とんでもないものをみた。
 白竜は思わず隣の青銅を突き飛ばして窓にへばりつく。「な、なんだよ!?」突然の行動に目を白黒させて青銅が叫んだが白竜はそれどころではない。
 窓の外には誰もいなかった。

「どうしたんだよ、白竜」
「今……シュウがいた」
「は?」
「シュウが誰かとキスしているように見えたんだが」

 とんでもないことだった。男であるシュウが、キスをしているように見えたのだ。無論、少年しかいないこの島では相手は同性と決まっている。
 異性だったらからかうくらいで済むだろうが、14歳の白竜にとって同性愛は未知なるものである。
 「ああ、それね」と青銅がなんでもないように言うので、白竜は二度驚いた。

「そっか、白竜はあんまりそういうの、興味ないんだっけな」
「どういうことだ」
「有名な話だぜ。シュウが男とキスするっていうのは」

 もっとも、彼が望んでする愛ある行為ではない。頼まれているのである。
 男しかいない閉鎖的空間、長い間拷問紛いな訓練を施される少年の中には、ちょっと頭をおかしくする者がいるらしい。同性の中に拠り所を見出し始めるのだ。

「何かを達成した時にご褒美でキスを頼む奴がいるんだってさ。まあ声も高いし、顔も可愛い方だし、細いし、女子の代わりにするんだったら最適かもだけど、断らないシュウもシュウだよなあ」

 まるでどこかの恋愛漫画のようだ。ただし、同性だが。成程、と白竜は納得した。
 気持ちは分からないでもない。最初は白竜も気が狂いそうだった。
 しかし、同性愛者(とはまた少し違うのだろうが)が生まれるとは、少々驚きである。少年しか集められてこないのだが、今さらながら組織の異常性に驚かされる。ゴッドエデン、神の園とは、少年しか拉致しないショタコン野郎の天国ということか。いやはや、邪推は無用である。

「それ、誰が頼んでも断らないのか?」
「そういう話だけど」

 言葉通りのリップサービスというやつである。
 白竜はしばし考えた後、至極真面目な顔で青銅に尋ねた。

「それ……オレもやったほうがいいんだろうか」
「いい。やめてください。お願いします」

 見るのも可哀そうなくらい顔をさあっと青くし、首をぶんぶん振りながら青銅は懇願する。
 そんな青銅の反応を見るのもそこそこに、白竜は駈け出した。彼はシュウに言わねばならないことがあった。



 シュウは簡単に見つかった。先ほどの目撃現場の近くでぶらついていたのだ。
「シュウ!」と声をかけると、シュウはなんでもないように「やあ白竜」と返してきた。

「お前、本当なのか」
「は?」

 性急に尋ねると、シュウはきょとんとする。本当に何を聞かれているのかわかっていないようだ。

「だから、男とキスするって話!」
「ああ、それかあ」

 拍子抜けするほどあっさりと、「うん」とシュウは頷いた。全く大した感情を抱いていないようである。実際、抱いていなかった。

「……本当なんだな」
「うん。別にたいしたことないし」

 本心だった。
 シュウの貞操観念は薄い。恐らく、突然誘拐監禁され、厭らしいことをされたとしても、反感は覚えるだろうが意外とすんなり受け入れることができるだろう。
 同性とキスすることなんてなんでもないことなのだ。

「ファーストキスとかそういうの、いいのかよ」
「もう済ませたし。……いもうとと」

 ここだけはぽっと頬を赤らめる。幼い頃に一度、おにいちゃんすきーというようなものだったが、シュウにとっては可愛い妹の初キスである。
 白竜はその様子を見て、(こいつシスコンかよ)と至極まともなことを考えたが、言わずに飲み込んだ。それより重要なことがある。

「じゃあオレともキスしてくれるのか」
「はっ?」

 初めてシュウが驚いた。白竜は真剣そのものである。
 しばし目をぱちくりと瞬かせていたシュウだが、途端に何かを見定めるような表情になる。

「君……ホモなの?」知らなかった、というような口ぶりだ。
「違う」

 即答する。実際白竜はホモではない。ただ、以前からキスというものに関心があった。
 中学生はその盛りだ。勿論白竜も例外ではない。

(こいつとキスすると気持ちよさそうかも)

というような軽い気持ちなのだ。
 シュウは逡巡したが、「いいよ」と応えた。

「ただし、何かのご褒美とかじゃないと、ボクはしないから。それも、ボクにわかるようなものじゃないとだめだ」
「今度の合同練習でエンシャントダークに勝ったらキスさせろ。いいな」

 トップ同士の争いとは、今まで数々の「ご褒美」を与えてきたシュウだったが、ここまで難度の高いものに対する報酬は初めてである。「いいよ」ともう一度シュウは了承した。

【続】
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