どうしてこんな風になってしまったのだっけとか、考える余裕なんて、どこにもない。


「・・・俺は、お前の事情は知らないし、特に知りたいわけでもない。」

目の前が真っ白で、ただ何か取り返しのつかない事をしてしまったのだと云うどうしようもない焦燥感、考えなければいけないと思いながらも、混乱した頭ではどうしようと繰り返すのが精一杯で
剣城くんの声だけが、やけにクリアに頭の奥の方に響いて来る。

「だから、俺が思っている事や言った事に、とやかく言われる筋合いは無い。」

ああ、もしかして怒らせてしまっただろうか、今までからかったりしても本気で怒らせた事はなかったからよかったけれど、今回は本気で怒っているかも。嫌われてしまっただろうか、それは少し残念かもしれない。
さっきは天馬くん達と比べて言ったけれど、剣城くんのことは本当に気に入っているし、一緒に居て居心地がいいんだ。
でもまぁ仕方が無い、その居心地のいい距離を壊したのは俺なんだから。

「俺はお前を仲間だと思っているし、それなりに信用している。」










何を、


何を言っているんだろう
この不良くんは。


「入り立ての頃こそ霧野先輩突っかかったりしていたようだが、今はそれも改善されたようだし、最近は少し丸くなった」


ちょっと待って、何これ


「ボディバランスでは特出したものがあるし、機動力もある、ディフェンスとしての能力も高いと思う。」


だから待ってってば、何なのこれ。評価されてんの?え?ちょっと、


「チームの一員として協力するようにもなったし、素でいる事の方が多くなっただろう。・・・なんだかんだ言って、松風や西園ともうまくやっていると思うぞ。」


・・・ホント。何なんだよ。わけわかんねぇって。


ついさっきまで感じていた焦燥感や遣りきれない気持ちやなんかを蹴散らして、ただ、なんだこれ、て云う拍子抜けしたような感覚が、胸の真ん中あたりにポンと置かれたような感じだ。

「・・・俺がお前に対して思っている事は、精々この程度だ。」

何か言う事はあるか。
とか、疑問系になり切れていない語調で聞かれたが、なんかもう、あぁそっか、って言いたくなるような感じしかなかった。
そうだよ、此処の連中はみんな、俺の意見なんかお構いなしなんだ。
俺がどんなに虐めたって、俺がどんなに性格悪くたって、・・・俺が信じていなくたって、信じたくなんかないって言ったって、そんなのお構いなしに信じてくれちゃうような、そんな奴ばっかなんだ。
・・・俺が騙したって、仕方ない奴だなって、笑って頭と小突いて終わりにするような、バカみたいな奴等なんだ。

きっと、この不良くんも、そんな奴等に絆された一人なんだろう。ホント、バカばっか。じゃあ、



そのバカ共と一緒に居て、居心地が良いと感じてしまうオレも、大概バカなんだろう。



「ねぇ、剣城くん。」

「オレさ、小学五年生の時、親の会社が倒産して、捨てられたんだ。」

「・・・人を信じるのが怖くなって、騙される前に騙さなくちゃって思った。」

「前の学校では、それで上手く行かなくなって、・・・此処でも同じだと思ってたんだ。」

「それなのにさ、なんか良くわかんないけど、あいつらオレの事全然疑わねぇし、霧野先輩も直ぐ信じてくれちゃうし、」

「・・・バカな奴等だと思ってたのにさ。」

そこまでで言葉を切って、いつの間にか俯いていた顔を少し上げて、剣城くんの顔を見た。焦りやら何やらで気付いていなかったけれど、剣城くんの視線は揺らぐことなく、真っ直ぐにオレを射抜いていて、きっとこの視線は、オレが馬乗りになったあたりからずっと外される事は無かったのだろうなと、漠然とだが妙に確信めいて感じた。


「・・・別に嫌じゃないって、思っちゃったんだよね、これが。」


きっと、大丈夫。

今度はちゃんと、真っ直ぐ目を見て言える。

唾を飲み込んで、少し大きく息を吸い込んだ。





さぁ、やり直そうか。





「近いのは苦しい。
離れて行くのが苦しいから。」


「雨は嫌い。
捨てられた日を思い出すから。」


「話すのは怖い。
騙されるのが、怖いから。」


「気遣われるのは切ない。
同情されてるんだって思うのは切ないから。」


「信じられちゃいけない。
信じたくなるから。」

「信じるのは、」


「・・・信じるのが恐い。」


「裏切られるのが、
・・・大切なものを失うのが、こわいから。」


「・・・・・うん、そうだな。オレがオレについてわかってんのも、精々この程度だ。」

自分の中に溜まっていたものを、全部吐き出して、空っぽになったみたいに。

「・・・・・それで。」

「うん?」

「今のお前は、どうするんだ。」

「・・・うん、そうだなぁ、」

「オレって、天邪鬼だからさ、」

「こんなに素直にべらべら喋ったの、久しぶりなんだよね。」

「だからさ、」


にやりと笑って視線を外して、剣城くんの胸元に頭を埋めた。
真っ赤なシャツをぎゅっと掴んで、全体重かけて、体を預ける。



















「信じて」
信じたい



素直パラドックス
(あぁ、やっぱりオレはこっちの方が落ち着く気がする。)


狩屋がもやもやを吐き出した話


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