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どこにもいかないで、枕に埋めた顔からそんな声が聞こえた。でもそれはこの場にはいない他の誰かに向けられているものだ。この女はすぐに弱音を吐く。疲れた、お腹すいた、眠い、寂しい。心と口を直結で繋げているようなこの女の性格がうっとうしい。普通は、人というものは他人に弱味を見せたがらない。だから強がる。虚勢を張る。だがコイツにはそんな思考は微塵もないらしい。今日も一人で部屋にいるのが寂しいからとただの同僚の部屋にこうしてのこのこと現れてはベッドを占領している。そんなに寂しいのなら愛しい愛しいアイツの元に行けばいいじゃないかと思った矢先のあの言葉だ。

「人生とは、ままななないものだよ」
「ままならない、な」
「うるさい」
「じゃあ帰れ」
「いじわる」

 枕に顔を埋めたままだから声がくぐもって聞こえる。アイツは最近、どこかおかしい。それは俺も感じている。だからと話を聞こうだとかは思わない。そしてコイツは何かを察したのかしてないのか、アイツの所には行かずに俺の所に来た。迷惑な話だ。

「イザークのにおいがするー」
「なっお前!そこから退け!」
「やだよーくんくん、シトラスのかおり?」
「貴様ー!!」

 枕を抱きしめたまま動こうとしないコイツを担いで部屋から投げ捨てた。枕は新しいのを支給してもらおう。とりあえずこの気持ち悪い女を追い払い、この先一生部屋には入れさせん。

「アスランの所へでも好きな所へ行け!」
「……行けないよ」
「普段はベタベタくっついているお前らしくもない」
「だってアスラン、違う所見てるんだもん。もう、私のことなんて見てくれない…どっか行っちゃうんだ」

 枕をさらに抱きしめて顔を埋める。あの枕は俺のじゃない俺のじゃない俺のじゃない。しょぼくれているコイツのつむじを見ていたらイラッとして、俺は蹴った。

「いたっ」
「それを言えばいいだろ」
「…言えない」
「ハァ、いつも無駄に疲れただの帰りたいだの言ってるクセに肝心なところは臆病者か。情けない。そんなことなら軍人も辞めろ。作戦に影響が出る、迷惑だ」
「うるさいなーイザークなんかに分かんないよ!」
「臆病者の気持ちなど分かってたまるか!帰れ!」

 ドアのセンサーが感知できない場所まで下がり、閉めさせる。間を置いて衣擦れの音が微かに聞こえた。

「ばかイザーク」

 ぼそっと耳に入った言葉に反応しそうになる自分を抑え、立ち去ったことを確認してからこちらも動いた。本当に、迷惑な同僚だ。勝手にしてくれ。



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