zzz | ナノ


身長172センチ、オレより短いベリーショートの茶髪、目つき悪い、男口調、ぶっきらぼう、愛想悪い、不良、スカートで平気で胡座掻く、何かとにかく女らしくない。

「本山ー、夏休み何すんの?」
「予備校ー。行きつつ後輩のシゴキ」
「ふーん」
「お前聞いておきながらその反応かよ」
「興味ねーし」
「じゃあ聞くな!」

窓枠に両腕を凭れて遠くを見ている。銜えたチュッパチャプスの棒を上下させている横顔。夏の日差しを眩しそうに目を細める。お前は何すんの、海とか行くのかよ、つか勉強してんの、とか普通なら聞くけどコイツ相手になると聞く気になんねぇ。全然これっぽっちも興味ないわけじゃないんだけどな。たぶんこの学校じゃオレ以外とは喋らねーから夏休みに遊ぶ相手ってのもいないかもしんないって予想ついちまってるからかも。

「本山って彼女いなかったっけ?」
「お陰様でいねーよ」
「ふーん」
「だーかーらー」
「興味ねーなら聞くなって?んだら本山から何か話題提供しろよ」
「……」

ガリっボリボリボリ、と隣からチュッパチャプスが粉々になる音が聞こえる。何にも無くなったはずのチュッパチャプスの棒をまだ銜えたまま外を見ている。話題提供、っていきなり言われても何もねーっての。あーどうせならさっき考えてたこと聞いてみるか。

「そっちは夏休み、何すんの」
「んー。引っ越し準備、かな」
「へーそら大変だな……引っ越し!?」

プッと棒を窓から外に向かって吐き出した。三階の窓から落ちたチュッパチャプスの棒は自由落下して地面との衝突で跳ねた。そこを通りがかっていた男子が迷惑そうな顔をしてこっちを見たけど、落とした本人の顔を見たら青い顔してそそくさと逃げていった。相変わらずの怖がられようだな。と、無駄に冷静に観察してる場合じゃねーよ。

「引っ越しって、お前が?」
「じゃなきゃわざわざ人の引っ越しの準備しねーって」
「なんで、どこに」
「えーと、アレ、砂漠あるとこ」
「砂漠…鳥取砂丘のことかよ」
「それそれ。鳥取砂丘」

まるで大したことないように言うコイツと対照的にオレは焦ってた。三年の夏に引っ越し、しかも鳥取なんかじゃ転校するってことだろ。

「ばあちゃんち行くんだ。二学期からあっちの学校。つっても、もうほとんど行くことねーけど」
「何で黙ってたんだよ…」
「聞かれなかったからだよ。引っ越しするって知ったところで何もねーじゃん」

引っ越し祝でもくれんの?やらない。じゃあ言う理由ない。そんな掛け合いをして終わる昼休み。あーなんだ。オレ寂しいんだ。引っ越すってことも教えられないような関係だったことが。会えなくなっても別にどうってことはないと思われてる存在だってことが。オレ、寂しいんだ。




(続く。かもしれない)