リビングのテーブルで、目を覚ました。
壁にかかった時計を見ると、0時を過ぎていた。
どうやらテレビを見ながら寝入ってしまったらしい。
つけっぱなしにだったテレビは、砂嵐になっていた。

一度大きく伸びをして、リモコンを放った。

昨夜の晩御飯はカレーだった。
我ながらなかなか上出来だったと思う。
まだ晩御飯の匂いがあたりに漂っていた。
久しぶりに私が台所に立ったのだが、腕は落ちていなかったみたいだ。

家族はみんな寝入ってしまった、平日の夜。
二階の寝室は静かだ。私ももう休もう。

ふと、家族以外の人の気配を感じた。
玄関、ではない。
おそらく勝手口だろうか?
庭の砂利石を踏む音がしたような気がしたのだけれど。

私だってまだ大人ではない。
というか、どっかの誰かのように鋼の精神を持ってるわけじゃない。
なんでもないと分かっていながらも、少し、心臓の鼓動が早くなった。

不穏な気配を感じ、さっさと自分の部屋に戻ろうと、台所の電気を消そうとした。
その瞬間。

―――コンコン。

「ひっ!?」

驚いて振り返る。
心臓飛び出すかと思った。

音は、確かに勝手口の方から聞こえた。
誰かが扉を叩いた、と思う。
恐る恐る扉に近づく。

―――ゴンッ。

ちょっと音でかくなったな。
お母さん、いつの間にか外に出てたのだろうか?
気づかなかったけど・・・まさかこの時間に勝手口からの客とも考えられないけど。

「・・・おい」
「・・・」
「おい、いるんだろ」
「どどどどなたですか!?」
「・・・はぁ。俺だ、名前」

そこまで言われてようやくわかった。
この不機嫌そうな声。
なんでここに居るのかはわからないけど。

扉の鍵を開けて、客を招き入れる。
ドアを開けたとたん、居心地の悪い生ぬるい風が家の中に吹き込んできた。
そうだ、たしか昼間に出した生ゴミそのままだった。
真夏の日光で、やられているかもしれない。

「宮田先生?どうしたんですかこんな時間に」

珍しい、というか、初めてのことだ。
先生がこんな、わざわざ私の家に来るなんて。
ていうか何時だと思ってるんだ!

「名前、来い」
「えっ、ちょっ、と!」

何かと思ったら、突然手を引かれ、家の外に連れ出された。
咄嗟にその場にあったサンダルを履いて、先生のあとを追う。

背後で、勝手口が閉まる音が嫌に響いた。

「せ、先生!?」
「なんだ」
「どこにいくんですか!?」

真っ暗な道を、あてもなく?走り続ける先生と私。
さっきから何度も話しかけているのに、先生は適当に返事をするだけで何も話してはくれない。

あ、もしかしてこれが愛の逃避行なのかな?
って思ったけれど、実際やってみると流石に家族とかに申し訳ないなーって思ったりまあそんなわけないんだけどね!
けど、いい加減に理由を知りたい。

「っせん、せい!」
「っは・・・名前・・・」
「・・・どうしたんですか?なにかあったんですか?」

近所の集落を抜けたところで、私は思い切って宮田先生の手を振り払った。
今日の先生、なんだか少し怖い。
突然私の腕が抜けたので、先生は私をイラついたように振り返る。

「おとなしくついてこいといってるだろ」
「でも・・・先生、なんか今日、変です」
「・・・普通だ」

何度目かのでも、をつぶやくように口に出していると、
遠くの方で野犬の声だろうか、甲高い鳴き声が霧の中に響いた。

というか、霧?いつの間に?
気づかないうちに、すぎたばかりの民家までもう見えなくなっていた。
なんだか周りが見えないだけなのに、全然知らないところに来てしまったような気もする。
怖い。
単純にそう思った。

振り返った先生も、はっきり見えない。
輪郭がぼやけて、どこか遠くに行ってしまいそうな・・・。
恐ろしくなって、話したばかりの手を、再び繋いだ。

その途端、今度はもっと近くで、野犬の鳴き声がした。
まるでこっちに向かってきているような。
無意識に、宮田先生の腕にしがみついた。

「・・・先生?服、どうしたんですか?」
「・・・・・転んだ」

超絶嘘くさい。ていうか嘘だ!
泥だらけな先生の白衣を見て、不安を覚えた。

「名前」
「はい!」
「俺から・・・離れるなよ」
「え?それって、」

全部聞き終わる前に、再び先生に腕を引かれた。

「先生!先生ってば!」

暗闇の中で、チラリと見えた先生の横顔。
それはひどく楽しそうに、愉快そうに、歪で美しくて。
右手に持っているそれが、赤黒く、鈍色に光った。
先生が今までで一番生き生きしてるように、私には見えた。

ああそうだ、昨夜は私がご飯を作って、食卓を囲んで。
みんなが寝たあとも一人でテレビを見ていた。
たしか有名なバラエティ番組だった。

その時何かが頭に響いてきたような気がする。
テレビの画面が一瞬歪んで、電気が瞬いて、そして真っ暗になった。

「あ、あ、せんせ、」
「名前、大丈夫だ、俺、俺が――」

そうだ、思い出した。

―――0:00、サイレンの音が響いて・・・。

「守ッ、テ・・・」

この村は、絶望に閉ざされた。





20140513
A RI GA CHI

はじまりはじまり

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