Ilmatar | ナノ
味方か敵か
「マナ放出、瞬間値で58万8千レールを記録しました」
「ふふ。素晴らしい」
「………」
カプセルの中で悶え苦しむ人間を冷めた瞳で見つめながらマシュアは計測値をメモしていく。
「ティポ!」
突然振ってきた声に顔を上げれば、ミラ達が立っていた。ミラはガラスを蹴破り、こちらまで飛んでくる。見事に着地をしたミラはジランドを睨みつけた。
「何!?お前たち、どうしてここに!」
予想外の事態にジランドは慌てふためいている。
「エリーゼ、ドロッセル、飛べ!」
「え、そんな……無理……」
「私が受け止める。安心しろ」
「で、でも……」
「おまえの大事な友達がまた連れ去られてしまうかもしれんぞ」
マシュアはティポを掴んでいる研究員を見る。エリーゼが階上から飛ぶのとマシュアがその研究員に歩み寄るために動いたのは同時だった。ミラに受け止めてもらったエリーゼはすぐさまティポを持つ研究員に向かって走り、ティポを取り返すために引っ張る。なかなか離さない研究員の頭を持っていたボードでマシュアがバシッと叩いた拍子にティポはエリーゼの腕の中に帰った。
「っマシュア……!」
「大丈夫?エリーゼ」
「うん…!」
エリーゼの笑顔にマシュアは笑顔で返す。
「茶番だな。実にくだらん」
聞き覚えのある威圧的な声にマシュアは振り返る。そしてその姿を視界に入れると、厄介事の極みだなと内心嘆いた。
「ナハティガル王!」
「実験に邪魔が入ったのか?」
「はっ。しかしデータはすでに採取しました」
「よくやった」
「ナハティガル!」
ミラが剣を抜き、ナハティガルに向かって振り下ろす。それをナハティガルは易々と腕で受け止めた。
「貴様のくだらん野望、ここで終わりにさせてもらうぞ!」
「この者が?」
「はい」
「貴様のような小娘が精霊の主だと……?この程度で笑わせる!」
ナハティガルは剣を掴むとミラごと持ち上げ、ミラの腹部を蹴り飛ばす。
「ミラ!」
そこにジュード達も到着し加わる。
「儂は、クルスニクの槍の力をもってア・ジュールをもたいらげる」
「それでカラハ・シャールを……!どうしてこんなヒドイことばかり……」
「下がれ!貴様のような小僧が出る幕ではないわ!」
ナハティガルがミラに向かって奪った剣を投げる。真っ直ぐと伸びるそれを弾き飛ばしたのはまた別のナイフだった。軌道の変えられた剣はミラの顔の横を通り過ぎ、壁に突き刺さる。魔法陣に乗り、ゆっくりと降りてくる老人の姿にマシュアは目を奪われた。
「イルベルト、貴様か……!?」
ローエン・J・イルベルト、兵の一人が呟いた。『指揮者イルベルト』なのかとジュードが驚きを隠せないように言った。ローエンはジランドの言葉に返答もせず、エリーゼとドロッセルの所へと降り立つ。
「ふん、落ちぶれたな、イルベルト。今の貴様には、それが相応だ」
「陛下、こちらへ!このような者どもにこれ以上構う必要はありません。……博士」
呼ばれたマシュアは肩を竦めて足を一歩出した。だがくいっと後ろに引っ張られる感触に足を止めた。見ればエリーゼがマシュアの服を掴んでいる。
「行っちゃだめ……です!」
エリーゼの頭を撫でて服を掴む指を解く。ナハティガルとジランドの後を追いかけるために、マシュアはエリーゼから離れた。