zzz | ナノ


口をもごもごしてるテーブルを挟んで向こう側の滝井を注目する。思わず落としそうになった唐揚げをとりあえず口に入れて咀嚼しながらまだ続いてる滝井のもごもごを見つめる。滝井は私の視線に気付いてないみたいで上の方を何か思い出すときみたいに見つめてる。歯に何か挟まったんかな。それなら爪楊枝使えばいいのに。ごっくん。

「何してんの」
「むっ…」

私が見てることに気付いた滝井は気まずそうにやっとかち合った視線をまた逸らして次は下を見る。口元に手を当てからその手を広げて私に見せてくれた。手のひらにはアルファベットのUみたいにひん曲がった物がある。

「あぁ、さくらんぼ」
「なかなかできなくてよォ」
「ふーん」

滝井の前にあるBランチのプレートにはさくらんぼの種だけが入れられた器がある。今日のランチのデザートはプリンで、私の前にもまだ手付かずのプリンの上にちょんとさくらんぼが乗ってる。とりあえずプチトマトを食べて、私もプリンにスプーンを差す。また滝井はさくらんぼの枝を口に含んでもごもごし始める。それを見ながら私はデザートタイム。

「何だっけ。結べたらキス上手い、だっけ?」
「んー」
「じゃあ滝井はキス下手だ」
「んぐっ……っっっ」

自分の胸をドンドン叩く滝井を見ながらのデザートタイム。大方、枝を飲み込みそうになってるんだろと冷静に分析してプリンをぱくり。ぶはっと豪快に息を吐いた滝井の顔は真っ赤だった。

「ハァ……お前な!」
「だってそういうことじゃん」
「じゃあお前できんのか!?この難しさ知らねーからそんな大口叩けんだよ!」
「できるよ」
「だろ!………え?」

さくらんぼの実と枝をぷつんと離して茎を口に含む。

「いや、そんな、見栄張んな」
「できた」
「早っ!!?」

ベッと茎を吐き出して滝井と同じように手のひらに乗せる。真ん中で結ばれた枝を滝井はマジマジと見つめてるけど、一応自分の口から吐き出した物をそんな見つめないで欲しい。

「こんなんでキスの上手い下手決めつけて欲しくないけどね」
「…だよなー!」
「まあ滝井は下手そうだけど」
「おいっ!」

残していたさくらんぼの実を口に含んだらシロップ漬けされて甘々なのにちよっと眉を顰める。滝井はまだ頑張ってもごもごしてるし。別にキス下手でも何でもいいと思うんだけど、男ってそういうこと気にするんだ。ていうか滝井が気にしすぎ?案外、滝井って乙女なのかもね。



結び目

「何騒いでんだよ」
「滝井がさ、さくらんぼの枝結べないからキス下手だって嘆いてる」
「嘆いてねえし!」
「仲沢できる?」
「もち(もごもご)…ん」
「「2つ結ばれてる…!」」