Ilmatar | ナノ
旅の同行者

 緑豊かな間道のど真ん中に胡座を掻きながら座り込むマシュアは手に持つマップをじぃと眺めている。逆さまにしてみたり回転させたり裏から見てみたり、様々なことをしてからうん、と頷いた。

「迷ったわね」

 マシュアを見つけて突進してくる魔物を片手間で攻撃して倒しながらマップと周囲を見比べる。だだっ広い間道に目印なんて物はなく、正に右も左も分からない状態だ。

「どうしようかしら」
「……何をしている」

 真上から降ってきた声にマシュアは顎を傾けて見上げる。そこには影が立っていた。太陽を背にしていることもあるが、その人物は全身を黒で包んでいた。

「あら、人だわ」
「それがなんだ」
「もしかしてカン・バルクへ向かう人?」
「…ああ、」
「本当?なら一緒に行ってくれないかしら?実は道に迷っちゃって困ってたの」

 立ち上がり声を掛けてくれた人物と向かい合う。やはり服も髪さえも真っ黒な青年だった。表情は冷ややかで、見えない薄い壁を無意識に作られているような気がする。

「構わないが、自分の身は自分で守ってもらおうか」
「ええ大丈夫よ。そうじゃなきゃ一人でこんな場所まで来ないわ」
「なら問題ない」

 そう言うとさっさと歩き出した青年をマシュアは追いかける。

「本当に良かった!あのまま誰にも会えなかったらどうしようかと思ってたの」
「そうか。それは良かったなぜ。…なぜカン・バルクへ?」
「ア・ジュール王に謁見してア・ジュールで雇ってもらうの」
「雇ってもらう?」
「ええ、兵器開発か最先端技術か…どちらでもいいのだけど面白そうな方がいいわね」

 嬉々と話すマシュアに青年はただ無表情で聞いているだけだ。さほど興味がないのか、それともただ元々表情が乏しいだけなのか。

「だが、そう易々と受け入れはしないだろう」
「大丈夫よ」
「妙に自信があるようだな」
「ええ、だって私ラ・シュガルで兵器開発に携わっていたから。そう言えば興味を持たない人はいないでしょう?」

 ぴくりと僅かに青年の眉が動く。だがあまりに小さな変化でマシュアは全く気付かなかった。そうか、とまた淡々と青年は応えて一定のスピードで歩みを進める。

「そういえば名前、言ってなかったわね。私はマシュアよ」
「……リインだ」
「リイン君。カン・バルクまで少しの間だよろしくね」
「ああ」

 マシュアの差し出した手に触れることなくリインは先へと進む。行き場のない手を握ったり開いたりしてマシュアは肩を少し竦めた。
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