押し倒したい欲求をすりつぶしていた。しかし大晦日、ついにそのことを打ち明けると、シュウは真っ赤な顔で受け入れてくれたのである。
 元旦ならいいよ。
 白竜は歓喜に身を震わせていた。今日、やっと。長い間我慢に我慢を重ね、もはや石化していた欲望がやっと報われるのだ。
 しかしシュウは浮かない顔である。白竜は眉間にシワを寄せた。部屋の隅に追いやられた、半透明のゴミ袋に包まれた暖房機器に目が行く。
 時間は0時を過ぎた頃、先ほどまで白竜はシュウの部屋の大掃除を手伝っていた。まだ部屋の半分も片付いていなかったというのだから驚きである、お陰で特番を見る暇もなかった。
 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ、と、能動的に動いたのは駆り出された白竜のほうである。基本シュウは彼が突き出す物にいるいらないの宣告を告げる審判に徹していた。
 白竜が軽く埃をかぶった暖房機器を突き出すと、シュウは困ったように眉を下げた。

「それ、壊れちゃたんだ」
「そうか。じゃあゴミだな」
「こないだまで動いてくれたのに。これから寒くなっていくのに、まいっちゃうよね」

 白竜は同情した。今自らの手でゴミへと服される暖房機器に。
 きっとそれはストライキだったのだ、と白竜は思う。こんな劣悪な環境では、機械すらやけを起こすだろう。労働法に違反している。ついに耐えかねて断末魔を上げ静止する暖房機器の姿が見えるようだったが、黙々と部屋のそうじを続けた。
 新年を迎える前にはなんとか片付いたが、もう指折り数える時間はないし、シュウを連れてわざわざ部屋に行くのもなんとなく気恥ずかしかったので、白竜は綺麗に片付いたシュウの部屋にとどまったのだ。が。
 当のシュウはなんとなく、そういう雰囲気に呑まれることを恐れているような感じである。

「なあ」
「……はい」
「えっと」情事を起こす前のセリフなんて知らなかったので、そのまま、「しよう」
「ちょっと待って」

 予期せぬ返事に白竜は今押し倒さんとしていた両腕を空中でとどめた。温かいぬくもりに触れる気まんまんだった手のひらが寒い。暖房機器が仕事をしない今、ふたりだけの部屋は嫌に寒々しかった。

「……なんだよ」
「僕さ、君とその……えっちすることは全然構わないんだよ。僕も……したいし。えっと、君が突っ込むんだよね?」
「ああ」

 身も蓋もない会話だが、当の本人達は必死である。白竜は早く情事を成そうと、シュウはそれを引きとめようと。
 シュウは急に頬を染めた。「僕は白竜が好きだ。浮気とか考えられないくらい」
 何の話だ、と白竜が眉をひそめる。

「君と付き合ってるうちは僕は絶対浮気しないと思う」
「当たり前だ」白竜は息巻く。「一生付き合ってもらうんだからな」

 我ながらくさいセリフだとは思うが、真意である。シュウは若干戸惑った。

「気づいたんだけど……そしたらさ、僕一生童貞ってこと?」
「…………」

 二人の間を寒い風が吹いた。しばし両者黙ったまま、お互いを見つめあう。白竜の背中に冷や汗が流れる。彼にはシュウが続けるであろう言葉が手に取るようにわかっていた。シュウがその言葉を告げてすぐに返答できるよう気を張り詰める。さながら百人一首大会の選手である。

「だから白竜、いれさせ」
「だめだ」

 ぴしゃりとはねのける。冷戦の火蓋が切って落とされた。「何で!」とシュウが発奮する。

「何でって…………俺が嫌だからだ」
「そんなの白竜の勝手じゃないか、一生童貞な癖に非処女とか、僕神様に顔向けできないよ!」
「多分許してくれるはずだ」
「許す許さないの問題じゃないんだけど」

 戦況は圧倒的にシュウの優勢である。白竜はそれを自覚する。この状態ではどんなにあがいたって、シュウに同情しないものはいない。まさか負け戦を強いられるとは、白竜は半分逃げたいような気持ちになったが、ここで逃げたらまたもシュウと破廉恥なことができる日は遠のくだろう。
 シーツの上、白竜はますます背筋を正す。攻め方を変えることにした。

「シュウ……日本神話は知ってるな」
「うん」
白竜は日本の成り立ちを訥々と語りだす。「男の神が身のなり余ったところで女の神の身の成り合わない所を塞いで国土を作ったんだ」
「だから?」
「お前は−のチームキャプテン、俺は+のチームのキャプテン、これって運命だと思わないか?」
「だから?」

 シュウの目はどこまでも冷たい。白竜の必死に考えた口説き文句は完敗した。おかしい。女は運命という言葉に弱いと、いつか読んだ本に書いてあったのに。白竜は首を捻る。
 そもそもシュウは女ではないのだが、ひたすらに愛でていれば関係ないとすら思う。男の口説き方なんて、今まで読んだどの本にも書いていなかったのだ。もっとも、書店で美男同士が組んずほぐれつの表紙は何度か目にしたことがあったが、それを店員の前まで持っていけるほど、白竜の思春期の羞恥心は甘くはなかった。
 かくして白竜は完敗した。何も言えなくなる。このままでは情事に持ち込めそうにない、がくりと肩を落とした。恐らく一生勝てない問答である、シュウも頬をかく。

「まあ、この話はまた話しあおう」
「そうだな……」
「きょ、今日はやめとこ、ね。けど……」

 言いづらそうなシュウの視線が白竜の下腹部に集まる。白竜はその理由を重々承知していた。どこから見ても、彼の股間で曲線を描く山なりははっきりと見えるだろう。
 仕方ないだろ、と白竜は毒づく。普段そんな様子なぞ微塵も感じられないシュウの、少年らしい薄い唇から散々淫語が飛び出してきたのである。えっち、童貞、以下省略。その言葉が耳に届く度、疼く体のむず痒いことこの上なし。白竜の下腹部に熱が集まるには充分すぎる威力だった。
 シュウは頬に朱をさしたままうつむく。ふわりと香ったシュウの匂いに、どことなく密やかなものが含まれているのを感じて、白竜はおやと眉をあげた。もしかして、という期待に胸が膨らむ。

「掃除も手伝ってくれたし、……口でいいなら、してあげる……」

 白竜は心のなかでガッツポーズをした。その気恥ずかしさを隠しきれていない婉曲的な表現が愛しい。



 シュウはベッドを降り、だらりと垂らした白竜の足の間に割って座った。眼下の風景はとても直視できるものではなかったが、シュウはそっと白竜のスラックスを下ろした。黒いトランクスを突き上げるそれを想像してしまい、甘いため息が出る。背筋が震えた。
 形取るように両手で撫で、ポリエステルの上から唇を落とす。じわりと湿った感触に唇が吸いつくと、白竜のはく息が震えた。その様子に、羞恥心があおられていく、それに心地よさを感じてすらいた。
 意を決して下着も下ろす。何の障壁もなくなった白竜の自身は苦しげに起立していた。
 いざ目の前にしてしまうと、臆してしまう。シュウは自分に活を入れた。白竜を気持ちよくさせたい、頑張れシュウ。ええいままよと一気に口内に押し込んだ。

「うっ」

 ぬめりとした口内の温かな感触に思わず白竜は吐息を漏らす。腰に力を入れて、胸の動悸を押し隠した。なんだか今にも吐精してしまいそうな自分に涙が出る。
 口の中に含むと、さらに大きくなったのがシュウにも分かった。あれ、ちょっと面白いかも。玩具のようなその反応に、瞬時にシュウの思考がシフトする。一旦口を離し、唾液と分泌液で光を妖しく反射するそれを丹念に舌先で舐め上げた。さながらアイスクリームのように。
 青臭い匂いと唾液の匂いがシュウの鼻をつく。なんだか厭らしい。シュウの腰のあたりがずんと重くなった。
 時折頭上から、白竜の我慢しきれなかった声が漏れる。あ、だとか、う、だとか。それを聞く度にシュウの胸は早鐘を打った。
 あの美少年を地で行く白竜が、自分の舌先で感じてくれている。普段からは考えられない、新鮮な姿であった。形のよい眉は歪められ、まつげの生えそろった目は伏せられている。その顔にシュウの胸に愛しさがこみ上げた。体をじんじんと熱くさせるが、若干不安を感じてくる。こんな稚拙な舐め方でいいのだろうか、もっと気持ちよくさせたい。シュウの行為はどんどん積極的になっていく。あちこちにキスを落とし、唇で形をなぞり、先端をちろりと舐めると、白竜の拳がシーツの形を歪ませた。時折、熱くなった指先で擦りながら、愛おしげにぺろぺろと舐めていくと、ますます猛るような勢いは増していく。フェラチオってこれであってるのかな。気持ちいいのかな。そうだといいな、と霞む頭で考えながら、シュウは一心不乱にそれをいじり倒した。
 ゆっくりとまた口内に入れていくと、大きく膨らんだ白竜のものは喉をついた。若干咽そうになるがこらえる。獣臭い匂いと共に感じる、少ししょっぱいような苦いような味に、シュウの頭の中は真っ白になった。白竜の拳が震えを増すのを見て、嬉しく思う。シュウは一心不乱に愛撫を繰り返した。

(好き、好き、好き、好き)

 そんな思いが重なり胸がはちきれんばかりである。白竜が感じてくれているという事実が、ただひたすらに嬉しかった。唾液でべたつくのも構わずに吸い上げると、更に怒張する。愛撫を続けながらいい加減しびれてきた足を組み替えると、変に布が擦れ、シュウの腰がぴくんと震えた。(あ)シュウはもう何も考えられない。
 白竜はそっと薄目をあける。眼下の光景が信じられない、シュウが、シュウが。白竜はその事実にすら感じた。幸福感で胸が満ち溢れる。
 思えば道のりは長かった。シュウはどうしても自分と付き合いたがらなかったからだ。何かを恐れているようなその様子にくじけながらも必死で口説き上げた結果、念願かなってやっと通じ会えたのである。大切にしたくないわけがなかった。今までどんなに欲情に駆られようと、我慢し、一人で収めてきた、夢精さえ何度もした。その卑しい事実をシュウは知らない。その大切なシュウが今、そんな厭らしい自分に淫事を働いてくれている。
 恐らくシュウの口使いは上手いといえるものではないのだが、好きな相手だというだけでこんなにも乱れるとは思わなかった。シュウの熱い吐息が当たるだけでぞくぞくする。他の男にやったらきっと下手って言われるんだろうな、いや誰が他の奴なんぞにシュウを渡すか。浮いた頭でずれた事を考えた。
 白竜はシュウの頭を撫でた。「シュウ」声はシュウの耳には届いていないらしい。夢中になって舐めているシュウに愛しさがこみ上げる。
 頭を撫でるだけで、征服欲がこみあげてくるのを、白竜は必死で抑える。今すぐめちゃくちゃにしてしまいたい欲求が心をくすぐるが、がんとして顔を向けない。この柔らかな気持ちを汚したくはなかった。
 撫でていると、ふっと自らのものを支えている手が片手だけなのに気づいた。もう片方はどこにあるのか、と白竜が疑問を巡らせた時、ぎょっとする。

「シュ、シュウ」
「ん……はぁ、ちゅ」

 シュウはどうやら聞こえていないらしい。真っ赤な顔でひたすら淫靡に溺れている。白竜は直視出来なかった。シュウは片方で白竜のものを擦りつつ、片方の手は自分の下腹部に伸ばしているのである。
 言葉にならない喘ぎ声を漏らしながらシュウはひたすらに自分のものを擦っている。目に毒なのか薬なのか分からない光景に、白竜は思わず目をつむる。しかし、今度は艶かしい水音が耳をついた。暗闇の中想像が掻き立てられる。かといって、目を開ければ、あられもない姿を晒したシュウがいる。音の暴力、視覚の暴力、遠慮なくふるされるそれらに白竜は泣いていいのだか喜んでいいのだか混乱した。
 なんて状態だ。体に甘い痺れが走った。
 シュウは貪欲に快感を貪る。うっとりとしていた。手の動きが早くなり、それにあわせて白竜の口から息が断続的に漏れる。

「シュウ、あ、もう……」
「ん、あ、ふぁっ」

 シュウがひときわ高い声を上げた瞬間、白竜は吐精した。シュウの口に青臭く苦々しい味が広がり、シュウはいつの間にか流れていた汗をそのままに恍惚に浸る。シュウの自身も射精していた。
 しばし沈黙が訪れた。体が熱い、焼けるようである。白竜が側に置いてあったティッシュを差し出すと、シュウは静かに吐き出す。口にひく白い糸がやけに扇情的に見えて、白竜は目を逸した。
 今さらながら、シュウは自分の状態を認識する。口元は唾液で汚れ、スラックスと下着は半分ずらされ濡れている。「見るな」といまさらなことを言いつつ、左手にべったりとついた精液も慌てて拭った。

「気持ちよかった?」

 シュウが照れくさいような笑みを浮かべる。赤みの引かぬ頬と弧を描く濡れた唇に、白竜はくらりと眩暈がした。フィラメントが焼き切れた。

「……シュウ」
「ん? って、うわ、ちょっと!」
「駄目だ。すまん。我慢出来ない」

 一度萎えかけた自身はまたも立ち上がっていた。しかも先ほどの比ではない、真っ赤に怒張し存在を主張するそれを見て、シュウが喉を鳴らす。
 ダメだってば、という、誘い文句のようなシュウの甘い言葉を唇で飲み込んだ。苦い味がする、しかしシュウの唾液はそれ以上に甘い気がする。床に押し倒されたシュウはもう抵抗しない、性急に動く白竜の手に息を震わせて、彼の体に手足を絡めた。白竜の理性が薄い飴のようにたやすく砕け散る。
 最後に一瞬だけ、隅にちょこんと座っている暖房機器が目に入った。彼も気の毒だ。主人の情事を見せつけられるなんて、劣悪な環境にも程がある。しかし今は彼がいなくても温かい、体の熱は冷めることを知らない。しばらくいなくても済みそうだ。
 そんな同情は、キスの間に挟まれて消えた。

【終】

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