チョレギ! | ナノ


 友人と一緒にトイレに来たけどさほどトイレに用事がない私はトイレの前で壁にもたれながら友人が出てくるのを待つ。そうしてると早々に私の周りを女の子達が取り囲んで笑顔を向けてくれる。慣れたもんだ。去年までは話しかけてくれるのは先輩が多かったけど、先輩方が自由登校になってからは後輩ばかりになった。後輩もかわいいんだけどやっぱり先輩方の大人な魅力が恋しくなる。私を囲む女の子達が廊下の幅半分以上を占領していて通りにくそうにしている顔が見えた。
「あっ!」
 女の子達の声に被さるように聞こえた声にみんなシーンとなる。その声を発した本人に視線が集中して、もちろん私も見た。通りにくそうにしていた男の子が私を指差して口を開けていた。でも男の子はすぐに一緒にいた金髪の子の手で口を押さえられる。
「あ、昨日の忘れ物君」
「むぐ…っやっぱり、昨日の」
「ちゃんと忘れ物取りにいかせてもらえた?」
「あ、はい…何とか」
 よかったね、と廊下の両端で話をしていると友人がトイレから出てきた。
「うわっ人多っ!」
「遅いよむっちゃん」
「化粧直してたんだもーん。…なに?もしかして噂の弟?」
「違う違う、うちの弟こんなかわいい顔してない。もっと目つき悪い」
 友人むっちゃんとだけ通じる会話をして、壁から背中を離した。その場にいるみんなに手を振ってむっちゃんと教室に戻るため歩き出す。
「相変わらずうっとしいわね、あんたの取り巻き。あたしだったら絶対うざいって発狂してる」
「だってみんな目キラキラさせて話してくれるんだよ、かわいいじゃん!」
「ギラギラの間違いでしょ。いかに気に入られようか必死なの丸見えすぎて怖い」
 鏡で睫毛をチェックしながらむっちゃんが言った。むっちゃんの睫毛のバサバサ具合のが怖いよって言ったらきっと20センチ下から昇龍拳キメられるから黙っとこ。
「そういえばさっきの子さぁ」
「ん?かわいい顔の子?」
「そうそう、あの子の隣にいた金髪、留年したバカだって知ってる?」
「そうなんだー」
「うちの弟が中学のときの同級でわりと仲良かったらしいんだけどさ」
 隣でむっちゃんが話してくれてるけど、全く耳に入ってこない。なぜならば、むっちゃんの髪にホコリがついてるのが気になってしょうがないから。たぶんホコリ。もし虫だったらむっちゃんが半狂乱になって叫び出すからホコリだという確信がほしくてじっとむっちゃんの髪を見つめる。うん、ホコリだ。
「ねえ、聞いて」
「むっちゃん、ちょっと動かないでね」
「えっなに?」
 むっちゃんの髪からホコリを摘んでふっと飛ばした。少しだけ乱してしまった髪を整えてからむっちゃんのぽけっとした顔を見る。
「ホコリついてたよ」
「…本当いちいち実玖はやること男前なのよ!」
「へ?」
「で、ちゃんと聞いてたの?」
「あはは、聞いてなかった」
「はぁ…まあいいよ。どうでもいい話だし」
 廊下に設置してある時計をちらっと見ると昼休みがあと5分で終わるところだった。


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