チョレギ! | ナノ


「あっ」
 リビングでお父さんが野球を見るのを一緒に見てるときふと思い出した。ていうか早く野球終われ。何で延長なんてしてんのよ。この後のドラマ見たいんだってば。
「っしゃー!勝った!」
「お父さん、お風呂先入っていいよ」
「ん?またつまんねードラマか」
「つまんねーって言うな!野球より視聴率あるし!」
「んだと!」
「はいはい、お父さん早くお風呂入っちゃって。実玖もお父さん煽らないの」
 お母さんに背中押されてまだ言い足りなさそうなお父さんはお風呂に行った。あっ、で、そうそう、忘れてた。
「タカヤーたっくーん」
 庭で下の弟のシュンとキャッチボールしてる隆也を呼んだ。庭と繋がってるガラス戸越しに隆也がこっちを見た。這いながらそこまで行ってガラス戸を開ける。
「たっくん、何か私に報告することあるんじゃないですか?」
「ねーよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「元希と会ったんでしょ?」
「なっ!?」
「ほらやっぱりあるじゃない」
 ボールを投げようとした姿勢で固まったままの隆也にちょっと来なさいと前に立たせる。
「何で言わなかったの」
「必要ないと思ったからだよ」
「でも本人はよろしく言っといてって言ったんでしょ?」
「…んで知ってんだよ」
「本人がメール送ってきたから」
「送るならオレに言うなよ…」
「タカヤが言わないと思ったからメールしてきたんでしょ」
「よけいにオレに言う必要ねーじゃん」
「まああいつバカだから」
 問題はそこではなくて。
「元希だろうがなかろうが、私に言伝あるならちゃんと報告してよ」
「分かったよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
 そう言ってまたシュンとのキャッチボールに戻った。虫が入るからってお母さんが後ろから怒ってきたからガラス戸を閉めてしばらくキャッチボールを見ている。なんでシュンはあんな無垢でかわいい顔してるのに隆也は目つき悪いかなー。性格もかなりひん曲がってるし。あっ半分以上は元希のせいだね。テレビから聞き慣れた女優さんの声が聞こえてハッとテレビの前に飛んでいった。危ない危ない。お母さんもお茶片手に私の横に並んで座る。
「面白いのに、お父さんは分かってないわねー」
「ねー」
 オープニングの間に私もキッチンで飲み物を調達してささっとまたテレビの前に戻る。二つだけ氷の入れたお茶がカラカラと鳴る。
「モトキ君って、あのモトキ君?」
「そっ、あの元希君」
「元気にしてるって?」
「さー?今日タカヤと会って、一応私によろしくって伝えたけどたぶん言ってなさそうだからってだけのメール」
「ふふ、よく分かってるわね」
「さすが元バッテリー」
 CMが終わってドラマが始まったらまた沈黙。真剣に二人でドラマを見る。お父さんがお風呂から上がって後ろで冷えたお茶をぷはーって飲んで何か喋りかけてきたけど無視。チェッて舌打ちしてどっか行く。キャッチボールが終わった隆也とシュンが家に入ってきて隆也は先にお風呂に入る。シュンが私の隣に座ってきたからまだ頼りないその肩に頭を乗せる。隆也ならすぐイヤがるけどシュンは大人しくそのままでいてくれる。ドラマが終わる頃に隆也がお風呂から出てきてお父さんと同じように冷えたお茶飲んでぷはーって言ってる。
「あっ姉ちゃん、次のオレの試合見に来てよ!」
「んー行きたいけどもう今の季節暑いもん」
「お母さんが行ってあげるからガマンしなさい。お姉ちゃん一応受験生なんだし」
「そっかー…」
「そうだった!」
「そうだったじゃないでしょ!自覚持ちなさい!」
 受験なんてめんどくさいの誰が考えたのよ。あれ、そういえば進路希望書なんて新学期始まってすぐ配られてたなー。やばい、もう5月なってる。何となく考えてはいるけど、何となくだし、どうしよう。まあとりあえずお風呂入ってこようっと。


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