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いつもの帰り道。あたしと巣山は家が近くて、小学校からずっと一緒で、つまりは幼なじみってやつで、高校も気付いたら同じとこ目指してて、で、結局同じ高校受かって通ってて、まあ腐れ縁というやつなんだろう。当たり前みたいに近くにいるからあたしも女子としての警戒心やら巣山を男子として見ることもいつの間にか無くなってて、平気で生理の話とか今日のパンツ可愛いんだとか言っちゃって、でも巣山は思春期真っ只中だから顔真っ赤にしてあたしを黙らせようとする。その顔が見たくてわざとそういう話ばっかりするあたしはSかもしんない。巣山限定で。今日もお互い部活の終わる時間が同じくらいだったから一緒に帰る。途中まで一緒の野球部とももう顔馴染み。二人きりになったらあたしらは今日学校であったことを話し合う。これもいつも通り。あーそうだ、と思ってカバンの中からリンゴ果汁100パーセントの小さい缶ジュースを取り出す。

「部活で先生の独断と偏見の籠もった選択で今日一番頑張ったからってもらった!」
「ふーん、良かったな」
「これもらうためにあたしタイム更新しちゃったし」
「すげ物欲」

カシュ、とプルトップを開けてリンゴジュースを飲む。やっぱり果汁100パーセントだよね。

「巣山、飲む?」
「えっ」

一人で飲んでるのも悪い気がして半分ぐらい飲んだジュースを巣山に向ける。巣山はなぜか恐る恐る缶をあたしから受け取って両手でしっかり持ちながらまじまじと缶を見つめてる。そんな珍しいジュースじゃないと思うってかメジャーなジュースだよね。何をそんな見る必要があるのか。

「良いんだよな!?」
「う、うん」
「まあ、そうか…付き合ってんだもんな」
「は?」

聞き捨てならない言葉が聞こえた。巣山は相変わらず缶と見つめ合ってるし、どうしちゃったんだコイツ。

「付き合ってるって…誰と誰が?」
「は?俺とお前」
「はぁ?いつから、何で!」
「いつからって…先週映画見に行った帰りに、手、繋いだじゃん」
「は?」

確かに手繋いだ、つかあれは帰り道暗いから巣山怖いだろうと思って繋いだだけで、デカい図体して怖がりの巣山に対する配慮であって決してそんな他意はない。ていうか

「手繋いだら付き合うなんて聞いたこともないわ!」
「えっ何でだよ!?オレ、野球部の奴らに付き合ったって言っちま…」
「だからアイツら今日やけにニヤニヤ気持ち悪い笑顔向けてたのか!バカ!ハゲ!!」

巣山から缶を奪って全部飲む。巣山なんかにやるかバーカ。ああ最悪、巣山のピュアさを完全に理解しきれてなかったあたしが悪い。いやでもまさか手繋いだだけで付き合うとか思うなんて思いもしなかった。めんどくせーよ純情ボーイ。

「脱帽だよ巣山くん…」
「じゃ、じゃあ、お前は何したら付き合うって言うんだよ」
「は?んー…ちゅーするとか?」

そう言った瞬間、何かが唇に当たった。いや正確には唇半分、下手くそか。

「何してんのさ…」
「キスしたら、付き合う…って、言うから…」
「同意の元での話だっつの!バカハゲ!」

脛にローキックをお見舞いしてあたしは巣山を無視して歩き出す。純情ボーイの癖してやること大胆すぎるし。いや、今のはビックリした、マジで。

「じゃあ同意しろよ!もっかいするから!」
「やだね」
「お前ワガママすぎ!」
「黙れ変態バカハゲ」

ちょっと熱い顔を巣山に悟られないようにあたしは先々歩く。こんなの見られたら絶対また調子乗るのが目に見えてる。いつもの帰り道が巣山のせいで台無しだ。





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