隣の席のまつかわくん | ナノ






「それ、好きなんじゃないの?」

藍ちゃんを家庭科室に招き、文化祭用のお菓子を試食してもらっていた。甘い、胸焼けする、と藍ちゃんは言いつつも、全て食べてくれた。この間プリン2つやけ食いしてたことには触れないでおこう。
藍ちゃんに昨日のことを話した。

「だ・・・誰が?」

一応私だって女子だ。それなりに恋愛漫画やドラマを見ている。だからこそ、もしかして、と思ってしまう。そりゃあ、かわいい、とか、期待した、なんて言われたら、都合がいい方に解釈してしまう。そんな経験ないから、尚更。

「あんたが。」
「えっ?!」

なんでそうなるの?文化祭だって、誘ってきたのは松川君であって、昨日だって、なぜか一緒にご飯食べてたし。

「だってずっと松川の話ばっかりじゃない。」
「それは」
「嫌なら私みたいに距離とればいい。」

流石にそこまではできない。
ただ、最近会話する回数が増えて、ちょっとドキッとするようなこと言われたりしてたから、気になって。

「昨日だって、及川が来なきゃずっと見つめ合ってたんでしょ?」
「見つめ合ってた、は誤解を生む発言だよ。」

目を逸らせなかっただけ。

「じゃあ逸らせばよかったでしょ。」
「そんな簡単に言わないでよ。」

まるで時間が止まったように動けなかった。

「ご飯だって、真白の方から席外せばよかったのに。あたしと一緒じゃない時は食堂行ってたじゃない。」
「そうだけど。・・・申し訳なくて。」
「なんで申し訳ないの?一緒に約束してるわけでもないのに。」

藍ちゃんの言うことが正論すぎて、言い返せない。けれど、せっかく松川君がいるのに、席を外すのは違うと思った。

「本当は嬉しかったんじゃないの?」
「・・・わかんない。」
「わからないんじゃないよ、それは。」

わかりたくないだけ。
藍ちゃんはそれだけ言うと、私をじっと見た。

「なんで、松川に好意持たれてるかも、とは思えるのに、自分が松川を好きかも、とは考えれないの?」
「・・・わかんない。」
「・・・そう。」

私の答えに、藍ちゃんは眉を寄せたが、諦めたのか、もう何も言わなくなった。藍ちゃんの言っていることは理解できている。
しかし、どこか、認めたくない自分がいた。








・  ・  ・





「おわっ?!」
「きゃっ」

部活に戻った藍ちゃんを見送り、荷物を取りに教室へ戻る途中、目の前から走ってきた男子生徒とぶつかってしまった。考え事をしていたせいもあり、受け身が取れず、その場で尻もちをつく。
男子生徒はすぐに「ごめん!」と言い、手を差し伸べてくれた。その手をとり立ち上がる。

「本当にごめん、前見てなかったわ。」
「いえ、私の方こそよそ見してて。」

怪我してない?と男子は何度も聞いてくる。尻もちをついただけだから、他は大丈夫だよ。

「もしかして、関口?」
「そうですけど・・・会ったことありましたっけ?」
「あぁ、悪い!俺バレー部の花巻。」
「は、はあ。」
「この間及川にお菓子渡したっしょ?俺も食ったからさ。」
「あ、なるほど。」
「スッゲー美味かったわ、ごちそーさん。」

花巻君はそう言って笑う。お菓子を食べたってことは、一緒にミーティングしてた3年生か。特にトリュフが美味かった、と花巻君は続ける。

「いや、料理部って結構料理うまいのな。もっと活動すりゃあ良いのに。」
「うちは部員が少ないから。」
「そ?残念だな。」

その後も花巻君のお菓子への感想は止まらなかった。彼の勢いには頷くことしかできなかった。
ひとしきり喋った後で、彼はやべっ!と声を上げた。

「部活遅刻してるんだった!俺行くわ!」
「あ、うん。」

本当にごめんなー、とぶつかった時のことをもう一度謝りながら彼は走っていく。
彼の背中を見送った後、ふと視界に何かが入ってそれを確認した。すると花巻君の生徒手帳だった。
私はそれを手に、体育館へと足を運ばせた。







放課後の体育館を訪れるのは初めてだった。出入り口には女子が数人集まっていた。なんだかこの人たちの目に入らない方がいいと思った私は、反対側へ回ることにした。丁度休憩中だったのか、一つの場所にみんな集合している。
花巻君は髪の毛の色が派手だったので、すぐに見つかると思ったが、流石バレー部、みんな背が高くて、簡単に見つからなさそうだった。
奥の方まで目を凝らすと、見慣れた人物をみつけた。松川君だ。

さっきまで練習をしていたのだろう彼は、肩にかけたタオルで、汗を拭いていた。
体育の時間の男子なんて中々見ないので、つい凝視してしていると、隣の人物に目がいった。
小柄な女の子だった。
2つに結われた髪の毛は、ふわふわパーマ。大きいつぶらな目に、白い肌。まるで海外の人形みたいだった。見た目だけではなく、雰囲気まで可愛く感じた。

及川君が言っていた「マネージャー」さんなのだろう。彼女は愛嬌のある笑顔で松川君と話していた。彼もどこか優しそうな顔で話している。

「・・・。」

不意に目を逸らした。なんだか、見たくない。胸の奥がざわざわする。嫌な気分。

「あれ、関口?」
「花巻君。」

私よりも先に体育館に行ったはずの花巻君が、外から声をかけてきた。

「男バレに用?」
「ううん、これ落としたよ。」
「おっと、マジか。サンキュー。」

花巻君に生徒手帳を渡す。

「それじゃ。」
「え?そんだけ?」
「それだけ。」

中に入れば?、と言う花巻君に首を振って否定する。

「本当にそれだけだから。じゃあね。」

それだけ行って走った。
松川君のあの優しそうな顔が頭をよぎる。
きっと、彼にはああいう可愛い子がお似合いなのだ。

あんなに可愛いなら、きっと沢山の人に声をかけられるだろう。
好きな人がいてもきっとすぐに両思いだ。


いいな。
羨ましい。





、好きだな。





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