チョレギ! | ナノ


 両親曰わく、両親のいいとこ取りをしてできた奇跡の顔、は有り難いことに万人受けする。さほど気を使っているわけではないがスタイルも良い方に分類される。中学の成長期で伸びに伸びた身長は女子の平均なんて軽く越している。90点は固いと言われて天狗になってなんかいないと言われれば嘘になる。だって自分の容姿にほぼ満足してる、だから心に余裕がある。大抵のことは許せる。すると性格がいいと言われる。勉強は努力次第だけど、運動は努力なくとも一般並みにできる。陸上部で国体狙おうぜって熱く勧誘してきた人は誰だったか覚えてないけど、興味ないから断った。男と話をするより女の子と話する方が好き。変な意味ではなく、単純にかわいいから。でも男が嫌いなわけじゃない。弟達大好きだし。弟達を男と分類するのかって話は置いといてね。まあとにかく、そんな私を特別扱いすることなく育ててくれた両親と臆することなく接してくれた友人のおかげで私はわりとマトモな精神を保てている。もしそれらが無ければ私は史上最悪の性格の持ち主になっていただろう。あーよかった。そんな私もついに高校最後の年を迎えることになったのだ。
「お疲れさまですー」
「実玖さん、お先に失礼しまーす」
「はーい、お疲れー」
 帰っていく後輩達に手を振ってから目の前の自分の身長より少し高いオブジェに再び向き合う。粘土が乾ききっていないところがツヤツヤと輝いていて、妙にグーで殴りたくなる気持ちをガマンする。壊したい、いやダメだ、壊したい、ダメだってば。溜息を吐いて、今日はもう帰ろうとエプロンを脱いでイスにかける。汚い手を洗いながらアレぶっ壊して別の物作りたいって思ってしまう。今年こそ何か出展しろと顧問のセンセーに言われてるからどうしたものか。くわえていたタオルで手を拭いてカバンを持って電気を消して部屋から出て鍵を閉めて、帰る。すっかり暗くなってる。明日は数学の小テストがあったなーとイヤなことをふと思い出してどんよりする。職員室で顔と名前しか知らない物理のセンセーに鍵を渡すと頑張ってるか?って聞かれる。ほどほどに、と答えて少しばかり話をしてから挨拶をして靴箱に向かった。物理選択してないからあのセンセーにはさほど関わってないのに、ご苦労様ねー。薄暗い廊下をペタペタ履き潰したスリッパで歩いていると前からバタバタ音がして誰かが走ってくる。
「うわっビックリした!」
 私の顔を見てあからさまに驚く私より小さい男の子にこっちがビックリする。
「あ…スイマセン…」
「いいえ、忘れ物?なら早く行った方がいいよ、先生もうすぐ帰るっぽいし」
「ありがとう…ございます」
 ぺこりと頭だけのお辞儀をされて、よく見ればかわいい顔をしてる。男の子にかわいいって言ったら怒られそうだけどかわいい顔。バタバタ走り去った男の子の後ろ姿をちょっとだけ見て、歩きながら反響してきたガラッと職員室の扉が開かれる音を聞く。何を喋ってるのかちゃんとは聞こえないけど、男の子の申し訳なさそうな声とちょっと苛立ったセンセーの声とを交互に聞きながら階段を降りた。


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