Ilmatar | ナノ
要塞での問答

「ご苦労様、助かったよ」
「いえ、こちらこそ」

 報酬をきっちりもらってマシュアは財布の中身を確認する。やっとしばらくは旅費の心配をしなくていい金額まで貯まったことにマシュアは頬を緩ませる。

「(ア・ジュールの兵器ってどんなのかしら!ラシュガルよりも進んでいるのかしら!?ううっ考えただけでわくわくしちゃう!クルスニクよりも面白い兵器があったらいいなあ)」

 軽快な足取りで宿まで戻るマシュアだったが、何やら街が騒がしい。周りを見れば武装したラシュガル軍の兵達が街へと踏み込んできていた。今は面倒事に関わっている場合じゃないとそそくさと宿に戻ろうとしたが、その宿の前でラシュガル軍とミラとエリーゼが交戦していた。心配するまでもなくミラ達が優勢である。

「!マシュア、後ろだ!」
「えっ?」

 背後に気配を感じ、振り返れば今にも剣を自分に振り下ろそうとしている兵がいた。マシュアは咄嗟に腰に携えていた武器を手にし、剣が自分に当たるよりも前に兵の隙だらけの横腹に武器を斬りつけた。

「ぐあっ!?」
「……あぁ…関わらないつもりだったのに」

 ほぉ、と感心しながらミラもまた剣を振った。だが多勢に無勢、たった三人ではお互いの死角も補うことができない。敵の術師が詠唱に入っていることにマシュアは遅れて気付く。放たれた術はミラとエリーゼに向かい、背後から狙われた二人は回避することもできずその場に倒れた。

「ミラさん!エリーゼ!」

 二人は意識を失ったようで動かない。さすがにこの人数を一人で相手取ることは困難だと早々に理解したマシュアは両手の武器を放した。

「や、やったのですか?やったのですね?」

 後方でだらしなくへたり込んでいる男が怯えているかのようにそう問うた。立ち上がり咳払いをすると、捕らえろと命令を下す。馬車に乗るように促され、その場にいた市民達も大人しく指示に従う。情けない司令官らしき男とのすれ違いざま、男はちらりとマシュアに目を向けた。それに気付いていないフリをしてマシュアは馬車へと乗る。まだ意識の戻らないミラとエリーゼは兵に担がれて有無も言うことなく共に連行された。


***

 鉄格子に囲まれた薄暗い場所に無理矢理押し込まれる。乱暴な扱いだわ、とマシュアは溜息を零してその場に座った。エリーゼが目を覚ましたようで一緒にいた女性が心配そうに声を掛けている。すぐにミラの肩を揺さぶり、目を覚まさせようとする。

「しっかりして、ミラ」
「ミラ、起きて」
「う………」

 ミラも目を覚ましたようでエリーゼが安心したようによかった、と言っている。ガンダラ要塞に連れてこられたのだと女性が説明している声を聞きマシュアはそうなのかと勝手に納得する。ガンダラ要塞、という名前は耳にしたことはあるが記憶のどこか隅にあるようでマシュアは地理がいまいち掴めていない。

「お目覚めのようですね」
「貴様は!」

 牢の前に先程、指示を出していた男が現れた。

「私は、ラ・シュガル軍参謀副長ジランド」
「ふん。ナハティガルの犬というわけか」
「ふふふ。誉め言葉と受け取りましょう。あなたに伺いたいことがあります。アレの『カギ』をもち出しましたね?」

 聞いているわりには確信のあるような口調だ。だがミラはそれを否定する。

「その上、どこかに隠したそうじゃありませんか?」
「知らないと言ったはずだが」

 あまりにも確信のこもった言葉でマシュアは少し引っかかっていると、ジランドが部下に手で指示を出し、牢の鍵が開けられた。そして強引に今度は牢から出され、一緒に連れてこられたカラハ・シャールの市民達も兵に武器を突きつけられて移動する。通路に出てしばらく歩いてからジランドは天井から床までうっすらと紋章が揺らめく前に立ち止まった。

「もう一度問います。『カギ』をどこに隠したのですか?」
「知らんと言ったろう」

 兵が市民の一人の背中を押し、紋章のあちら側に追いやった。すると足に付けられたら機械が爆発し、肉の焦げた臭いが漂う。

「自分たちの足をごらんなさい。彼女と同じものがついているでしょう?それをつけたまま、あの呪帯に入ると……ごらんのとおりです」
「このような暴虐許されませんよ!サマンガン条約違反ですわ!」

 ジランドは気にせず兵にミラの背中を押ささせる。それほどまでに『カギ』が必要なのだろう。だがミラは知らないの一点張りだ。今度はエリーゼを呪帯に押しやろうとする。それでもミラは無意味だと主張する。

「私でも、その者たちでもそこに突き飛ばしてみろ。私の言っていることがウソではないとわかるだろう」

 そこに現れた兵がジランドに何かを耳打ちする。

「例の件の準備ができたようです。ここは任せますよ。必ず『カギ』の在処をはかせなさい」

 ジランドの視線が今まで大人しくしていたマシュアに向く。マシュアは何食わぬ顔で首を傾げ、その鋭い視線をかわす。

「一緒に来ていただきましょうか、博士」
「あら、やっぱりバレてたのね。しょうがないわね」
「マシュア?」
「大丈夫よ」

 何が、とミラが聞く前にジランドとマシュアはその場から立ち去った。
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