「自分の気持ちって云うのもさ、案外わかんないもんだね。」 相手があまり口数の多くない人物だからだろうか、自分がいつもより饒舌になっているように感じる。 「ほら、俺が来たばっかりの頃、今より上手くやってたと思うんだけどさ、」 らしくも無く、何も考えずに口を開けば、都合良く言葉は吐き出されてくれて、自分が今何について話しているのかとか、話の組み立てがおかしいとか、そもそもどうしてこんな風になったのだっけとか、全部どうでもいいやと投げ出して、只々頭の中を空っぽにするように口を開く。 「ねぇ、剣城君。」 幸福論パラドックス グラウンドの喧噪と、音楽室から微かに聞こえてくる下手くそな合唱と、車が排気ガスを吐き出す音。普段間近で聞いている音達をいつもより遠くに聞いて、暖かい日差しと少し冷たい風、むかつくくらいに綺麗な青い空、背中に感じる固いコンクリートの感触、それから、そんな景色とはおおよそ不釣り合いな毒々しい色合いの不良少年。 これが、最近の俺のお気に入り。 ここ何週間か、2日か3日ごとくらいの間隔を開けて屋上にサボりに来るようになった。 あっちが先に居る事もあれば、こっちが先に居る事もあって、お互いの来る時間が合わない時もある。 会う為に来ている訳ではなくて、居ても居なくてもなんら変わらない。ただ寝転がって空を眺めるだか、微睡むだかするだけなのだ。 気が向いたらちょっと声を掛けたりもしているが、返事が返ってきた事は無い。 「なんかしゃべってよー」 今日はあっちが先に来ていて、なんとなくいつもより少しだけ近い位置に仰向けに寝転んだ。 そう、本当にそれだけ、それだけが、いつもと違うだけなのに。 いつもより饒舌に感じるのも、あながち間違いではないかもしれない。ただいつもとすこしだけ違う事をしただけで、こんなにも浮かれている。 バカみたいだと呆れる自分が頭の隅の方でため息を吐いているように感じるが、今はそれさえもどうでもいい。そう、こっちは思考することを放棄しているのだ。ただ口を開いて、言葉を吐き出し続ければいい。今自分がなんでこんな事をしているかなんて、考えるだけ無駄なのだ。 「ねー、きーてるー?」 ・・・だからといって、本当にまったく反応が無いというのも面白くない。横暴?関係ない。だって、今の俺の行動に意味なんて無いのだから。さて、この不良君をどうしてやろうか。 「・・・・・・・・・・・・・何だ。」 「あ、やっと返事したー」 熟考の結果、剣城君の腹の上に馬乗りになることによって反応を得る事に成功した。 結局考える事になってしまったが、これはこれでいい眺めなので、なんだっていい。 だって、俺の行動に、意味なんて無いのだ、だから、思考しなくたって熟考していたってなんら変わらないのだ、きっと。 「剣城君はさぁ、どーだった?天馬君達と居て。」 だから、意味なんて無い。 「俺はさ、あーゆう風に連るむのあんま慣れてないから、ちょっとヘンな感じすんだよね。やたら近いし」 近いのは苦しい 「だから、その点剣城君と居るのは結構好きなんだ、近すぎないから。」 遠いのは寂しい。 「屋上っていう場所がいいっていうのもあるよね、空キレイだし。」 雨は嫌い。 「居心地が良いんだよ、剣城君があんまり喋らないっていうのも要因なのかも。」 話すのは怖い。 「気を遣わなくていいし、」 気遣われるのは切ない。 「俺の事信じ切っちゃってないしさ。」 信じられたくなんかない 「俺も信じ切ってなんかないし、丁度いいんだよね、」 信じられちゃいけない。 信じたりしないで。 だって、 「・・・信じて無いなんて言ってないだろう。」 ・・・駄目だ 「・・・なに?信じてくれちゃったりなんかしてんの?」 駄目だ、だめだ! 「だってお前は、」 だって、それじゃまるで! 「仲間だろう。」 「だめだ!!」 だめだだめなんだだめだだってそれはしんじてるってことじゃないかだってだってしんじられちゃいけないんだしんじたりしないでしんじられちゃだめなんだだって!!! 「オレはだれかを信じたりしたくない!!!」 ・・・信じるのが、恐い? 「・・・、ぁ・・・」 喉がチリチリする。 「だって、信じられたりしたら、信じたくなるから」 心臓がドクドクする。 「信じたら、裏切られるんだ、だから、」 だから 「だからオレは捨てられたんだ。」 オレもう捨てられたくないよ 狩屋のもだもだが決壊した話 |