すぐ左隣からきこえてくる爆音。
恭弥の首にかけられたヘッドホンから漏れ聞こえてくる。
そう、確か恭也が好きだって言ってた曲だった。
タイトルは・・・なんだったかな。
学校で習ったような英語だったかもしれないけれど、忘れてしまった。
「なあ、名前」
「なに、恭也」
私たちは、眼前を見据えながらお互いの名前を呼んだ。
全部見えている。今からやること。やらなければならないこと。
「ちょっとだけでいいんだけど」
「うん」
「手、握ってもいいかな」
おかしい。
少し前までの恭也は、こんなことを言えるような男の子じゃなかったはずなのに。
彼を変えたのは、なんなのだろう。
「すこしだけね?」
「ありがと」
深呼吸、三秒ほど置いて、彼はためらいがちに私の手を握ってきた。
恋人のようなムードなんてない、ただの握手の延長線上みたいな繋ぎ方だったけれど。
女の子の扱いが下手で、無骨で、力加減も知らなくて。
軽く握り返した。
サイレンの音はもう聞こえない。
けれど、まだ助けを求める声が聞こえる。
私たちには、救う力がある。
「恭也、私いま、すごくわくわくしてるの」
きっと恭也には、その理由がわからないだろう。
でも今はまだ分かってくれなくても構わなかった。
いつかわかってもらおうとも思わない。
私たちには、無限の時があるのだから。
「多分、俺も」
そう言って歯を見せて笑う恭也と、
目が合った。
釣られて私も目を細める。
強がっちゃって。
恭也は、誰にも渡さない。
学校のやつらにも、化け物にも、ごめんけど、みやちゃんにも。
みやちゃん、きっとここにいたら、すっごく拗ねちゃっただろうな。
それでも強がってなんでもないふりをするかもしれない。
どんな反応でも、きっとすごくかわいいんだろう。
少しだけ嫉妬して、手を握る力を強めた。
一緒にここに来て、みやちゃんに会って、助けられて。
いろんなことを繰り返して、
それでもみんな離れ離れになってしまった。
だから私だけは、ここにいる。
恭也を一人にはさせない。
これからずっと、どれだけ長い時間が過ぎても私は。
「・・・大丈夫?」
「平気・・・ちょっと武者震いしてた」
「ほんとかよ」
じゃあ、そろそろいこうか。
恭也の体温が、私の左手を通じて流れてくる。
私は、それだけを信じて進んでいけばいい。
この温度を、脳に体に皮膚に焼き付けて、手を離した。
名残惜しいと感じたのは、果たして私だけだっただろうか。
「行こう、恭也」
「ああ」
悠久の時を終わらせるために、私たちは悠久の時を得た。
きっとこれは、神様が最初から決めていたことだった。
彼らは助けを求めて数十年も叫んでいる。
喉が潰れて、声が出なくなっても、ずっと頭の中に響いてくる。
だから少しだけ、代わりに私たちが叫んであげよう。
辛かったね、頑張ったね、お疲れ様って言ってあげる。
そうしてそれが終わったら。
恭也にも同じことを言ってあげよう。
きっと彼なら、照れくさそうに笑いながら、ありがとうって言ってくれるはずだから。
20140422
SDKでも一人じゃきっとさみしいと思う
夢主もみやこに血を分けてもらった的な。
あと解釈に都合の悪い部分はシカトする的な!
THE BUSTER!
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